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近藤サトさんに学ぶ「ありのまま」の美しさと、アメリカ人のグレイヘア観

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

Forever young, I wanna be forever young. Do you really want to live forever, forever, young. 

- By Jay-Z ft. Mr. Hudson

(永遠に若く、永遠に若くいたい。永遠に生きたいかい、永遠に若く)

ラジオやストリーミングでよく流れてくる、ジェイ・Zの『Young Forever』(注)の印象的なサビは、いつまでもいつまでも耳に残る。

Stay young(いつまでも若さを保ちたい)という願望は、アメリカでもよく話題に上る。国問わず、生きとし生けるものの永遠のテーマではなかろうか。

(注:原曲はAlphavilleによるもの)

グレイヘア(白髪)が流行語にノミネート

さて日本では先日、「現代用語の基礎知識」選、ユーキャン新語・流行語大賞で、ノミネート30語が発表された。大賞の発表は12月3日(月)だ。何が選ばれるか注目している人も多いだろう。

私は海外在住なので、ノミネートされたほとんどの言葉を聞いたことがなかったが、ソーシャルメディアやYouTubeなどを介して、かろうじて知っている言葉もあった。アメリカでも話題になった「#MeToo」「TikTok」をはじめ、「そだねー」「ダサかっこいい/U.S.A.」「あおり運転」「悪質タックル」「スーパーボランティア」は、太平洋を越えて私の耳にまで届いている。

30語の一つ、「グレイヘア」が話題になったことはまったく知らなかったが、フリーアナウンサーの近藤サトさんが「ありのままの自分でいく」宣言をして話題を集めたと聞き、興味を持った。

近藤さんは現在50歳。東日本大震災をきっかけに防災グッズの中に白髪染めを入れることに疑問を持ち、「年齢に抗わない生き方」をしようと決意したという。

私がなぜそのエピソードに興味を持ったのかというと、時をほぼ同じくして、知人が突然「白髪を染めない」宣言をしたからだ。(彼女はニューヨーク在住のアメリカ人で日本語を話せないので、これらの流行語について当然知らず、ただの偶然なのだが)

若白髪でずっときた彼女は、現在アラフォー。これまでストレートの長い髪を茶色に染めていた。ちなみに彼女はヘルスコンシャスな生活習慣を長らく実践していて、食事もヴィーガンを経て、現在は完全なベジタリアンだ。

そんな彼女。先日久しぶりに会ったら、突然このように宣言してきた。

「私、染めるのをやめたの」

頭髪を見ると、確かに根元を中心に白い部分が伸びていた。でも白髪が目立つ左サイド部分(耳周り)をバリカンで短く刈り上げていたので、白髪はあまり目立たなくなっていた。彼女は長い髪の毛を結んでポニーテールにし、ロックスター的な新しいヘアスタイルを楽しんでいるようだった。

私が理由を聞くまでもなく、彼女は立て続けにこう説明をした。

「頻繁に染めるのが面倒になってきたし、ケミカルが含まれた染料は頭皮の健康にも良くないから」。そして「少なくとも今年は染めない」。

つまり、今後も染めないかどうかは決めていないが、数ヵ月はこの状態のままでいくということだった。

彼女はコンサバな雰囲気の女性だが、新しい髪型はとても似合っていた。「クール(かっこいい)ね」と私が心の底から思った正直な言葉をかけたら「ありがとう!」と笑った。

「グラニーヘア」(おばあちゃんの髪)が若者のブーム

ニューヨークに住む感度の高い若者の間で2011年ごろから人気なのが、グラニーヘア(おばあちゃんの髪)だ。グラニーグレイとも呼ばれるこの白髪人気の火付け役は、ジャン・ポール・ゴルチエ。

数年前には、レディ・ガガやリアーナなどのセレブもグレイヘアにし、ブームを底上げしている。

グラニーヘアブームは続行中

女性向けファッション雑誌『Cosmopolitan』(2018年11月5日)でも、「シルバーヘアがインスタグラムのトレンドとして席巻中」といった趣旨の特集が組まれている。→ 参照記事

とは言え、英語で「Gray Hair」などのワードで検索すると、「白髪の原因」や「どのように白髪の悩みから解放されるか」といったような、原因と対策の情報があふれている。

実際のところ、トレンドとされているグラニーヘアを楽しんでいるのは、寄る年波なんて知る由もない若者だ。透明感のある肌に輝くシルキーなグレイヘアやシルバーヘアが「ファッション」や「トレンド」とされるのは、やはり若さゆえの特権なのだろうか? 

