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ウクライナ参戦 韓国軍人YouTuber 現地詳細語る「この戦争は善と悪の戦い」「露軍を許せない」

イ・グン氏SNSより

「ロシア軍が避難するウクライナ民間人の車を…まさに運転中の車を狙撃する場面を見ました。動画でそれを撮りました。ロシア軍は後に戦争犯罪を問われるでしょう。彼らは悪です」

ウクライナで外国人義勇軍として参加していた韓国人イ・グン氏が、「ウクライナ南部の敵陣で戦っていた」現地の詳細を話し始めている。

3月6日からの現地での戦闘活動中に膝の靭帯を負傷。このため5月28日に韓国に帰国したが、その前後でメディアの取材に応じているのだ。

1984年生まれ、アメリカ育ちの韓国人。大学卒業後に米軍入りを目指したが、国籍を有さなかったため韓国軍に進路変更し、海軍特殊部隊などで活動した。09年から10年にはソマリア沖での戦闘に派兵された経験などがある。2014年に退役後はセキュリティ会社などを運営しつつ、YouTuberとしても活動。2020年に「ニセ男」という番組が大バズりしてブレイクした。一般人を特殊部隊式の訓練で鍛え上げていく内容だった。

イ氏は韓国でウクライナ情勢の変化を聞き、「自分のノウハウを活かさないことがむしろ罪」と思い立った。事前に韓国政府に相談を持ちかけたが、渡航は認められず。これを破っての行動だった。ウクライナからはSNSに「忙しい」などと投稿。いっぽうで「じつは戦闘に加わっていない」「戦争参加をドキュメンタリー映像にまとめようとしている」などとも噂された人物が、再び注目を集めているのだ。

ウクライナ市民権を授与すると言われた

「飛行機を降りて、すぐに逮捕されると思っていました」

本人は28日夜に仁川国際空港に降り立ち、こう語った。本人は韓国政府による渡航禁止令を守らなかった「旅券法違反」で告発されている状況だ。

  • 5月28日、仁川空港に降り立ったイ・グン氏

しかし待ち構えていた警察官10人の警察官とは「健康状態を見て(コロナの隔離期間を置いて)取り調べを始めよう」という話になったという。本人は「警察の取り調べには協力しますと伝えた」。現在は韓国内で隔離を終え、膝の治療をしつつ、警察の取り調べを待つ状態にある。

空港では複数メディアも待ち構えていた。囲みの取材が行われ、こういった内容を口にしている。

「ウクライナ側からは『市民権を与える』と言われましたが、私はそれを取得するのはちょっと違うと思いました。なぜなら私は韓国人ですから」

「気持ちとしては現地に戻りたいと考えている」

その他、「動機」や「現地での詳細」は帰国以前の26日に現地で韓国人ボランティアのインタビューに応じていた。「YTN」がこれを報じている。

  • ウクライナ現地で「ロシアの戦車10台を潰した」と評された情報を伝える「NEWS1」

ロシア軍は「悪」。許せない

「韓国では私の悪口が多く言われていることを知っています。罪を犯していると。しかし私の考えでは、犯したのはいち交通法。人を助けるため、国を守るため私が持っているノウハウや経験を役立てたいと思った。当然のことです」

5月26日、ウクライナ。現地のホテルと思われる場所で「膝の負傷による韓国帰国」を明らかにしたインタビューでは、まず、現地に渡った動機に関する質問に答えた。

「私の職業は何にせよ『特殊部隊(出身)』なのですが、十分に助けになれるにもかからず、何もしないということがむしろ自分にとっての犯罪だと考えました。(ウクライナに来るのは)私にとっては当然のことです。ここに来るということが。負傷をしてまでも任務を遂行しました」

そして5月26日前後の戦況を「東部と南部が深刻」「キーウ近郊は劣勢だったが、今は回復」としつつ、戦地の状況をこう話している。

「戦争犯罪…私も現地で直接目にしました。何を多く見たのかというと…車に…(ウクライナの)民間人が避難しようとするじゃないですか。運転しているそこに(ロシア軍は)砲撃していましたね。直接目にして、カメラにも収めました。こういったデータは後に犯罪記録となるでしょう。私が見る限り、この戦いは単純な『GOODvsEVIL』ですよ」

さらに「ロシア軍を許せない」とも。

「これはウクライナとロシアの戦闘ではない。『いい人達VS悪い人たち』の戦いなんですよ。(韓国で)最初に戦争勃発を聞いて、これを現場で見なければと思ったのですが、直接見てみてはっきりと感じました。ロシア軍を許せないですよ。民間人を殺すこと、性犯罪、学校への砲撃。あってはならないことです」

