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直下型の熊本地震でも効果があった緊急地震速報が広範囲・高精度化

饒村曜気象予報士
熊本で震度7の地震 熊本城で大きな被害(写真:児玉千秋/アフロ)

 緊急地震速報は、地震発生後に素早く伝わる弱い揺れをもとに発表され、破壊的な強い揺れの前に減災活動を始めるためのものです。

熊本地震と緊急地震速報

 平成28年(2016年)4月14日21時26分に九州内陸部を震源とする、マグニチュード6.5の大地震が発生し、熊本県益城町で震度7を観測しました。この地震で激しい揺れがあった地域のほとんどは、緊急地震速報が伝えられる直前か、直後でした。これは、地震が直下型地震であったために、緊急地震速報と激しい揺れとの時間差がなかったためです(図1)。図1で0の円が、緊急地震速報発表と強い揺れが同時にきた場所を表していますので、0の円内は、緊急地震速報より強い揺れの方が早かった地域です。震源地から離れるほど、強い揺れがくるまでの時間差があります(数字の単位は秒)。

図1 震度7を観測した熊本地震の前震の緊急地震速報(平成28年(2016年)4月14日21時26分)
図1 震度7を観測した熊本地震の前震の緊急地震速報(平成28年(2016年)4月14日21時26分)

 九州で震度7を観測したのは初めてのことですが、これが、28時間後の4月16日1時45分に発生したマグニチュード7.0の熊本地震の前震です。

 熊本地震では、熊本県西原村と益城町で震度7を観測し、前震の震度7になんとか耐えた建物も、熊本地震の震度7で壊れるなど、大きな被害が発生しました。このときも、直下型地震であったため、地震で激しい揺れがあった地域のほとんどは、緊急地震速報が伝えられる直前か、直後でした(図2:表示は図1と同様)。

図2 震度7を観測した熊本地震の緊急地震速報(平成28年(2016年)4月16日1時45分)
図2 震度7を観測した熊本地震の緊急地震速報(平成28年(2016年)4月16日1時45分)

緊急地震速報の効果

 緊急地震速報が発表されると、これを受けた高度利用者は、コンピュータ処理で自動的に新幹線等やエレベータなどの停止動作を始めます。大きな揺れが来る前に停止すれば被害がでない、あるいは、停止にいたらなくても減速していれば、被害が最小限ですむからです。

 また、緊急地震速報は、テレビで放送されたり、携帯電話やケーブルTVで一般利用者に伝えられます。高度利用者の場合と違い、時間的余裕はないので頭を守る行動くらいしかできませんが、それでも死ぬところが怪我で済むなどの大きな効果があります。

 気象庁では、熊本地震のときに発表された緊急地震速報について、一般利用者の利活用についての実態調査を行い、平成29年(2017年)3月22日に報告書を公表しています。

 この報告書には、熊本地震で震度4以上を観測した地域(九州各県と愛媛県)のアンケート調査(Web調査で有効回収数1909サンプル)があります。深夜ですので63.7%の人が眠っていましたが、この眠っていた人のうち、緊急地震速報がきっかけで目を覚ました人が4割強いること(図3)、地震時に震度6弱以上の市町村にいた人の6割以上の人が何らかの効果があったと回答しています。

図3 熊本地震(本震)で目を覚ました人の割合
図3 熊本地震(本震)で目を覚ました人の割合

緊急地震速報の高度化

 熊本地震のように、直下型の地震では、緊急地震速報と激しい揺れとの時間差がほとんどありません。しかし、それでも「身構えることができた」など、命を守ることに一定の効果があります。  

 東日本大震災をもたらした東北地方太平洋沖地震など、海溝型の巨大地震では、緊急地震速報の発表から激しい揺れまでの時間差が多少ありますので、緊急地震速報が活躍できる可能性がかなりでてきます。

 平成23年(2011年)3月11日の東日本大震災では、緊急地震速報の警報は東北地方にしか発表されませんでしたが、実際には、関東甲信地方のほとんどの地域で震度5弱以上を観測しています。これは、地震が最初に発生した場所からの伝わる速度が速くて揺れが小さい初期微動の観測から、地震が最初に発生した場所から強い揺れがやってくるものと仮定した緊急地震速報でした。地震発生直後にすばやく緊急地震速報の警報を発表できるため、震源域が広い場合には、離れた場所での強い揺れの予想が正確にできないことがありました。

 このため、気象庁では平成30年(2018年)3月22日から、従来の方法に加え、プラム法(PLUM法)と呼ばれる、震源域が広い巨大地震が起きた場合でも、震源から遠い地域の強い揺れも高い精度で予想できる方法を導入しました。

 緊急地震速報を高度化し、海溝型の巨大地震による広範囲の揺れにも対応できるようにしたのです。

 とはいえ、緊急地震速報は、あくまで揺れてから作成する情報です。緊急地震速報が発表されてたら大きな揺れが来るまでの時間差はそれほど長くはありません。あらかじめ、緊急地震速報がでたら何をするかということを考えておかないと、何も行動をとらないうちに大きな揺れがきます。

図1、図2の出典:気象庁ホームページ。

図3の出典:気象庁地震火山部管理課、地震津波防災対策室(平成29年(2017年))、熊本地震における緊急地震速報の利活用実態調査報告書、気象庁。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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