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井上尚弥vs.カシメロはあるのか?「因縁の対決」実現の可能性を探る─。

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
昨年10月、東京・有明で小國以載(右)と闘ったカシメロ(写真:山口裕朗/アフロ)

井上とカシメロの因縁

「日本のファンの皆さん、次の俺の試合を見てくれ!良い試合になる、KOで必ず勝つ。

イノウエとドヘニーの試合は観ていて眠たかったな。ドヘニーはパワーで完全に負けていた。イノウエよ、弱い奴と闘って勝っていい気になるなよ。 強い相手を恐れない気持ちがあるなら俺と闘え!イノウエには俺の試合を観に来て欲しい。奴はビビるだろうね。それで俺と闘わないなら、イノウエのキャリアに価値はない」

9月8日、東京・渋谷区で行われた記者会見に米国からリモート参加したジョンリル・カシメロ(元世界3階級制覇王者/フィリピン)は、そう言って4団体(WBA、WBC、IBF、WBO)世界スーパーバンタム級王者・井上尚弥(大橋)を挑発した。

井上とカシメロには浅からぬ因縁がある。

4年前の2020年4月、米国・ラスベガスのマンダレイ・ベイ・イベントセンター(現ミケロブ・ウルトラ・アリーナ)で両者は闘うはずだった。当時、井上はWBA&IBF世界バンタム級王者、対してカシメロはWBO世界同級のベルトを腰に巻いており、日本人が初めて挑む”3団体王座統一戦”には多大な注目が集まった。

この時もカシメロは、かなり派手に井上を煽っている。

「奴は、みんなが思っているほど強くない。そのことをリング上で教えてやる」「モンスターだって? 笑わせるな。イノウエは俺を恐れてリングに上がって来れないんじゃないか」と。

暴言キャラなのだろうが、かなり無礼な振舞いだった。

結局この一戦は、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受け中止となっている。

コロナ禍後に、すぐに両者の対決が再度組まれるかと思われたが、そうはならなかった。両陣営間の交渉が、上手く進まなかったと見られる。

カシメロは、同年9月にデューク・ミカー(ガーナ)を3ラウンドTKO、翌21年8月にはギレルモ・リゴンドー(キューバ)に判定で勝ちWBO王座防衛を重ねた。

井上との王座統一戦が待たれたが、この後にカシメロの「迷走」が始まる。

21年12月、ドバイでトップランカーのポール・バトラー(イギリス)と対戦するはずのカシメロが、前日計量に姿を現さなかったのだ。そのため試合は中止に。

「ウィルス性胃腸炎のため」とカシメロ陣営は説明したが、敵前逃亡と見る向きもありWBOは診断書の提出を求めた。

同カードは22年1月、舞台をイギリスに移し再設定されたが、ここでも問題が生じた。英国ボクシング管理委員会のガイドラインでは、減量の際にサウナに入ることが禁じられている。にもかかわらずカシメロが体重を落とすためにサウナを使用したことが発覚、そのために再度試合が中止となる事態に。

度重なる不祥事を重く見たWBOは、カシメロから王座を剥奪した。

9月3日、東京・有明アリーナでテレンス・ジョン・ドヘニー(左)を7ラウンドTKOで下し改めて「スーパーバンタム級最強」を誇示した井上尚弥(写真:日刊スポーツ/アフロ)
9月3日、東京・有明アリーナでテレンス・ジョン・ドヘニー(左)を7ラウンドTKOで下し改めて「スーパーバンタム級最強」を誇示した井上尚弥(写真:日刊スポーツ/アフロ)

カシメロの「起死回生」はあるか?

その直後に井上は、WBC世界バンタム級王者ノニト・ドネア(フィリピン)との2度目の対決でKO勝利を飾り、3団体王座統一。22年12月にWBO新王者バトラーも11ラウンドKOでマットに沈め「世界バンタム級4団体王座統一」を果たした。

いま井上とカシメロはともに階級を上げスーパーバンタムで闘っているが、両者の置かれる立場は大きく異なる。

井上は4団体統一王者。対してカシメロはWBO5位、WBC8位、IBF11位の中堅ランカーにとどまっているのだ。

昨年10月に初めて日本のリングに上がったカシメロは、元IBF世界スーパーバンタム級王者の小國以載(角海老宝石)と拳を交えた。序盤から激しい打ち合いとなったが、偶然のバッティングで小國が頭部から出血。4ラウンド開始後にドクターが試合続行不可能と判断し「負傷引き分け」に終わっている。

積極的で荒々しいファイトスタイルは以前のままだが、スタミナを欠き、またパンチの精度が下がった印象を受けた。これが彼の現時点でのラストファイトだ。

井上にとって、いまのカシメロは眼中にない。

過去に世界3階級を制しており実績は十分だが、もはや彼から「強さ」が感じられないからだ。

今年12月と来春に井上は、IBF&WBO世界1位のサム・グッドマン(オーストラリア)、WBA世界トップランカーであるムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)を相手に王座防衛戦を行う計画を立てている。

来年の後半以降にカシメロがモンスターに挑みたいなら、今後の闘いで「強さ」をアピールするしかないだろう。

そんな彼は次戦を日本で行う。

10月13日、横浜武道館でサウル・サンチェス(米国)と対戦するのだ。カシメロにとっては最大のアピールの場。ここでインパクトのある勝利を飾りランキングを上げれば、少しは王座挑戦の芽が出てくるかもしれない。

個人的には「井上vs.カシメロ」を見たい。

カシメロはムラの多い選手ながら、一撃の魅力があり意外性がある。加えてルイス・ネリ(メキシコ)戦と同様に観る側が感情移入しやすい「因縁の対決」。現時点では実現の可能性は低いがゼロでもなかろう。

王者を振り向かせたいカシメロは言った。

「イノウエに俺の試合を観に来て欲しい」と。

だが10月13日には、東京・有明アリーナで井上拓真(大橋)vs.堤聖也(角海老宝石)のWBA世界バンタム級タイトルマッチも行われる。

よって、井上尚弥が横浜の試合会場を訪れることはないのだが─。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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