遺言書、意外と若くて作成できる~20歳?18歳?それとも15歳?
「遺言」というと高齢者や富裕層が作成するものというイメージがあると思います。しかし、民法では意外と若い時から遺言を作成できると定めています。
何歳から作成できるのか
では、遺言は何歳から作成することができるでしょうか。次の3つから選択してください。
1.現行民法が定める成年に達する20歳から(民法4条)
(成年)
民法4条 年齢二十歳をもって、成年とする。
今年平成30年6月13日,民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする民法の一部を改正する法律が成立しました。また、女性の婚姻開始年齢は16歳と定められており、18歳とされる男性の婚姻開始年齢と異なっていましたが,今回の改正では、女性の婚姻年齢を18歳に引き上げ、男女の婚姻開始年齢を統一することとしています。今回の改正は,平成34年4月1日から施行されます。
18歳成年について詳しくは、「18歳成人」法案が成立!何が変わり、変わらないのか
、「18歳成人」一期生「現中学2年生」に起きること 「18歳成人」法案が成立~どうなる「成人式」!? 民法改正の衝撃!親の同意なく「高校生夫婦」誕生!校則で結婚禁止できるか? をご覧ください。
2.社会に出る者が多くなり、しかも選挙権が得られる18歳から(公職選挙法9条)
選挙権が得られる18歳になれば法的に有効な遺言を作成できるのでしょうか。
公職選挙法9条(選挙権)
1.日本国民で年齢満十八年以上の者は、衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有する。
2。日本国民たる年齢満十八年以上の者で引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有する者は、その属する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する。
3.義務教育が終了する15歳から
それとも、義務教育が終了する15歳でしょうか。
意外と若くて作成できる
答えは3です。民法は、満15歳で遺言を作成できるとしています(民法961条)。
(遺言能力)
961条 15歳に達した者は、遺言をすることができる。
なぜ満15歳なのか
では、民法はなぜ15歳になれば法的に有効な遺言を作成できるとしたのでしょうか。主な理由は2つあります。
理由その1 明治民法の婚姻適齢を踏襲した
15歳という年齢は、現在では義務教育が終了する年齢です。社会生活上の基本知識が備わった年齢とも言えます。本条は、明治民法(明治31年法律9号)の旧1061条を踏襲したものです。明治民法のもとでは、婚姻適齢が男性17歳、女性15歳であったことから(旧民法765条)、低い方に合わせて遺言年齢を定めたとされています。
旧民法765条
男は満17年女は満15年に至らされは婚姻を為すことを得ず
旧民法1061条
満15年に達したる者は遺言を為すことを得
理由その2 15歳になれば遺言能力があると考えたから
遺言は法律行為です。法律行為とは、意思の内容通りの効果が生じる意思表示であると定義されます。契約はその典型例です。法律行為なのだから、意思能力(適切な判断能力を持っていると認められる能力)があることが前提となります。
遺言内容を理解し、遺言の結果を弁識(理解)しうるに足る意思能力を遺言能力といいます。
民法は、15歳以上になれば遺言能力があるものと定め(民法961条)、遺言能力は遺言を作成する時に備わっていなければならないとしました(民法963条)。したがって、15歳になっても、意思能力がない場合は、遺言能力はないため、その遺言は無効になってしまいます。
成年後見人が作成した遺言
では、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある成年後見人が作成した遺言は「意思能力がない者が作成した遺言」として無効になってしまうのでしょうか。
答えは、必ずしも無効になりません。ただし、条件があります。
成年後見人の場合は、本心に復して遺言能力があることが前提になります。したがって、「遺言作作成時に遺言能力があった」ことを証明するために、医師2人以上が立会い、成年後見人である遺言者が「遺言時に心神喪失の状況になかった」旨を遺言書に付記して、署名・押印をする必要があります(民法973条)。
973条(成年被後見人の遺言)
1.成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。
2.遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。
元気なうちに遺言を作成する
以上見てきたとおり、遺言は15歳に達すれば法的に遺言を作成することができます。その理由は、15歳になれば意思能力が認められ遺言能力が備わっているとされるからです。
したがって、たとえ形式上法的に有効な遺言書を残しても、判断能力が低下した状態で作成してしまうと、「遺言能力が欠けた時に作成したのではないか」と疑義がもたれて争いが生じることがあります。
最近は、遺言者の最終意思の尊重という遺言の本来の目的というよりも、高齢者が子どものなどの周囲の一部の者がからの働きかけに応じて遺言を残すケースが増えています。
このような場合、遺言作成時に親の健康状態が思わしくないと、相続人の一部から「この遺言書を作成した時は父親は認知症になっていたはずだ!だから無効だ!」といった声が出て遺言の有効・無効を争うことになりかねません。
「残せばよい」というものではない
このように、遺言能力が疑われる状態で遺言を残すと「立つ鳥跡を濁す」ことになりかんません。
「遺言が15歳から作成できる」とした民法の趣旨を理解して、遺言を残すなら心身ともに元気な内に残すようにしましょう。