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ジュニア女子も白熱、3名がジュニアGPF進出へ、島田麻央は全日本ジュニア4連覇

野口美恵スポーツライター
4連覇を達成し、4本の指で喜びを表す島田選手 (c)Yoshie

競り合った“お姉さん”達はGPシリーズの表彰台に

ジュニアの日本一をかけた全日本ジュニア選手権(11月15−17日、広島)が行われ、島田麻央(16)が4連覇を果たした。またジュニアの世界トップ6によるジュニアGPファイナル(12月5−8日、フランス)に出場が決まっている和田薫子(15)が2位、中井亜美は4位。櫛田育良が3位で、2年連続の表彰台となった。シニアの女子は過去最多の5名がGPファイナル進出と精鋭ぞろいだが、ジュニア女子も3名進出しており、その全日本ジュニアは白熱の戦いとなった。

シニアのトップ選手への登竜門ともなる全日本ジュニア。島田は、12歳だったノービス時代に推薦出場し、見事に3位となり、松生理乃(20)、吉田陽菜(19)と共に表彰台に乗った。13歳で初優勝したときの2位は住吉りをん(21)、3位が千葉百音(19)。そして14歳で連覇を果たしたときの2位は千葉。島田が競り合ってきた“お姉さん”たちは、この全日本ジュニアでの表彰台を力に、今季のGPシリーズで表彰台に乗っているスケーターばかりだ。

その中でトップを維持してきただけでも、島田の才気煥発ぶりはよくわかる。さらに今年9月のジュニアGP大会では、島田は224.68点という今季の世界最高点をマーク。NHK杯(11月8−10日、東京)で坂本花織(24)が塗り替えるまで、シニア・ジュニアを通じて、世界の頂点に立った。

エルファバになりきり、楽しんで演技した
エルファバになりきり、楽しんで演技した写真:森田直樹/アフロスポーツ

濱田コーチの言葉が「自分を良い方向に」

そんな島田だが、今季の全日本ジュニアは、これまでで一番緊張したという。

「全日本ジュニアは、素晴らしい選手がたくさん集まる大会。ショートは絶対にミスできないので、緊張しました。普段の練習でもショートはほとんどミスすることがなくなっていたので、そのぶん『本番もいつもどおりミスしないように』という思いが強くなりすぎていたと思います」

ショートの前夜は寝付けず、何度も起きてしまった。昨年の全日本ジュニアでは、珍しくショートでミスをしたことも頭をよぎっていた。

その緊張を強気に変えることができたのは、本番直前の濱田美栄コーチの言葉だった。ショートはミュージカル『ウィキッド』の曲、『ディファイング・グラビティ』で、魔女エルファバを演じる。夏に劇団四季の公演を観に行ったときに、「本番はエルファバになりきっているから、自分じゃないから緊張しないよ」とアドバイスされた言葉になぞらえ、濱田コーチはこう言った。

「エルファバになりきって、楽しんで滑って」

その言葉が、スッと胸に落ちた。

「先生の言葉が自分を良い方向に進めてくれました」

ショートはすべてのジャンプを降りると、最後のステップは満面の笑みで滑り抜いた。

「今までは、ジャンプは100%ジャンプに集中しないと跳べないと思っていたのですけれど、ジャンプ少し前まではエルファバになりきって楽しんで滑っていても跳べるんだ、ということが分かりました」

翌日のフリーは、大技の4回転トウループとトリプルアクセルがある。会場入りした日は絶好調だった4回転トウループは、朝練習でも6分間練習でもタイミングがハマらなくなっていた。

「ショートの日ほどは緊張しなかったのですが、6分間練習の後は息ができないくらい緊張しました。とにかく思い切っていこう、と自分に言い聞かせました」

フリーの曲は、香港系アメリカ人の作曲家クリストファーティンによる『Mado Kara Mieru』。郷愁のただようメロディにのせて、日本語の歌詞で四季の美しさを歌い上げるという個性的なプログラムだ。「日本の四季の花や歴史、建物がすごく素晴らしいことを表現できればなと思います」という島田。ピンクからうぐいす色へのグラデーションが美しい衣装で、登場した。

冒頭のトリプルアクセルは見事に成功、4回転トウループは転倒したものの、すぐに立ち上がると、続く3回転ルッツ+3回転トウループをやや回転不足気味ながら着氷。さらに高さのある3回転サルコウ+3回転トウループも決めた。演技中盤のスパイラルは、四肢をスッと伸ばした姿勢から、アラベスク姿勢へとつながっていく、必見の美しさ。最後は、得意の高速Y字スピンで締めた。誰もが優勝を確信する圧巻の演技。しかし島田はちょっと悔しそうな表情を浮かべる。目指すもの、背負うものの大きさが、その表情ににじんでいた。

