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メイウェザーVS那須川天心 越えられなかった体重の壁

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
メイウェザーと那須川天心(写真:ロイター/アフロ)

 年末に行われた総合格闘技RIZINで、ボクシングの元世界5階級王者フロイド・メイウェザーとキックボクシングのチャンピオンで神童と呼ばれる那須川天心が、3分3回のボクシングルールでのエキシビションマッチで対戦した。

メイウェザーを本気にさせた天心の左ストレート

 メイウェザーは、試合が始まるまで終始ご機嫌でリラックスしているようだった。入場から国歌斉唱などの試合前のセレモニーでも、笑顔を見せていた。大舞台を何度も経験しているメイウェザーからは、王者の余裕を感じさせた。

 1R開始すると試合中にも関わらず不気味な笑顔を見せながら、ジャブをつき天心との距離を縮めていった。天心も思った以上の体格差とメイウェザーのオーラを感じたのか、手が出ない。プレッシャーを掛けてくるメイウェザーに対して、圧倒されているようだった。

 1Rの40秒過ぎ、メイウェザーが出した右ストレートに対して、サウスポースタイルの天心がカウンターの左ストレートを放った。このパンチを機にメイウェザーの目の色が代わり本気モードに変わっていった。

メイウェザーの超人的なディフェンス

 このストレートは当たったかのように見えた。しかし、後でVTRで確認すると寸前のところでパンチを交わしていた。これには驚いた。天心の渾身を込めたカウンターは、どんぴしゃりのタイミングだった。しかし、メイウェザーは一瞬の体さばきで、寸前のところでパンチをかわしていた。

 普通ならもらっている、そんな絶妙なタイミングで打ったパンチだった。でも、メイウェザーには当たらないのだ。完璧なディフェンスの勘が体に染み付いているのだろう。

 ボクシング界のトップの選手がいくら打っても当たらないのも納得だ。メイウェザーがボクシング界のレジェンドと言われる所以は、この超人的なディフェンス力にある。その後はメイウェザーもギアを変えていって、天心に襲いかかっていった。

越えられなかった階級の壁

 やはり階級の壁は大きかった。前日の計量で天心が62.1キロ、メイウェザーは66.7キロで、契約体重の66.7キロをクリアしたと発表されている。約4.6キロの体重差だが、それ以上にその差を感じた。

 その体重で戦い続けたメイウェザーは、やはりパワーも段違いだった。上下へのコンビネーション、相手を惑わすフェイントやパンチの打ち分けなど超一流の技術も光った。

 パンチでのKOも多い天心だが、パンチしか使えないボクシングルールとキックありのキックルールでは大きく異なる。メイウェザーも天心のパンチを受けてみて、これなら大丈夫だと感じたのだろう。怖さが無いので、どんどんプレッシャーを掛け前に出ていった。

 生涯で一度もダウン経験が無いという天心も、流石にメイウェザーのパンチには耐えらえなかった。メイウェザーが放った左フックが完全に効いてしまって最初のダウンとなる。その後は2度のダウンを追加され、TKOで試合ストップとなった。天心もリングの上で、越えられない体重という壁を大きく感じただろう。

果たして良い経験になったのだろうか

 確かに今回のように、非常に注目が集まる大きな舞台で試合ができた経験は大きい。しかし、ダメージを考えると、危険だったことを否めない。また、肉体的なダメージは体を休めれば回復するが、ダウンを喫した経験は体が覚えてしまう。一度倒れると倒れグセがついてしまう事もある。

 ボクサーでも不死身のように強かった選手が、一度ダウンを経験してから打たれ弱くなってしまう場面を何度も見てきた。一度KOされると脳が覚えてしまい、倒れやすくなる。打たれ強さは鍛えられないのだ。

 天心はこれまで生涯無敗を貫いてきた。それが選手としての大きな自信になっていただろう。そのため今回の試合結果が、いい意味でも悪い意味でも転機となる可能性は否めない。

 今回の試合の経験がどうなっていくかは、今後の彼次第だ。しかし、ボクシング界のレジェンドに、勇敢に立ち向かっていった勇気は素晴らしい。ボクシングに転向する可能性もあるので、今後の彼に注目だ。

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

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