北陸2部に眠る最速153キロ左腕・北南達矢(金沢大4年)は目覚めるか!?【動画あり】
「最速153キロ左腕」
この肩書きがあれば注目は集まってもおかしくはない。体格も183センチ88キロと立派なものだ。
だがその注目度は極めて低く、全国的知名度はほぼ無いと言っていいだろう。北陸大学野球リーグで今季から2部で戦うこととなっているのも要因であるし、その不安定さも要因である。
昨春、国立・金沢大の左腕・北南達矢(ほくなん・たつや)は北陸大学野球1部リーグで存在感を放った。全日本大学野球選手権で41回の出場(8年連続出場中)を誇る福井工業大を相手に4失点完投勝利を挙げた。さらに金沢星稜大戦では最速153キロを計測した。
さらに秋にはまたしても福井工業大を相手に好投。8回まで3安打無失点に抑えた。一方で最終回に強豪の底力を見せつけられ、4点を奪われ逆転負けを喫した。その後は、北南の不安定な投球や打線の弱さもあり負けが込むと、入替戦でも破れて2部降格が決まった。
3月上旬、金沢市郊外にあるキャンパス内のグラウンドに足を運んだ。広大な敷地の中にあるだけにグラウンドは非常に整っており開放感がある。北南は紅白戦で先発し2イニングを投げるという。
ブルペンと実戦形式での投球を後ろから撮影させていただいた。それを見ると「おー、これは楽しみだ!」という期待が湧くボールもあれば「本当に153キロ出したり、福井工大を抑えたのかな?」と疑問を覚えてしまうボールもある。要するにバラツキがかなり大きい。制球や変化球の精度もお世辞にも高いとは言えない。この原因は何なのだろうか?登板後に話を聞いた。
話を聞いて思った印象は悪く言えば無知、良く言えば無垢という印象だ。
小学4年生の頃から野球を始め、小学5年生から投手を始めたが、小中でさしたる実績は無い。
進学校の金沢桜丘高校では、前任の金沢西で谷内亮太(日本ハム)や泉圭輔(ソフトバンク)を育てた井村茂雄監督が2年春に赴任。その素質を見出され、投球を熱心に詳しく指導してもらったが怪我が多く、公式戦の実績はほとんど残せず最速は131キロ止まりだった。野球をもともとやるつもりが無いまま金沢大に合格。ただ高校の同期3人も同大に進学が決まり、入部を勧められたために入部したという。
ではなぜここまで4年間で球速が伸びたのか。それを尋ねたが、これと言ってしっくりとくる回答を得られなかった。と言うよりも、北南自身がこの成長に驚いている。
「特別な練習をしたわけではありません。でも自分の意志で野球をやることを決めたので、やるなら福井工大を倒すくらいの気持ちでやってきました」と話す。こうした思いで野球部の練習と、インターネットで集めた知識をもとに学内のジムでウェイトトレーニングに励んだ。
すると2年春からリーグ戦登板を果たし、そのシーズンで福井工業大の打者のバットを2本へし折ることができた。これで自信をつけると2年秋からは2回戦の先発を任されるようになり、前述した3年春の飛躍に繋がった。
だが初めて1回戦の先発を任された昨秋は「制球力やスタミナがまだまだでした」と振り返るように、わずか1勝。チームを勝利に導けずに最終学年は2部リーグからスタートする(4月6日開幕)。
それでも進路を「上の世界でやりたい」と、一般就職はせず野球で道を切り拓いていくことを決めた。またゆくゆくは「プロ野球選手になりたいです」と語る。同じ恩師を持ち、同じ県内の高校・大学を経てプロ入りした泉の姿を刺激に「自分もいつか」と大志を抱いている。
まだその不安定さが拭えない投球からは、この素質がどこまで眠っているのかは読めないところだ。ただそれだけに、未知なる可能性があるのは確かだ。「意志あるところに道は開ける」というリンカーンの格言と北南の向上心を信じたい。
文・写真・動画=高木遊
取材協力=金沢大学硬式野球部