日本の四季を表現したフリー
日本の四季を表現したフリー写真:森田直樹/アフロスポーツ

「この試合は通過点。全日本ではショートでトリプルアクセルを」

キス&クライで得点を待つ間、濱田コーチは、回転不足気味だった「3回転ルッツ+3回転トウループ」について諭し始めた。濱田コーチは言う。

「4回転のミスは仕方ない。でも3回転ルッツ+3回転トウループは、どんなことがあってもやらないと。最終滑走で氷が固くなっていたから、強めにトウを噛ませないといけなかった。こういう氷でも自分で調整して出来るようにならないと。そこはちょっと反省かな」

その言葉を、うんうんと何度も頷きながら聞く島田。4連覇を確信しながらも、得点や成績よりも、演技の内容を話し合う2人。チームが目指すレベルの高さ、そして意識の高さが現れていた。

得点はフリー128.63点で、総合201.32点。4連覇が決まると、笑顔をみせた。

「追いかける立場より、追われる立場の方が難しいなと感じていて。これまでの大会でも優勝しているので『負けられない』という気持ちが大きくなり、どんどん勝ち進むごとに勝つ難しさを実感していきました」

この成績により、シニアの全日本選手権への推薦出場が決定。気持ちを引き締め、宣言する。

「この試合はまだ通過点。全日本ではショートからトリプルアクセルを入れられるので、どんどん難しいジャンプにも挑戦していきたいです。シニアになっても戦える選手になりたいです」

スピード感あふれる滑りが魅力の和田
スピード感あふれる滑りが魅力の和田写真:森田直樹/アフロスポーツ

山田満知子コーチの門下生、和田が2位「理乃ちゃんが頑張ったから私も!」

そして今年、頭角を現したのが、山田満知子コーチの門下生である和田だ。12歳の時から全日本ジュニアには推薦出場しており、期待されている若手の1人。今季はジュニアGPファイナル進出も決めている。

和田の持ち味は、スケーティングのスピード感やなめらかさ。ダイナミックにジャンプを跳ぶ。伊藤みどり時代から受け継がれる、山田門下生の伝統とも言えるだろう。

「春頃から、先生方にジャンプの踏み切る姿勢やトウの突き方まで、細かく見直していただいたことで安定感が増しました」という。

ショートは30人中の1番滑走で、「他の人の点数が気にならず、プレッシャーなく自分が思うように滑れば良いと思えました」といい、パーフェクト演技。

フリーは、同門の松生理乃がフィンランド杯に出場していることから、朝はまずその結果をチェック。GPシリーズ2戦2位で、GPファイナルへの可能性を濃厚にしたのを確認すると、「理乃ちゃんが2位だ!自分も頑張ろう、と思うことができました」と和田。フリーもすべてのジャンプを降りると、190.17点で2位となった。

「やはり全日本ジュニアの舞台がすごく大切というのは、3年間出場させていただいてきたからこそ感じていました。ここで表彰台に上がれたことが、大きな収穫。GPファイナルは全部のエレメンツでもっと加点がもらえるよう頑張ります」と笑顔を見せた。

長い手足と個性的な衣装が魅力の櫛田
長い手足と個性的な衣装が魅力の櫛田写真:森田直樹/アフロスポーツ

櫛田は3位「お気に入りの衣装で気持ちがアップ」

2年連続の表彰台となったのは、櫛田育良(17)。島田と同じ濱田コーチの門下生で、長い手足を生かしたダイナミックな演技が魅力だ。また櫛田にしか着こなせないオートクチュールのような衣装も必見。ショートの『Sway』は、黒いパイピングフリルのスカートに、マーブル柄の上半身で個性的な一着。フリー『The Little Prince』は赤い薔薇の花のような細かいフリルがめいっぱいあしらわれたドレスで、彼女の輝きを一層増してくれる。

「ショートの衣装で一番好きなのはスカートの部分。上半身の柄や、背中の紐もお気に入りポイント」と櫛田。

ショート3位で折り返すと、フリーはほとんどミスのない演技で、観客を魅了。189.52点で総合3位、2年連続の表彰台を決めた。

「以前までは、前に滑った人の演技がすごく気になっていたのですが、最近は自分の中に集中することができています。ジャンプのあと、すごく温かい手拍子が起きて会場が盛り上がってくれたので、観客の皆さんと一緒に盛り上がれるように、自分の体を大きく使って生き生きと滑りました。全日本選手権では、一つひとつの細かい手の角度や、動きの強弱など、もっと改善していきたいです」

