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汚物風船 今後どうなる? 韓国の報復案「北朝鮮境界線近くでの爆音拡声器」がヤバいワケ

2024年5月末から6月にかけて韓国で発生した、いわゆる「汚物風船」事件。北朝鮮から韓国に向けて大量の汚物を積んだ風船が飛来する出来事が相次いだ。

背景について、脱北者にして、元朝鮮日報記者のSAND南北コリア研究所のキム・ミョンソン理事はこう話す。

「北朝鮮側の行動の理由はいくつか考えられます。従来、韓国の脱北者団体が北朝鮮に撒いてきた対北ビラへの報復、韓中日首脳会議がソウルで開かれるなど、韓中関係が近づいていることへの不満、偵察衛星発射失敗に対する責任回避および視線を逸らすこと、尹錫悦政権に対する攻撃を通じて韓国内での北朝鮮にまつわる世論を分裂させようとすること、などです」

昨今の北朝鮮による対南強硬姿勢の背景(SAND南北コリア研究所)

5月28日23時頃、韓国の首都圏を中心とした各地に汚物風船が飛来。警察や軍が回収した風船の中には、廃電線、肥料、ゴミ、糞尿、中国製の廃電池などが入っていたことが明らかになった。物的被害や人的被害は報告されなかった。

続く6月1日20時30分頃から6月2日13時頃にかけて、再び韓国各地で汚物風船が確認された。韓国軍合同参謀本部によると、6月2日午後までに合計約720個の風船が発見されたという。この2次散布では、京畿道安山市、富川市、ソウル特別市陽川区で風船の落下により車両3台が破損・焼損する被害※が出た。

※実は韓国では「北朝鮮からの飛来物」に関する被害を補償する法が定められておらず、この点を「SBS」など複数メディアが指摘している。

韓国軍は風船を撃墜せず監視を続けたが、5月29日08時の時点で約90個、同日16時までに合計約260個の風船を回収。その後6月2日までに約1000個以上の風船が韓国領内に飛来したとみられている。

「拡声器」に北朝鮮が「即対応」

北朝鮮は6月2日、汚物風船の散布を一時中断すると宣言。ただし今後、韓国から対北ビラが再び確認された場合は散布を再開すると警告した。

これには大きな背景があった。注目すべきは「拡声器」だ。

韓国側が南北軍事境界線付近で、北朝鮮に向けて大音量にて韓国の体制の優位性を伝える、というもの。

韓国側は、6月2日には大統領室主導の国家安全保障会議(NSC)常任委員会の拡大会議で、対北拡声器放送の再開を議論。早ければ6月4日にも放送を再開する方針を固めた。

前出のキム・ミョンソン氏が解説する。

「韓国政府側が2日の夕方に発表した対応は『2018年9月19日に北朝鮮と結んだ南北軍事合意を暫定中断する』というものでした。その中に対北拡声器の再開も排除しないという内容も含まれます。これに対する北朝鮮の対応が早かった。2日のうちにすぐに汚物風船散布を暫定中断すると明らかにしたのです。対北拡声器の話が入っていたからです。韓国軍は対北拡声器再開の準備はするだろうが、すぐに放送を始めることはないでしょう。南北間の軍事的衝突につながる可能性があるため、現在は準備だけしておいて北朝鮮の態度を見守りながら再開のタイミングを見ているはずです。北朝鮮がまた汚物風船を送ってくるなら、対北拡声器放送を再開するのが正しいと思います」

拡声器の内容「BTS、少女時代、IUも…」

では、その「拡声器」が流す内容はどんなものか。6月2日の「SBS」は関連ニュースのなかで、以下の内容を報じている。

「少女時代やIUのような音楽、北朝鮮人権蹂躙を批判するニュースを伝えた」

「高出力スピーカーにより20km離れた場所にも伝播し、最前線の軍人はもちろん、軍事境界線近くの住民にも生々しく内容が伝わる」

「このため韓国政府は南北間の緊張が高まる度に拡声器の放送の再開、中断を繰り返してきた」

「SBS」は4日の別のニュースでその具体的な内容を伝えている。2015年当時の」「拡声器」の内容だ。

金正恩は民主的手続きを経て北朝鮮の統治者になったのではない。3代にわたって北朝鮮の住民全てを精神的な奴隷にしておいて、ただ首領の息子だから自分も首領にならなければならないという前代未聞の世襲独裁体制に寄生する者、人民の仇であるだけだ。従って我々は金正恩「政権」を絶対に認めない。今日、国際社会が憂慮している北朝鮮の人権蹂躙と核ミサイル開発、テロ、拉致、麻薬、偽造ドル、海外労働者の奴隷労働など北朝鮮が抱えているすべての問題は、金正恩世襲政権の独裁性と関連している

元北朝鮮英国大使館勤務で、脱北後に韓国で国会議員も務めたテ・ヨンホ氏が3日に韓国ラジオ番組に出演し、その「ヤバさ」をこう伝えている。

「南北の休戦線から30km以内に北朝鮮軍70万人が駐在している。北朝鮮軍は攻撃型構造で、かなりの量の部隊が休戦線に密集している」

「電気もない脆弱な状態にあるなか、韓国側の拡声器放送が届くとどうなるか…ニュースやトロット、また韓国側のBTSといった音楽などをずっと聴くことになる」

「北朝鮮の軍人は一旦休戦線に出ると10年いるが、韓国の音楽やニュース、こういうのを継続的に聞くと完全に韓国化されて10年後に故郷に帰るのだ。北朝鮮ではこれは完全に体制の根幹を揺るがすものだ」

実際に北朝鮮にとってこれは深刻なもので、2015年8月には西部の休戦ラインで北朝鮮による拡声器に向けての砲撃事件が起きたほどだ。

韓国最大野党代表も憂慮「世界の人々はどう見るか…」

日本でも韓国でも、今回の件は「汚物風船」と報じられるが、その汚物には動物の糞も含まれている。いっぽう韓国の対抗策は拡声器ゆえ、いわば「大声」による対抗とも言える。そんなことから戦争が始まる事態は起きるのだろうか。

韓国の主要野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は6月5日、こんな内容で状況を嘆いている。

「韓国が対北ビラをまき、向こうが汚物の塊をまく。世界の人々はこの状況をどう思うだろうか。恥ずかしくて顔を上げられない」

6日には韓国で「脱北者団体が再び北朝鮮にビラ風船を飛ばす」というニュースも伝わってきた。今後、韓国側が「拡声器を使う展開」になるとそれは大きな事態につながりかねない。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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