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祝・皐月賞優勝 横山武史騎手が生まれ育った競馬一家とは

花岡貴子ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家
第60回天皇賞(秋)表彰式。横山武史騎手の祖父・横山富雄騎手(提供:競馬博物館)

幼少時から「すごく乗れる」と評判だった横山武史騎手

 第81回皐月賞はエフフォーリアが無敗のまま、横綱相撲で優勝した。鞍上は若干22歳の横山武史騎手。これが初GI制覇となった。ゴール後、力強くガッツポーズを決め、その後、指を1本だけ高らかにあげた。エフフォーリアがGIを勝ったのは"ひとつめ"に過ぎない、というサインである。

 横山武史騎手が「すごく乗れる」という評判は、まだ彼が子供のころ、競馬学校に入る前から聞いていた。競馬一家に生まれた武史騎手が、いずれスターになるであろう、という予感は当時から抱いていたが、実際にその日がくるとは感無量である。

横山武史騎手が生まれ育った競馬一家とは

 横山武史騎手がどのような競馬一家に生まれたのかを解説しよう。

 祖父・富雄さんは昭和の職人といえる騎手だった。フジノオーなどで障害重賞を制覇し、今では当たり前であるが徒弟制度が主流の当時は珍しかった所属なしのフリー騎手の草分け的な存在になった。1969年にメジロタイヨウの主戦となり、11月に行われた第60回天皇賞(秋)を制した。まだ、秋も芝3200mで行われていた時代だった。

 富雄さんは騎手を引退後、沢厩舎で調教助手をしていた。決して饒舌ではなく少々ぶっきらぼうだが、とても優しい方だった。

■過去記事

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 横山富雄さんの長男は現在、競馬学校で教官を務めている横山賀一元騎手。ニュージーランドで騎手をしたあと、日本でも騎手免許をとって騎乗していた。長女の夫が元騎手の菊沢隆徳調教師で、その長男が菊沢一樹騎手。そして、次男の横山典弘騎手の長男が横山和生騎手、三男が横山武史騎手だ。

 富雄さんの妻は奥平真治元調教師の妹。奥平厩舎といえば、三冠牝馬のメジロラモーヌ、メジロライアン、メジロモントレーらを輩出した名門厩舎だ。奥平真治先生は"和"を大事にする厩舎づくりで好成績をおさめた。まだ22歳だった典弘騎手がクラシックを狙うメジロライアンの主戦に抜擢されたのは、血縁という理由だけでなく、騎乗センスの高さが評価されたからだった。

父・横山典弘騎手も22歳で初GI制覇

 1990年、典弘騎手は年初の金杯(現在の中山金杯)をメジロモントレーで鮮やかに差し切ると、22歳になった3月にはメジロライアンで弥生賞を制覇。泥んこの不良馬場を苦にせず差し切った。

 当然、メジロライアンにはクラシック制覇の期待がかかった。横山典弘騎手も「ライアンがいちばん強い」と言ってはばからなかった。しかし、皐月賞は直線で進路を塞がれてハクタイセイの3着。日本ダービーでは1番人気に支持されたが、アイネスフウジンに逃げ切りを許しての2着。菊花賞は同じメジロ軍団のメジロマックイーンが優勝し、3着に終わった。

 1990年11月11日、典弘騎手は菊花賞の翌週、同じ京都競馬場で行われたエリザベス女王杯で初GIを決めた。ゴール前からガッツポーズを決めていた姿は、その年のクラシックでの想いを強く感じさせた。

■1990年エリザベス女王杯 優勝キョウエイタップ 横山典弘騎手

 2021年4月18日、皐月賞(GI)でエフフォーリアを優勝に導いた横山武史騎手はゴール後に力強くガッツポーズをしてみせた。その姿には、30年前の典弘騎手の力強いガッツポーズがダブって見えた。

 父と同じ22歳で初GIを制した横山武史騎手。彼は今後の日本競馬界を背負って立つであろう騎手になる。皐月賞での勝利はその序章に過ぎない。

■2021年皐月賞(GI) 優勝エフフォーリア 横山武史騎手

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ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家

競馬の主役は競走馬ですが、彼らは言葉を話せない。だからこそ、競走馬の知られぬ努力、ふと見せる優しさ、そして並外れた心身の強靭さなどの素晴らしさを伝えてたいです。ディープインパクト、ブエナビスタ、アグネスタキオン等数々の名馬に密着。栗東・美浦トレセン、海外等にいます。競艇・オートレースも含めた執筆歴:Number/夕刊フジ/週刊競馬ブック等。ライターの前職は汎用機SEだった縁で「Evernoteを使いこなす」等IT単行本を執筆。創作はドラマ脚本「史上最悪のデート(NTV)」、漫画原作「おっぱいジョッキー(PN:チャーリー☆正)」等も書くマルチライター。グッズのデザインやプロデュースもしてます。

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