トリプルアクセルに挑戦した中井
トリプルアクセルに挑戦した中井写真:森田直樹/アフロスポーツ

トリプルアクセルに挑戦した中井は4位、GPファイナルへ

また注目を集めたのは、中井。昨季はシーズン途中で腰を痛め、全日本ジュニアでは力を発揮できなかった。そこからリハビリに努め、今季はトリプルアクセルが絶好調。ジュニアGPファイナル進出も決めている。

ショートはわずかなミスがあり5位。フリーはトリプルアクセルで惜しくも転倒し、総合4位となった。

「全日本ジュニアには5年連続で出場できて、すごく嬉しい思いも、悔しい思い出もあります。昨年に辛い思いをしたことで、自分のスケートを見つめ直す時間もできて、今季はジュニアGP2大会で良い演技ができたと思います。怪我があったぶん成長できたと信じています。今回は求めていた順位ではなく、少し悔しい気持ちでジュニア最後の全日本が終わってしまいましたが、最後まで笑顔で演技ができたので良かったです」

2週間後に迫るジュニアGPファイナルでは、トリプルアクセルを武器に世界のジュニア強豪に挑む。

「全日本ジュニアよりも緊張すると思いますが、今回悔しかった部分を改善して、安定した演技を見せたいです」

9位につけた宮﨑
9位につけた宮﨑写真:森田直樹/アフロスポーツ

ノービスから推薦出場の宮﨑花凜9位、金沢純禾10位

ノービスからの推薦出場となったスケーターも活躍した。全日本ノービス優勝の金沢純禾(12)は、167.00点で10位に。金沢は、全日本ノービスBからノービス3連覇を果たし、来年ジュニアに上がる。ショートは「カンフー・パンダ」、フリーは「The Sky and The down and The Sun」で、元気の良い演技を見せた。ノービスBの1年目から持ってきている、自分の衣装とおそろいの服を着せたぬいぐるみもトレードマーク。今回はショートではパンダ、フリーではクマのぬいぐるみを手に、キス&クライで笑顔を見せた。

「島田麻央さんもノービス3連覇されてジュニアに上がっているので、そこは同じなのを自信にして、ジュニアに上がったらトリプルアクセルや4回転を降りられるようにしたいです」

全日本ノービス2位の宮﨑花凜(12)は、ショート、フリー通じてパーフェクトの演技で存在感を示した。

「ショートで1本目のジャンプを降りたあとから、すごく楽しくなって、最後まで気持ちよく滑りました。曲を表現することが好きなので、得意だと思ってもらえるようにしたいです」

今年6月には、高橋大輔主演の『氷艶』にキッズスケーターとして出演し、プロのスケーターの世界にも触れた。

「お客さんに見せる、楽しませるという、試合とは違うスケートの楽しみ方があるのだと分かりました。素敵な経験ができたので、見た人が嬉しくなるような気持ちを持ってもらえるスケートをこれからもしたいな、と思いました」

カンフー・パンダを演じる金沢
カンフー・パンダを演じる金沢写真:森田直樹/アフロスポーツ

「東西の2強アカデミー」が活躍

試合全体としては、フリーに進んだ24人中、濱田コーチ率いる木下アカデミーが8人、中庭健介コーチ率いるMFアカデミーが6人と「東西の2強アカデミー」の活躍が目立った。アカデミー体制をとることで、拠点とするリンクでの練習時間が多く取れることや、ヘッドコーチを中心とした指導体制により、チームが機能的に働いていることがうかがえた。1人だけの先生ではなく複数の専門コーチがいることで指導の目が行き届いていること、そして若い選手達が学業とスケートを両立させながらも朝晩に豊富な練習量を確保できることなど、メリットが多い。ジュニアの育成という場面では、このアカデミー体制が功を奏していることが感じられる1戦でもあった。

スポーツライター

元毎日新聞記者。自身のフィギュアスケート経験を生かし、ルールや技術、選手心理に詳しい記事を執筆している。日本オリンピック委員会広報としてバンクーバーオリンピックに帯同。ソチ、平昌オリンピックを取材した。主な著書に『羽生結弦 王者のメソッド』『チームブライアン』シリーズ、『伊藤みどりトリプルアクセルの先へ』など。自身はアダルトスケーターとして樋口豊氏に師事。11年国際アダルト競技会ブロンズⅠ部門優勝、20年冬季マスターゲームズ・シルバー部門11位。

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