豊島竜王、深夜の熱戦を制して斎藤八段の連勝をストップし、名人挑戦争いに踏みとどまる A級順位戦5回戦
12月9日。大阪・関西将棋会館において▲豊島将之竜王(30歳)-△斎藤慎太郎八段(27歳)戦がおこなわれました。
朝10時に始まった対局は深夜1時0分に終局。結果は147手で豊島竜王の勝ちとなりました。
勝った豊島竜王は3勝2敗。名人挑戦権争いに踏みとどまりました。
敗れた斎藤八段は4勝1敗。依然単独トップではありますが、ついに連勝はストップしました。
豊島竜王、深夜の最終盤を制する
豊島竜王先手で戦型は角換わり。後手の斎藤八段は右玉の作戦を取りました。その趣旨からして、徹底的なウェイティング戦術なのかと思いきや、昼食休憩後、斎藤八段の方から桂を跳ね出し動いていきます。
前哨戦のあと、両者ともに駒を組み換えました。そして斎藤八段は玉を逆サイドへと移動させていきます。
午後はスローペース。夕食休憩前後から、本格的な戦いが始まりました。
しばらくは豊島竜王の攻めが続きます。対して斎藤八段は辛抱強く、丁寧に受け続けます。
91手目。豊島竜王はただで取られるところに銀を打って王手。強烈なパンチです。取れば王手飛車。逃げれば打った銀が寄せの拠点として残ります。
ここは大きな二択でした。
斎藤八段は24分を使い、王手飛車をかけさせる方を選びます。飛車を渡す代わりに手番を得て、今度は斎藤八段が豊島玉に迫っていきました。形勢不明の終盤戦です。
97手目、豊島竜王は歩で頭を叩かれた左側の金を、引いて逃げます。持ち時間6時間のうち、残りは豊島1時間10分、斎藤1時間18分。
ここから斎藤八段がこんこんと考えます。詰将棋解答選手権の優勝経験が示すように、斎藤八段は終盤力が高い。しかし局面は複雑で、斎藤八段をもってしても勝ちに至る道筋を見つけるのは、容易ではなかったようです。
斎藤八段はじつに56分を使いました。今度は豊島陣右側の金の頭を歩で叩きます。豊島竜王は相手の長考中に一緒に考えてある程度読みが一致していたのか、4分ほどの小考で、左にスライドさせて逃げました。形勢は不明。ただし時間では大きな差がつきました。
進んで形勢も、豊島竜王よしがはっきりとしてきます。
「いやいやいやいや・・・」
豊島竜王が席をはずしている時、斎藤八段からはそんな声がもれました。
109手目。豊島竜王は相手の寄せの拠点である8筋の歩に対して、じっと歩を合わせて受けます。忙しそうな最終盤。表情も変えず、なんとも落ち着き払った冷静沈着さを見せます。
豊島竜王は頭の丸い相手の桂と角の前に自玉を進め、つかの間の安全を確保しました。コンピュータ将棋ソフトは豊島竜王勝勢と形勢を示します。
ただし、人間同士の対局はもちろん、最後までなにが起こるのかはわかりません。
斎藤八段は自陣に金銀を打ちつけて粘ります。そして一手の余裕を得て、歩を打ち豊島玉に詰めろをかけました。豊島竜王は金を上がって受け、残りは18分。対して斎藤八段はここで6時間の持ち時間をすべて使い切りました。
「斎藤先生、これより一分将棋でお願いします」
深夜0時21分頃。記録係がそう告げて、斎藤八段はこのあと一手60秒未満で指すことになります。
126手目。豊島竜王は18分を残していました。現状、自玉は詰まないものの、相手玉を寄せる際に駒を渡したらどうなるのか。ほとんどの観戦者はソフトの評価値を見なければ、どちらが勝勢なのかわからないかもしれません。
残り10分を切った豊島竜王。一度顔を天井の方に向け、そしてもう一度盤面を向きます。その仕草からは、形勢を楽観しているようなそぶりは感じられません。そして残り2分まで考えて斎藤玉の上部に角を打ちます。
斎藤玉は受けなしに追い込まれました。ただし斎藤八段の駒台には桂が1枚加わった勘定になります。斎藤八段は豊島玉に王手をかけ続けます。
頓死の筋はいくつもある中、豊島竜王は正解を選び続けました。最後は斎藤陣三段目にまでもぐりこみます。
斎藤八段は王手をかけながら、自玉上部の馬(成角)を消すことはできました。しかし145手目。豊島竜王が王手をかけながら自陣に据えた、遠見の角がぴったりです。
斎藤八段は攻防ともに見込みがないと判断。熱戦の余韻を感じさせるような投了図を残して、そこで「負けました」と一礼をしました。
終局はちょうど、深夜1時でした。
斎藤ファンにとってはもちろん、残念な敗戦でしょう。しかし唯一の無敗者が消え、名人挑戦権をめぐるレースはさらに面白くなってきたと言えそうです。