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炎鵬対宇良の「小兵業師対決」が見る者をワクワクさせた理由

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
写真:毎日新聞社/アフロ

初日から6連勝 好調の炎鵬

新型コロナウイルスの影響で一場所ぶりの出場となった小兵の人気力士が、十両の土俵でその本領を発揮している。宮城野部屋の炎鵬だ。直近は、昨年初場所を最後に勝ち越しから遠のいており、今年に入って十両に陥落。苦しい日々が続いていた。

同部屋の横綱・白鵬の新型コロナウイルス陽性を受け、全休となった先場所だったが、本人は「普通に元気ですよ!」と話していた。炎鵬は休場明け、ちょうど2年ぶりとなった十両の土俵での今場所、うまく相手との距離を取る相撲で、初日からなんと単独で6連勝。ここ1年ほどの不調を吹き飛ばすような動きのよさを連日見せている。

七日目で、東龍に右上手を許して捕まってしまい、黒星を喫した。しかし、取組直後に悔しさをにじませたあの顔。次こそは負けてたまるかという、彼の負けず嫌いな性格をよく表しており、後半戦も楽しみにさせてくれた。

大ケガを乗り越え再起する宇良

迎えた中日に組まれたのは、同じく小兵で業師の宇良との対決。取組が組まれると、前日から多くのメディアに「楽しみな一番」と取り上げられた。

炎鵬の2つ上の宇良は、28歳。二人とも大卒で、入門も2年違いである。炎鵬が入門した2017年3月場所は、宇良が新入幕の場所だった。しかし、その後宇良は9月場所に右膝靭帯を断裂する大ケガに見舞われ、一時は序二段まで陥落した。しかし、19年11月場所で復帰を果たし、昨年11月場所で関取に戻ってきた。

幕内から下がってきた炎鵬と、ケガからの復帰で這い上がってきた宇良。炎鵬は168センチ・98キロ、宇良は176センチ・143キロで、同じ「小兵」といっても、土俵に並ぶと少し大きさが違うことがわかる。小兵ながら真っすぐ前に出る力が強く、動きのよさで相手を翻弄する炎鵬と、レスリングの経験もあり、ダイナミックな反り技が得意な宇良の対決は、どのような展開になるのか。二人の対決を、多くのファンが見守った。

炎鵬対宇良に熱狂! 結果は…

宇良が仕切り線から下がって構える。立ち合い。両者、頭からぶつかっていった。一度体が離れるが、炎鵬はなんとか潜って攻めようとする。それをしのぐ宇良。炎鵬が一瞬引きにいったところを逃さず、宇良が前に出ていく。土俵際に追い詰められた炎鵬。体を入れ替えるようにして最後まで倒れないよう粘るが、宇良の推進力が勝った。物言いもついたが、決まり手「押し倒し」で、先輩である宇良に軍配が上がる結果となった。立ち合いからおよそ10秒。長い相撲ではなかったが、両者ともに最後まで諦めない、非常に見ごたえのある一番だった。

小兵が大きな力士に向かっていって転がす相撲も盛り上がるが、小兵同士というのもまた面白い。炎鵬と宇良の場合は、ただ「体が小さいもの同士」というだけでなく、燃えさかる闘志、常人には到底まねできない運動神経のよさといった魅力があり、見る者をワクワクさせてくれるのだ。現在、二人はそろって6勝2敗の好成績。この対決が幕内の土俵で見られる日も、そう遠くはないだろう。大きな角界の未来を、その小さな背中に背負いこんで、これからも土俵を沸かせてくれることを楽しみにしたい。

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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