  • インタビューに応じるイ・グン氏

いっぽうで戦地の雰囲気も語っている。韓国には徴兵制度があるが「誰しもが行って役に立つわけではない」と説いた。

「ただそこに来て力になりたいということでは助けになれない。そこで何をするのか、どう準備したのか、そしてどう助けるのか。それがはっきりとしていなければ、むしろ迷惑になります。より正確に表現するのであれば、外国人部隊には軍人出身がいれば民間人出身もいる。そういった場所に行くわけです。韓国の男性だと最低2年の軍人経験があります。でもここにきて『装備を受け取らなければならない』『再び訓練を少し受けなくてはならない』『準備が必要だ』というのでは助けにはなりません。むしろ迷惑です。もしある軍の出身で『戦争経験があり』『ノウハウもしくは装備があり』『来てすぐに投入されることも可能』そして『ウクライナ軍にアドバイスをできる』というスキルセットがあれば助けになるでしょう」

助けるのなら、無条件で助ける。そういうマインドが必要。お金にはならない。さらに防弾ヘルメット、チョッキなどは持ち込みで行かねばならないという。

参考:「YTN」は「あくまで本人の見解」としてイ・グン氏の露・プーチン大統領に関する考えも紹介している。

「核は使用しないだろうと思うのですが、プーチンは知っての通り予測のしにくい人です。健康状態も良くなく、ガンにかかっています。だから早晩に死ぬと思うのですが、その時までに戦争が終わる可能性が非常に高いです。そういう人のほうが怖いでしょう? どうせ死ぬと思っていて自分のレガシーを残そうとしている人のほうが」

厳しい批判への毒舌反発も

ただし、このイ・グンという人物、SNSでは違った顔を見せている。単にいい人なのではない。

"毒舌"

25日、ウクライナからこういった投稿を行った。

「これまで必死に俺の悪口を言ってきたか? (俺が)生きててゴメンな」

主に韓国内の保守系媒体がイ氏を攻撃してきた。韓国一般紙元デスクが言う。

「韓国の年齢の高い層にとっては、"鼻につく"存在なんですよ。YouTubeをやっててチャラい。SNSで自らのグッズを売ったりもしていますし。軍人たるもの、格式高くあるべきというイメージに反するんです。ウクライナに渡った当初は『海軍特殊部隊は組織で活動するものなのに、個人で行って通用するのか』という疑惑の目も向けられていました」

こういった批判に言い返す。だからまた批判を呼ぶ。帰国後の3日には韓国で自身がブレイクした2020年からの「宿敵」に激しく噛みついた。YouTubeでこう語った。

「可哀想なルーザーたち。すでに滅びたか? おまえたちは韓国で暮らしていることをありがたく思え。お前たちともし戦場で会ったならその行動をスパイ行為とみなし、即座に射殺だ。カセヨン、おまえたちの負けだ」

「カセヨン」とは、韓国の右翼系YouTubeチャンネル「縦横研究所」の略称。登録者数87万人のチャンネルは元地上波記者、弁護士、記者らが出演し、"気に入らない著名人を叩きアクセス数を稼ぐ"コンテンツでも知られる。

イ氏への「攻撃」が始まったのは、2020年に出演した「一般人を特殊部隊の訓練で鍛える」バラエティ番組が大バズリした後から。この際に「縦横研究所(カセヨン)」は「軍での経歴詐称疑惑」や「過去のセクハラ疑惑」をコンテンツにした。

そして「縦横研究所」は今回、イ・グン氏のウクライナ参戦時に際しこんな噂話で動画を作成している。

「ポーランド留学中の韓国人学生による、ボーランドでのイ・グン目撃情報」

  • 5月29日にはドイツのテレビ局がウクライナでのイ・グン氏の様子を報じた。

ウクライナにいるはずのイ氏が、ポーランドのホテルで朝食を食べていたのだという。イ・グン氏はこの「宿敵」に対して、英語でこう続けた。まるで溜まっていた怒りを思い出したかのように。

「この3人のユーチューバーたちは"カセヨン学校"と呼ばれている(幼稚だ、という意味)。代表者はMBC(地上波放送局)から解雇され、ひとりは腐敗した弁護士であり前科者、もうひとりは失敗したメディア関係者」

正義か、違法行為か、はたまた本人のプロモーションか。イ・グン氏へはこの先もこういった視線は向けられそうだ。膝の負傷が癒えるのか。旅券法違反は解決するのか。その際にどういった行動を取るだろうか。まずは近日中に取り調べの結果が発表になるのではないか。

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吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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