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カゼミーロとホイビュルク。ジダンとモウリーニョが描く「ボランチ像」とチームを支える心臓。

森田泰史スポーツライター
リヴァプール戦のホイビュルク(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

名将には、信頼を置ける選手というのが、必ずいる。

現代フットボールにおける中盤の重要性は言うまでもない。彼らはオーケストラの指揮者のように、あるいはハリウッド映画の映画監督のように、ピッチの中心からチームメートを動かしている。

セルヒオ・ブスケッツ(バルセロナ)、コケ(アトレティコ・マドリー)、ロドリ・エルナンデス(マンチェスター・シティ)、マルコ・ヴェッラッティ(パリ・サンジェルマン)...。ビッグクラブで必要不可欠な選手にまで成長したプレーヤーたちだ。

デ・ブライネと競り合うカゼミーロ
デ・ブライネと競り合うカゼミーロ写真:なかしまだいすけ/アフロ

「彼についてはあまり知らなかった。だけど実際のところ、真のリーダーだ。彼はブラジル人のイメージを変えてくれたと思う。これまで、ブラジル人の選手には、怠惰というイメージがあった。でも、彼はいつも『ジムに行こう』とか『アイシングをしよう』とか言っている。そういった姿勢は僕に多くを教えてくれた」

レアル・マドリーのロドリゴ・ゴエスは、そう語る。ロドリゴが言う「彼」というのは、カゼミーロのことだ。

カゼミーロは2012年にマドリー・カスティージャ(Bチーム)に加入した。ただトップチームの壁は厚く、カルロ・アンチェロッティ監督からは重宝されなかった。

だがクラブ内にはカゼミーロを評価する人間もいた。「カスティージャ時代、カゼミーロはすでに存在感を示していた。2部昇格に貢献していたし、空中戦のボールをヘディングで跳ね返してインターセプトを繰り返す様は(フェルナンド・)イエロを思い起こさせるものだった」とフロレンティーノ・ペレス会長が振り返っている。

2014年夏にポルトにレンタル放出されたカゼミーロは、2014-15シーズン、そこで公式戦41試合に出場する。ラファエル・ベニテス監督の短期政権を経て、ジネディーヌ・ジダン監督が就任すると、カゼミーロは不動のボランチになる。カゼミーロ、トニ・クロース、ルカ・モドリッチの盤石の中盤は「BBC」以上に指揮官にとって重視されるようになった。

2017-18シーズン、マドリーはチャンピオンズリーグで3連覇を達成した。15-16シーズン(公式戦35試合出場)、16-17シーズン(42試合出場)、17-18シーズン(48試合出場)とカゼミーロは地位を確固たるものにしていった。

潰し役を担うホイビュルク
潰し役を担うホイビュルク写真:ロイター/アフロ

青年は、ジダンに憧れて育った。

だが彼をトップデビューさせたのはジョゼップ・グアルディオラ監督だった。バイエルン・ミュンヘンで指揮を執っていたグアルディオラがピエール・エミール・ホイビュルクをトップの試合に出場させた時、彼は17歳であった。17歳251日でのデビューは当時の史上最年少記録になった。

アウグスブルク、シャルケを経て、2016年夏にサウサンプトンに移籍する。ラルフ・ハーゼンヒュットル監督の下、主将を務めるまでになった。そのホイビュルクの獲得を、ジョゼ・モウリーニョ監督が熱望した。

トッテナムは近年、ハリー・ケインがプレーメーカー的な役割を担っていた。ストライカーでありながら、中盤に降りてきて攻撃を司るケインこそがオーケストラの指揮者だった。しかしながらケインの不在時には、別のチームになってしまう。モウリーニョ監督は解決策を探していた。

モウリーニョのチームというのは、基本的に堅守速攻のスタイルだ。ポルト、チェルシー、インテルで名を馳せたポルトガル人指揮官は、スピーディーな攻撃、つまりカウンターとダイレクトプレーを信条にした。格上の相手に対しては、決して研究を怠らず、弱点を見つけて針の穴を通すような鋭いアタックで一瞬にして勝負を決めてきた。

「ケイン依存」と「カウンター一辺倒」を打破する鍵が、ホイビュルクの獲得だった。ホイビュルクの加入で、トッテナムのビルドアップは円滑になる。後方からボールを繋ぎ、なおかつ中盤で潰し役になる。リアクション・フットボールでも、主導権を握る展開でも、どちらでも対応できる。

そして、それはサウサンプトンでハーゼンヒュットル監督の指導を受けた影響が大きい。「ラルフ(ハーゼンヒュットル)は中盤の選手にフレキシブルさを求めていた。短中距離のスプリントをこなしながら、ダイナミックにプレーして、かつ戦術の核になる。試合中にシステムをチェンジするので、ゲームを読む力が必要になる」とはホイビュルクの言葉だ。

モウリーニョ監督とホイビュルク
モウリーニョ監督とホイビュルク写真:代表撮影/ロイター/アフロ

映画監督は撮影時にモノを俯瞰で見なければいけない。それはフットボールのピッチでいえば、バード・アイ(鳥の目)を持ちながら、自分のポジショニングを決定しつつ味方に指示を与えなければならないということだろう。

その中で、演者やスタッフに指示を出しつつ、作品を作り上げていく。トッテナムという作品は、如何様に仕上がっていくのか。ピッチ上で味方に檄を飛ばすホイビュルクを見て、そんなことを思うのである。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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