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『M-1グランプリ2023』「準決勝の壁」はなぜ高いのか、7年連続で「壁」に跳ね返されたコンビも

田辺ユウキ芸能ライター
(C)M-1グランプリ事務局

『M-1グランプリ2023』の準決勝進出者が11月23日に発表され、2022年大会のファイナリストである、真空ジェシカ、オズワルド、さや香、カベポスター、ロングコートダディら30組が勝ち上がった。

準決勝進出者が報じられると、X(旧Twitter)ではすぐに、フースーヤ、令和ロマンらセミファイナリストの名前がトレンド入り。また多数のニュースサイトでは、なかやまきんに君とケイン・コスギによるパーフェクトパワーズ、小籔千豊とムーディ勝山によるサブマごり押し、テレビ番組への出演数が多いEXIT、前回大会の決勝でインパクトを残した男性ブランコ、ヨネダ2000らの落選が伝えられた。

準々決勝から準決勝にかけて約100組がふるい落とされる、「競技」として狭き門

現在の『M-1』は1回戦、2回戦、3回戦、準々決勝、準決勝を経て決勝がおこなわれる。なかでも準々決勝と準決勝の間にある壁が高くて厚く、それを打ち破るのが難しいことから「準決勝の壁」(正確には「準決勝進出への壁」)とよく称されてきた。ファイナリスト経験を持つなど実績があったり、「優勝候補」で名前が挙がったりしていても、「準決勝の壁」に阻まれることは数多い。

それにしてもなぜ準々決勝の戦いは難しく、「準決勝の壁」は高くて厚いのか。

それはやはり、技術的にもハイレベルな漫才師たちがよりひしめき、さらに各自が決勝の舞台をにらんだ勝負ネタを繰り出す場合が多い点にある。それでいて、準々決勝から準決勝にかけて100組近くが一気にふるい落とされるので、熾烈さも極まる。

2022年大会は準々決勝に116組が残ったが準決勝では27組に、2023年大会も準々決勝123組が準決勝では30組まで絞られた。「競技」として考えると準決勝進出はかなり狭き門と言える。しかも『M-1』の予選は3回戦あたりから会場の空気がガラッと変わり、緊張感もアップする。

そんななか今回、準々決勝で披露した漫才が「圧巻」とされたのが、2022年大会で準優勝を果たしたさや香だ。SNSでも、準々決勝を会場で観たお笑いファンによる絶賛評が目立った。筆者も2023年は劇場公演でさや香の漫才を数多く観ているが、たしかにかなりの頻度で大ウケになっている印象がある。完成度、爆発力のすさまじさ、そしてなにより前年準優勝の自信からきているであろう威風堂々とした存在感が際立っている。今大会の大本命に躍り出たのではないか。

そんなさや香の新山に「強すぎる」(『ワーワーJAPAN』(2023年6月7日開催/大阪・よしもと漫才劇場)より)と言わしめたのが、2022年ファイナリストのカベポスターだ。5月27日開催『第58回上方漫才大賞』の新人賞では、カベポスターがさや香らを撃破して同賞を獲得。カベポスターはそれまでも数々の賞レースを制してきたこともあり、新山は「強すぎる」と感服したのだ。大本命が一目を置く存在としてかなり有力なコンビではないか。

前評判が高かったダブルヒガシは7年連続「準決勝の壁」に阻まれる

一方、さや香、カベポスターとともに現在「大阪3強」を築いているダブルヒガシは「準決勝の壁」を破れず敗退。ワイルドカード(後述)へ回ることになった。

お笑いファンの間でも、ダブルヒガシの敗退は衝撃をもって受け取られた。というのもダブルヒガシは2023年、『第12回ytv漫才新人賞』『第44回ABCお笑いグランプリ』のビッグタイトルを獲るなどさらなる飛躍を遂げていたからだ。特に『第44回ABCお笑いグランプリ』の決勝では令和ロマンと同点決着となり、ファーストステージの得点で上回っていたことから戴冠。歴史的な接戦を演じた上で勝利を飾った実績から、『M-1グランプリ2023』のファイナリスト予想でも上位に名前が挙げられることが多かった。

過去大会では「バカウケ」しても準々決勝で落選するなどして話題を集めたダブルヒガシ。筆者がインタビューした際「去年(2022年)の『M-1』で、勝つには『ウケるだけじゃない』っていうのは感じましたね。ウケてたんですけど、どこかで『どうやろな』っていうのもあって。だから、落ちたときに納得いく点もあったんです」と話すなど、さまざまな手応えを得ていただけに悔しい結果に。

これで7年連続、彼らの前には「準決勝の壁」が立ちはだかった(またツートライブも7年連続で準々決勝敗退)。

「芸歴5年目以内」の王者も準決勝進出ならず、若手の勢いにも待ったをかける「壁」

芸歴5年目以内の若手芸人を対象とした新設賞レース『UNDER5 AWARD 2023』でチャンピオンとなり、TBSラジオのお笑い番組『マイナビLaughter Night』の年間チャンピオンを決める「第9回チャンピオン大会」でも優勝した金魚番長も準々決勝で敗れた。

『第13回ytv漫才新人賞決定戦』(2024年開催)に向けた事前ROUNDを通過した芸歴4年目、ぐろうにインタビューしたとき「『UNDER5 AWARD 2023』が設けられたことで若手のネタの作り込みが進んでいる気がします。(同賞の影響で)より勢いがついて、またネタも磨かれた結果が今回に出ているのかもしれません。賞が増えることで仕上がりも早くなっていきますし」とメリットを語っていたが、「準決勝の壁」はそういう若手の勢いにも待ったをかけるほど、高くて厚い(ちなみにぐろうも準々決勝で姿を消した)。

「人生が変わる可能性」を秘めた準決勝、それだけに「壁」は年々高くなる

2019年大会で優勝したミルクボーイにインタビューした際「まずは『とにかく準決勝へ行こう』と(コンビで)よく話していた。準決勝へ進むと劇場の出番も明らかに増えるんです」と仕事量がかなり変わることを明かしてくれた。

『M-1』は、優勝したり、ファイナルに残ったりすれば「人生が変わる」とされている。しかし今や、準決勝も「人生が変わる可能性」を秘めている。ただチャンスが広がっている分、そこへ辿り着く難易度も上がっているはず。「準決勝の壁」は年々高くなっているのかもしれない。

準々決勝で敗退した芸人の多くはワイルドカードに最後の望みをかける。準々決勝のネタ動画が公開され、視聴者がおもしろかった1組に投票し、獲得票数1位が準決勝へ“復活進出”。投票期間は11月27日から12月1日となっている。また『M-1グランプリ2023』は準決勝が12月7日、決勝が12月24日に開催される。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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