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史上最多のチームジャパン16人がGPファイナルへ、日本の強さのワケは? 〜シニア女子編〜

野口美恵スポーツライター
NHK杯で日本女子が表彰台を独占した(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

今季のGPシリーズは、日本選手がかつてない勢いで世界を席巻している。世界トップ6のみが出場できるGPファイナル(12月5-8日、フランス)に、女子は過去最多の5人、男子も2人、ペアは1組が出場。ジュニア勢も、女子3人、男子2人、ペア1組が進出した。史上最多となる合計16名のチームジャパンが、フランス・アルプスの街グルノーブルへと向かう。日本の強さの秘訣は何か、そしてGPファイナルの行方を展望する。

“目指せ、真央ちゃん・大ちゃん”

今の日本の強さを語るには、トリノ五輪シーズンの急激なフィギュアスケートブームを振り返らなければならない。まだジュニアの浅田真央が15歳でGPファイナルを制し、さらにトリノ五輪では荒川静香がアジア人初の金メダルを獲得した。一方、高橋大輔はスケートアメリカ初優勝とGPファイナル銅メダルと急成長。安藤美姫や織田信成も含めた日本勢が一気に世界のトップへと躍り出て、スケートブームが起きた。

それと同時に、テレビ放送されていなかったフィギュアスケートの各大会が、地上波のゴールデンタイムに放送されるようになる。子どもたちの憧れのスポーツは、サッカー、野球についで3位がフィギュアスケートという状況に。世界のトップを目指すことが、子どもたちの共通の目標になった。“目指せ、真央ちゃん・大ちゃん”で育ったのが、今活躍する20歳前後の選手たちだ。

さらに、北京五輪でメダルを獲得した坂本花織、樋口新葉、鍵山優真、三浦璃来&木原龍一らが、進化しながら現役を続行。若手スケーターらが「五輪のメダルを取った先輩たち」を基準に強化していくことで、ハイレベルな選手層が育成された。

フランス杯で演技する樋口
フランス杯で演技する樋口写真:ロイター/アフロ

樋口は安定感、坂本は「前半から全力で」の気持ち

日本から5名が進出したシニア女子は、第6戦・中国杯の最後まで、誰が進出するか予想のできない激戦だった。最初にファイナル進出を決めたのは、樋口新葉(23)だった。スケートアメリカで優勝、フランス杯で2位となり、安定感ある演技が光った。

樋口は、北京五輪後は、右足の負傷のために1シーズン休養。怪我明けとなった昨季は、「一つひとつのことが出来るようになっていく過程が楽しくて、スケートを改めて面白いなと思い、向き合い方が変わった」という。トリプルアクセルにも挑戦するなど、自分の力を確認するシーズンだった。

それに対して今季は、「楽しいだけの気持ちから、やはり競技を続けるなら目標を見て一生懸命に進む気持ちが大切だなと、昨季の終わりくらいから変わりました。自分に集中して、安定感のある演技をしたい」と樋口。すべてのジャンプを確実に降り、ショート、フリーともに自身のフットワークや演技の魅力をしっかりアピール。勝敗にこだわるのではなく、自分の力を出し切ることに集中することで、彼女の魅力がより一層伝わるようになった。

続いてファイナル進出を決めたのは、世界選手権3連覇の坂本花織(24)。普段はスロースターターと言われる坂本だが、今季は着実に調子を上げている。初戦のスケートカナダはミスがありながらも201.21点で優勝、NHK杯は231.88点の今季世界最高点で優勝した。

坂本の高得点を支えているのは、演技構成点(PCS)の高さだ。GPファイナルに進出している他の選手が、7点台後半〜8点台後半をマークしているなかで、坂本はNHK杯のフリーで9.43~9.57点と高得点をマーク。優勝の原動力となっている。

NHK杯のフリーで渾身の演技を披露した坂本は、スケートカナダの演技と比較して、こう話した。

「今日は、『後半どうなろうと、前半の3回転+3回転は決めよう』という気持ちで全力で跳びました。このプログラムはハードなので、後半まで体力を持たせたいと思うと、前半で守りに入って(ミスが出て)しまいます。でも守りに入るのは自分らしくないなって今回気づけたので、すごく良い試合になった感じがします」

GPファイナルに向けては「連覇はあまり考えずに、自分のその時出来る一番の演技をしたいと思います」と語った。

トリプルアクセルジャンパーの吉田
トリプルアクセルジャンパーの吉田写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

トリプルアクセルの吉田、演技派の千葉、スケーティングの松生が初出場

一方、吉田陽菜(19)、千葉百音(19)、松生理乃(20)の3人は、第5・6戦の激戦を勝ち抜いて初出場を決めた。

フィンランディア杯では、トリプルアクセルジャンパーの吉田がショート首位発進を決めたあと、守りに入らず、フリーでトリプルアクセルに挑んだ。吉田のトリプルアクセルは質が高く、テイクオフに思い切りがある。回転不足もとられずにGOEでプラス評価されるトリプルアクセルを跳ぶ能力があるので、期待が持てる。

松生はフリーで、出来栄え(GOE)がすべてプラスという、芸術作品のような演技を披露。フリーは首位、総合2位で、ファイナルへの可能性を濃厚にした。もともと山田満知子門下生の松生は、ディープエッジを生かしたスケーティング力が光る選手。今季は滑りとジャンプと精神面のすべてが上手く噛み合い、安定した結果に繋げられるようになった。

混戦で迎えた第6戦の中国杯は、千葉、住吉りをん(21)、渡辺倫果(22)の3人がファイナルへの切符を争った。ショートは、千葉が70.86点で首位、住吉が70.48点で3位、渡辺69.08点で5位という大激戦。緊張のなか迎えたフリーは、その重圧のなか見事な演技を見せた千葉が2位となり、ファイナル進出をもぎとった。日本女子初の4回転トウループ成功者である住吉は、ジャンプのミスを最小限に抑える演技をみせ、2戦連続の200点超えとなる202.45点で4位。渡辺はトリプルアクセルに挑み、196.95点の高得点ながら4位となった。結果的に、松生がファイナル進出を決めた。

日本勢に立ちはだかるのは、フランス杯と中国杯で優勝し、今季絶好調のアンバー・グレン(米国)。ショート、フリーともにトリプルアクセルを高い成功率で決めており、ジャンプ構成としてはファイナル6人のなかで一番難度が高い。一方で、急成長ということもあり、滑りの技術や演技力に対して、まだ演技構成点が伸びていない印象もある。プログラムを滑り込んで個性が醸し出されてくると、一気に世界トップを狙える選手に急成長するだろう。

日本女子にとっては、GPファイナルの翌々週に全日本選手権を控えている。帰国後、すぐにもう一度ピークを作り、渡辺、住吉、三原舞依らとの激戦に挑むことになる。シーズン後半の国際大会への派遣を勝ち取るためにどんなピーキングをしてくるのかも、1つの作戦として見守りたい。

スケートカナダで演技する松生
スケートカナダで演技する松生写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

スポーツライター

元毎日新聞記者。自身のフィギュアスケート経験を生かし、ルールや技術、選手心理に詳しい記事を執筆している。日本オリンピック委員会広報としてバンクーバーオリンピックに帯同。ソチ、平昌オリンピックを取材した。主な著書に『羽生結弦 王者のメソッド』『チームブライアン』シリーズ、『伊藤みどりトリプルアクセルの先へ』など。自身はアダルトスケーターとして樋口豊氏に師事。11年国際アダルト競技会ブロンズⅠ部門優勝、20年冬季マスターゲームズ・シルバー部門11位。

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