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今季のJリーグの隠しテーマ。川崎と横浜FM、どちらの攻撃的サッカーが本物か

杉山茂樹スポーツライター
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 終了間際、マルティノスに強烈な左足キックを決められ、19位の仙台にまさかの引き分け。首位を行く川崎フロンターレは、16試合を終了して13勝3分、勝ち点を42とした。しかし、2位の名古屋グランパスが同日、鹿島アントラーズに0-2で敗れたため、その差は勝ち点10に広がることになった。

 昨季、川崎が2位ガンバ大阪に勝ち点18差をつける独走劇を演じたJリーグ。今季も、昨季と同様の事態に陥れば、それはJリーグの低迷を意味する。リーグそのもののレベルが疑われることになる。

 鹿島に完敗した名古屋の戦いを見る限り、名古屋に川崎の独走を阻む力はないと読む。混戦を願うJリーグファンにとって頼みの綱は、もはや現在3位につける横浜F・マリノスに絞られたと言っていい。

 横浜FMは5月9日、ホームでその時5位だったヴィッセル神戸と対戦。2-0と完勝し、順位を4位から3位へ上げた。

 勝ち点は27に伸びた。消化試合数は川崎、名古屋より4試合分少ない。その4試合すべてに勝利すれば、勝ち点は39に達する。名古屋を抜き、首位川崎に3ポイント差(プロ野球で言う1ゲーム差)まで肉迫する。

 横浜FMは、一昨季(2019年)のJリーグ覇者。2017年、2018年シーズンのJリーグを連覇した川崎の3連覇を阻んだ。川崎はそのシーズン4位に終わった。横浜FMとの勝ち点差は10だったが、サッカーの内容には、それ以上の開きがあった。

 川崎と言えば、前任の風間八宏監督の時代から、パスを繋ぐ攻撃的で、見映えのいいサッカーを追求してきたチームだ。鬼木達監督に代わると、そのサッカーはさらに進化。2017、2018年の優勝はその産物と言えた。ところが2019年、アンジェ・ポステコグルー監督率いる横浜FMに、あっさり先を越されてしまう。今日度、よいサッカー度、攻撃的サッカー度等々、そのお株を横浜FMに奪われることになった。

 2020年シーズンは川崎が巻き返した。2019年の横浜FMを凌駕する攻撃的なよいサッカーを見せた。奪われたお株を奪い返す展開となった。横浜FMは一気に9位まで沈んだ。したがって今シーズン前、横浜FMの下馬評は、けっして高くなかった。鹿島アントラーズ、名古屋に劣っていた。

 しかし、鹿島は開幕するや旧態依然としたサッカーに陥り、監督交代にまで発展するドタバタに陥った。名古屋もここに来て勢いを失ったかに見える。

 横浜FMは、昨季の上位チームの間隙を縫うように、スルスルと上がってきた感じだ。一昨季の覇者。力はあるのにダークホース的というキャラクターで。一方2連覇を狙う川崎。現在、13勝3分けという圧倒的な成績で飛び出しているが、昨季から戦力を大きくアップさせているわけではない。スタメン級の補強は、ポルトガルへ渡った守田英正の代わりに、ジョアン・シミッチを獲得した程度だ。地味な補強に止まった。ほぼ横ばいの戦力で今シーズンに臨んでいる。マックス値をさほど上げていない川崎が、今季も独走することになれば、Jリーグのレベルが疑われる――とは、先述したとおりだ。

 横浜FMは川崎と同様、攻撃的サッカーを標榜するチーム。川崎に奪われたお株を奪還するという意気地もあるはずだ。どちらの攻撃的サッカーが本物か。クオリティが高く、魅力的か。それが今季のJリーグの隠しテーマであるような展開になりつつある。

 まず川崎。マックス値こそ上がっていないが、安定感は増している。昨季の優勝で、三笘薫、旗手怜央、田中碧、山根視来など昨季台頭した選手が、いっそう自信を深めている印象だ。昨季、Jリーグのベスト11から漏れたCFレアンドロ・ダミアンも、早くも10ゴールをマークし、昨季の数値(13ゴール)を上回る勢いだ。

 チームとしての1試合の平均得点は2.6。昨季とまったく同じ数値を保っている。失点は昨季が0.8で、今季が0.9。得失差は昨季が1.8で、今季が1.7だ。昨季の数字が凄すぎたので、このわずかな数値の減少はまったく気にならない。

 一方の横浜FMは、1試合の平均得点が2.1で、失点が0.7だ。得失差は1.4。川崎より地味である。失点では今季の川崎を0.1勝るが、得点は0.5点も少ない。それが現在の順位に反映されている格好だ。川崎のようにいつでも点が取れそうな気配はしない。

 ただし安定感はある。攻守のバランスは、昨季はもちろん、優勝した一昨季よりいいくらいだ。光るのはマルコス・ジュニオール。所狭しと駆け回る、神出鬼没の1トップ下だ。川崎にはない魅力でもある。

 その前で構える3トップ(左から、前田大然、オナイウ阿道、エウベル)も力強い。川崎の3トップ(左から、三笘、レアンドロ・ダミアン、家長昭博)のような認知度こそないが、その分、新鮮さがある。特に日本人の2人は伸び盛りだ。スピード系の前田。底が割れていない魅力を備えたオナイウ阿道。この2人でチームの全25点中16 ゴールを叩き出している。

 それに比べると右ウイング、エウベルの得点力(2点)は落ちる。だが、今季加入したこのブラジル人選手の、ウイングらしいウイングプレーは貴重に見える。チームに余裕があると見るや、三笘が構える左サイドにまで進出していく川崎の家長とは違い、右サイドのカバーに徹している。攻守が切り替わった瞬間。そこが穴になることはない。

 川崎は反対に、バランス的に右サイドが唯一の問題箇所になる。右サイドは時に人数不足になる。その瞬間、攻守が切り替われば、右サイドは穴になりやすい。カバーする選手が右SB山根1人しかいないので、相手にそこを突かれやすいのだ。

 山根の負担は大きい。チーム内で唯一、フルタイム出場を果たしている。他のポジションには交代選手が控えているが、右SBはいない。山根が怪我や、出場停止処分になったとき、どうするのか。戦力ダウンは否めない。

 ストロングポイントは、三笘のいる左サイドだ。それに対して、各チームともに引いて構えすぎる傾向にある。三笘と対峙する右SBが、怖がりすぎるというか、自重しすぎる傾向がある。結果的に三笘が高い位置でボールを受けやすい状態にある。プレッシングの発想を忘れた対応をしていると言うべきである。

 三笘がボールを低い位置で受けるほど、その目指すべくゴールラインまでの距離は遠くなる。低い位置でボールを受けるほど、三笘は自分自身の良さを発揮しにくくなる。少なくとも決定的なプレーに及びにくくなる。ポイントは、三笘にいかに守備をさせるか、だ。右の家長についても同じことが言える。両ウイングの始動をいかに低い位置に抑えるか。相手のストロングポイントは、プレッシング的な思考に基づけば、ウイークポイントでもあるのだ。

 川崎と横浜FM。両者は開幕戦ですでに対戦し、川崎が2-0でそのホーム戦を飾っている。横浜FMホームの第2戦は、なんと最終週(12月4日)。両者の争いが、そこまでもつれることを期待したい。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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