アメリカでは、グラニーヘアのトレンドは二つの現象を作ったという見方がされている。

一つは若者がおしゃれなグレイヘアに染めること。もう一つは、年配の人がグレイヘアをありのままの自然の美しさと受け入れるようになったこと。

グレイヘアは自然の美しさ

ウェンディさんの例

作家のウェンディ・シューマンさんは、オンラインメディアの『HuffPost』に「私が白髪になってからの驚くべき学び」というタイトルで寄稿している。

69歳になるまでタッチアップ(根元染め)をしてきたウェンディさん。子どもの結婚式を境に、15年間の白髪染め人生に幕を閉じた。

「まず周りの人に、髪染めストップ宣言をしました。担当の美容師からは、間違った決断だと首を振られ、結婚して48年になる夫も『白髪は好みでない』と、否定的な反応でした」

しかし、女性ミュージシャンのジュディ・コリンズやジョーン・バエズら、白髪姿で美しく年齢を重ねている有名人を引き合いに、自分の将来の姿を想像し、優雅に老いを受け入れていく決断をしたそうだ。

アンバーさんの例

インスタグラムを開けば「Granny hair」「White hair dye」「Icy white platinum blonde hair」などのハッシュタグでたくさんのグレイヘアライフを見ることができる。

今年2月から白髪生活を実践中のアンバー・カールトンさんも、自身のインスタグラム(@silveryamber)で、「白髪染めをやめて今日で8ヵ月。気分最高!」とポストしている。

「50歳を過ぎてから、いつまでも若いままでいるような錯覚(幻想)を追い続けている自分に嫌気がさした。ありのままの自分に向き合う準備が整いました」と、アンバーさん。

きっかけは、結婚して25年になる夫が、白髪染めをやめることへの勇気づけをしてくれたことだ。それでもはじめのころは、「夫はなんて馬鹿げたことを言っているのかと思っていた」と振り返る。

「白髪染めをやめて『自由』な気持ちになった。なかなか言葉で説明するのは難しいけど、本当によかったと思える最高の決断の一つであるのは間違いない」と、爽快な気持ちを表した。

アンバーさんのインスタグラムには、グレイヘアで微笑む幸せそうな彼女のセルフィーが並び、夫のみならず多くのフォロワーから「素敵」「美しい」「ゴージャス」など、賞賛の声が届けられている。

「ありのまま」が尊重される

ニューヨークに長年住んで感じることは、ここでは「ありのまま」の自分が個性として尊重される傾向があるということだ。

もちろん白髪染めのみならず、ボトックスやフェイスリフトなどあらゆるアンチエイジング(抗加齢)市場は拡大の一途をたどっているので、あくまでも「人それぞれの価値観」によるところも大きい。

しかしそれでも、体格や見た目がどうであれ「恥ずかしいから隠す」というような考えはあまりなく、逆に弱点を個性にし、堂々としている人が多いように思う。そして、家族や友人など周囲が愛する人のそのままの姿を慈しみ、受け入れようとする。

私が日本に住んでいた90年代はちょうど茶髪の全盛期で、顔の印象も明るくなると思っていたので、大学時代からずっと茶髪にしていたのだが、ニューヨークに移住して以来、16年間一度も染めたことがない。

なぜ染めないようになったのか。多様性のあるこの街で日々さまざまな人々と触れ合い、人生を重ねながら、あることに気づいたから。

(1)人間は本来持っているものが一番その人に似合うようにできている、(2)起こる事象を受け入れ自然の流れに沿う方が物事はスムーズにいくーー。

髪の色だけではない、目が一重か二重か、鼻が高いか低いか、肌が白いかダークかなど、その人が生まれながらに持っているものに本来の美しさが宿っている。シワでさえも、人生を踏ん張ってきた人にじわりじわりと与えられる勲章なのでは?

ただ私は、気分が良くなることが一番だと考えているため、私自身は化粧も楽しむし、同様に茶髪も白髪染めも否定するつもりはない。

そしてこの記事を書きながら、私もこの先、白髪が目立つようになったらどうするだろうと考えてみるーー。その答えは今はわからないが、染めるか否かの決断にたどり着くまで、さまざまな葛藤があるかもしれない。

迷ったら? 自分の心に正直に、気分よくいられるのはどちらか自問することを、心に留めておきたい。

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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