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菅「官房長官」が珍しく笑顔 最後の定例会見で語った”危機管理の心構え”とは

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

菅氏は9月14日午前、官房長官として最後の定例記者会見を行いました。その中では危機管理力について多くの質問があり、珍しく笑顔で回答。最後ということもあったのでしょうか、記者からのストレートな質問に不機嫌な様子はありませんでした。危機管理の心構えとしても参考になる内容でした。

記者の誘導に乗らず、自分の土俵に持ってくる

菅氏のコメントの特徴は、とにかく短いこと。そして常に記者の誘導に乗らず、自分の土俵で切り返す力がありました。さらに、その場にふさわしくない質問は、徹底的に嫌な表情で睨み返す。今回の記者会見でもそれは徹底していました。唯一違ったのは笑顔が多かったことでしょうか。新しいステージに立てることの気持ちの高揚が出ていたようです。記者側もお祝い気分があり、全体的に雰囲気のよい記者会見であったと思います。見ていて心地がよいと感じました。記者とのやりとりを観察してみましょう。

記者―政権のスポークスマンとしてどういった心がけで臨んできたのか。印象に残る会見は何か。

官房長官―午前、午後の会見に加えて危機時の会見で3200回以上行ってきた。政府の立場や見解を正確に発信する貴重な機会。丁寧に誠実に臨んできたと思っている。全てが印象に残る会見だ。

印象に残る会見をどれか1つだけを取り上げてない点に着目です。1つだけ取り上げるとそこが見出しになってしまい、思わぬ方向へ影響が及んでしまうことがあります。守りの回答でした。

記者―菅氏の師である梶山静六元官房長官をある意味を超えることができたと思える点があるといえるかどうか。

官房長官―当選直後に梶山先生に言われたことは「政治家の仕事は国民の食い扶持を探すことだ。役人の言葉を鵜呑みにせず自分の頭で考えろ」。これを念頭に全力で取り組んできた。まだまだ足りないところがある。謙虚に耳を傾けながらやっていきたい。

これは記者の質問に答えていません。回答するわけにはいかない内容だからです。ここは切り返して、自分の信念を述べる方向転換を図っています。自分の土俵に乗せている典型例といえるでしょう。

記者―危機管理について。これまで最大の危機と感じたのはいつか。

官房長官―危機管理に関して重視したことは縦割りの排除し、政府一丸となっていくこと。官房長官として危機管理は最優先課題として取り組んできた。振り返ると、アルジェリアの人質事件、度重なる災害、北朝鮮ミサイル問題など数多くの緊急対応をしてきた。先頭に立って対応してきたと思っている。

これは質問がうまい。「印象に残る会見」ではなく「最大の危機と感じた時」となると、答えないわけにはいきません。それでも1つだけでなく、いくつか挙げています。のちの回答とも一致しています。安全保障、災害、在外邦人の安全。「先頭に立って」と添えることで自分がリーダーにふさわしいこともさりげなくアピールしています。

記者―次の内閣に求められる危機管理とは

官房長官―国民の生命と平和な暮らしを守ることは政府に課された最大の使命。いついかなる時も危機管理に緊張感を持って万全の態勢であたるのは当然のこと。安全保障上の脅威、自然災害、海外に在住する邦人へのテロの危険などさまざまな危機、緊急事態には緊張感を持ち、的確に救出しなければならない。

危機管理においては、「何を守るのか」が最も重要な判断基準となります。その意味で「国民の生命」「平和な暮らし」を最初にストレートに持ってきたことで、何を守るのかがわかっていることを表現しています。

失言リスク回避のポイントは全てを言わないこと

次のやり取りは、危機管理広報の視点から私が最も注目した点です。

記者―3000回を超える記者会見を行ってきました。失言をしないために心がけていたことは何でしょうか。

官房長官―全てを発言しないこと。ある程度余裕を持たせて説明したことがよかったのかなと思う。

記者―丁寧ではないと思われてしまうが。

官房長官―それも含めて会見はなかなか難しいと思う。

記者―長官は、インタビューなどでパウエル元国務長官から、記者には質問する権利があるが、私には答えない権利があると言われて気が楽になったという回答をしていた。答えない権利ということも念頭に対応してきたのか。新たに就任する官房長官もそういう姿勢であればよいとお考えか。

官房長官―政府の見解を述べるので、それ以外のことはなかなか言えない。それを超えて発言してしまうと間違ってしまう。

説明しすぎると失言リスクは高まりますが、かといって説明しなさすぎると不信感となります。そのバランスが難しいのです。この回答を意外だと思う人はいるかもしれません。説明責任とは、全てを説明すること、と誤解している人がいるのではないでしょうか。「何を守るのか」を中心に、説明しないという選択肢もあるのは事実です。危機管理広報の視点からも、何を守るのか、何を言わないかを明確にしないで記者会見をすると失敗してしまうリスクは高まります。

記者―歯切れのいい回答がもらえず忸怩たる思いがあったが、次のステージに行ったら新しい長官の姿は見られるのか

官房長官―次のステージに行けるかどうかわからないから、その時点でということ。そういう意味ではだいぶ変わってくるのだろうと思う。

トップになれば、政府見解というよりもリーダーとしての見解を述べることができるようになります。その意味でトップとセカンドでは会見のコメントが変わってくるといえます。

官房長官としての菅氏は、質問する記者を見ない、表情が乏しいといった表現力に課題はあったものの、質問さばきは正直「うまい」と思っていました。これからは政府の見解、守りのコメントだけではなく、国のリーダーとしてのメッセージ発信となります。コメント力だけでなく、雰囲気づくりも含めた演出力はどう変化するのでよしょうか。これからの表現力を引き続き注視したいと思います。

<参考サイト>

9月14日 午前 官房長官定例記者会見

https://www.youtube.com/watch?v=-9BFe1ebUNI

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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