Jリーグ開幕。気鋭の監督が率いる松本山雅はJ1でも旋風を巻き起こせるか?
いよいよ2015年のJリーグが開幕する。注目ポイントはいろいろあるが、特に期待したいのがJ1初挑戦となる松本山雅FCだ。
■“隙を与えず、隙を突く”反町康治の哲学
3月7日(土)の開幕戦では豊田スタジアムで名古屋グランパスと対戦する松本山雅。これまで天皇杯などで数々のジャイアントキリングを起こしてきたが、J2に昇格した2012年に反町康治監督が就任すると、大きな成長を遂げてわずか3年でJ1昇格を果たした。
初のJ1での戦いに備えて多くの新戦力が加入したが、タレントをそのまま足し算すれば”降格候補”であることは確かだろう。しかし、厳しいトレーニングによって身に付けたハードワークと一貫した堅守速攻のスタイルを継続しながら、試合ごとに徹底した対策がうまくはまれば、周囲をあっと驚かせる躍進も十分にありうる。
そのスタイルは現在の日本サッカーに欠けている“隙を与えず、隙を突く”哲学を地で行っており、松本山雅の躍進が、ACLで苦戦が続くJリーグ勢を目覚めさせるきっかけとなるかもしれない。
松本山雅をメインエピソードの1つとしてまとめた著書『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』のインタビューで反町監督はこう語っている。
「例えば去年のブンデスリーガだったらブラウンシュバイクが上がって来たとか、今シーズンはパーダーボルンとか、そういうあまり馴染みのないクラブが出て来ると、注目して観てしまう。数年前のトゥヘル監督のマインツもそうだった。(ブラジルW杯の)チリもそうだけれど、そのチームや率いている監督がどんな経歴なんだろうとか、インターネットや映像を見たりするわけだよ」
「そういうクラブに自分が注目して見ている自分と同じ様に、松本山雅もそうして注目されている部分はあるかもしれない。要するに『松本山雅?聞いた事もないな』というチームが下馬評の低い中から上がってきたわけだからね。でも、何もしなくて、例えば番狂わせを起こそうと思って起こせるもんじゃないから。それなりの準備とか、分析とか、サポーターの力とか、雨とか風とか、色んな理由が必ずある」
■全ての試合がジャイアントキリング
対戦相手を徹底的に分析し、勝利のエッセンスとして注入していくのが反町のスタイルではあるが、戦い方の基本はほとんど変えない。攻撃での人数のかけ方や守備の位置は対戦相手うんぬんよりも、あくまで試合の流れで変化するものなのだ。そのことに関して柴田峡コーチは「トレーニングに関しては、相手がどこだからと言って変えることは基本的にはしないですね」と語る。
「例えばジュビロ磐田やガンバ大阪が相手だから、少し全体のラインを下げようとか、そういうことはしなかったですね。やはりうちのやるべきサッカーを守備から入っているというか、守備の約束事がかなりソリッドになっているので、ボールの位置によって守備を変えて行くというやり方は取っていますけど」
それでは毎試合、ミーティングで指示する相手の対策はどういうものなのか?「それはディテールです。かなり細かいところ」(柴田コーチ)。試合の前日か前々日に1時間のミーティングを行い、そこで反町監督やコーチングスタッフが分析を重ねて導いた対策を徹底的に伝える。「僕らスタッフはスカウティングをしてからのミーティングなので当たり前ですけど、自分が選手ならそんなに長いのは絶対に嫌なんですよ」と柴田コーチは語るが、それこそが反町のすごさであることを認めている。
「格下相手であれば15分、格上なら1時間というわけじゃないんですよ。ソリさんの中でも、それをやっちゃう勝負の世界はいけないというのがあって、なかなかそれを分かっていても継続するのは難しいじゃないですか。そこがぶれないというか、どんな相手に対しても自分のスタンスを崩さないんですよ」(柴田コーチ)
どんな相手との試合にでも真摯に臨み、戦術面だけでなくキャラクターや人間性のところでも隙を作らない姿勢が、研ぎ澄まされたチームを作り上げていったとも言える。「全ての試合がジャイアントキリング」と語る反町監督にとってJ1は湘南時代、昇格の1年目に最下位で降格という苦い思いをした舞台でもあるが、戦い方にブレも妥協も無い。気鋭の指揮官が率いる松本山雅がJ1に大きなインパクトをもたらすのか、それとも戦力差の壁に跳ね返されるのか。日本サッカーの革進にもつながりうる彼らの挑戦に注目したい。