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Non Stop Rabbit「間違ってるって言われた方をやるのが、俺達の流儀」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ポニーキャニオン

メジャー1stアルバム『爆誕 -BAKUTAN-』(12月9日発売/初回限定盤)
メジャー1stアルバム『爆誕 -BAKUTAN-』(12月9日発売/初回限定盤)

2月26日。コロナ禍でライヴがきなくなってしまったアーティストの一組として、いち早くその思いをファンへ、そしてバンドへの経済的影響を赤裸々に訴えたSNSが、多くのメディアで取り上げられ話題になった、結成5年目の3ピースバンド・Non Stop Rabbit(愛称ノンラビ)が12月9日、メジャー1stアルバム『爆誕 -BAKUTAN-』をリリースした。メンバーの田口達也(Gt.Cho)、矢野晴人(Vo.Ba)、太我(Dr)の、人気YouTuberでもある3人に音楽とYouTube、そして改めてバンドへの思いを聞いた。

「2月26日のメッセージは、シンプルに現状を伝えたかったのと、自分達の名前をもっと広めるチャンスだという二つの思いがあった」(田口)

             田口達也(Gt.Cho)
             田口達也(Gt.Cho)

「2つの思いがあって、ひとつはこのままじゃいけない、何かしなければいけないというのと、もうひとつは、ある意味チャンスを掴まなければいけないと思っていました。自分たちの名前をもっと広めるチャンスかもしれないって。悪い方は後者ですよね。豊洲PITライヴが中止になった分を取り返すぞ、みたいな感じと、シンプルに現状をリアルに伝えることによって、一見華やかに見える世界が、決してそんなことないという事実を、多くの人に届けたいと思いました。だからたくさん取り上げられて、ニュースになったことも悪い方の僕らでいうと、してやったり、というか」(田口)。

「とにかくノンラビの存在を知ってもらう上で、一番効率的だったのがYouTube」(田口)

3月1日に開催予定だった豊洲PIT公演の中止を、2月26日、政府からイベント開催の自粛要請が発表された直後に自身のTwitterで発表した田口が、当時の思いを正直に語ってくれた。そして2月29日にはYouTubeで“豊洲PIT公演中止に関する緊急生放送”と題して、誰もいない豊洲PITの客席に黒いスーツを着た3人が立ち、ファンにメッセージを送った。その時に流れてきたのが「中止を決めた瞬間に降りてきたメロディーと歌詞」(田口)という、デビューアルバム『爆誕~』にも収録されている「全部いい」だ。全てを肯定してくれる前向きな歌詞に「感動した」というコメントが多く寄せられた。総登録者数が71万人を超える(12月15日現在)人気YouTuberとして、その影響力は大きい。バンド活動をしながら、笑いたっぷりのコンテンツが大人気のYouTuberとの両立。そこには失敗もあったが、彼ら流の明確な戦略が存在している。

「バンドを始めて路上ライブをやっている時、生ドラムを持っていって、15万円のスピーカー2本立てて、ライブハウスみたいに爆音でやっていたら警察に怒られて、誓約書を書かされ、だんだんやれる場所がなくなってしまって。有名なアーティストがライヴをやっている会場の近くで路上ライヴをやって、足を止めて聴いてくれたり、CDを買ってくれる人が増えてきていたのですが、できなくなって。売名できる場所がなくなってしまったのでYouTubeにシフトしました。国民的バンドになることが目標なので、何はともあれ顔を知ってもらうことが大事で。別にそれがバンドやってる人だよね、とか、YouTuberだよねとか、芸人だよねとか何を言われてもよくて。とにかくノンラビの存在を知ってもらう上で一番効率的だったのが、YouTubeです」(田口)。

「まずは自分に向けて書いている。メロディと歌詞が一緒に降りてきたもの以外は使わないという、自分の中でのルールがある」(田口)

YouTubeではとにかく面白い3人を貫いている。しかし音楽ではシンプルで“芯を食った言葉”達が乗り、それはどの曲にも貫かれている。だからアップテンポの曲でもグッとくる。リズム隊の太いリズムと、矢野のハイトーンボーカルが炸裂して、歌詞を真っすぐ届ける。YouTuberとしての3人と、奏でる音楽と、そのメリハリに心を掴まれる人が続出している。

メジャー1stアルバム『爆誕 -BAKUTAN-』(12月9日発売/通常盤) メンバーの父親が登場している。
メジャー1stアルバム『爆誕 -BAKUTAN-』(12月9日発売/通常盤) メンバーの父親が登場している。

「まずは自分に向けて書いています。自分の何かあった時、それこそライヴが中止になった時に自分が思ったこととか、自分にかけて欲しい言葉を求めます。それと僕の中で、メロディと歌詞が一緒に降りてきたもの以外は使わない、という約束事があって。そう思っているとそれがメロディになって降りてくるので、それを一曲にする段階で、もっと外に対して、ファンに対して響くように作っていきます。今回はメジャー1stということなのでアレンジの段階で、老若男女、たくさんの人が聴いて欲しいので聴きやすさはすごく意識したかもしれません。でも結局こいつ(矢野)が歌えばノンラビになるという僕らの自信があるので、メロディの作り方はいつもと変わらず、でも幅だけ広げて、EDMとか色々なジャンルを取り入れたり、そこはメジャーを意識して変えたかもしれません」(田口)。

「たまにキーの高さが度を超える時があるので、その時はキーを下げる申請をします(笑)。でも気合いを入れれば出せるので。大体は気合いでどうにかなります」(矢野)。

「マイケル・ジャクソンの“メロディが王様”という言葉を大切にしている」(田口)

「アレンジまで含めて僕がまず作っていって、二人に聴かせてアイディアをもらいますが、でも3人の中にルールがあって、“メロディが王様”ってマイケル・ジャクソンが言っていたので、そこは大事にしています。絶対に歌が王様だから、サビの部分では余計なアレンジはしないという暗黙の了解があります。それと、歌詞を見なくても言葉がわかるような歌い方はすごく意識しています。一字一句きちんと聴き手に届けたい」(田口)。

「そんな話をした後でなんですが、僕は真逆というか、西野カナさんの曲でさえ歌詞を聴いていませんでした(笑)。彼女は歌詞で売れていますけど、メロディと声がめっちゃいいので、声とメロディで聴いています。だからノンラビは最高なんです(笑)」(太我)。

2020年といういい意味でも悪い意味でも特別な年にメジャーデビューという、ひとつのステップを迎えて、バンドとYouTuber、ふたつの“場所”で表現をしてきた3人の心の中で一番大きく変わったこと、思いを聞かせてもらった。

「ライヴができない状況になって、逆に自分たちの強みをすごく感じた」(田口)

「ライヴができない状況になって、その時に自分たちの強みをめちゃくちゃ感じました。それはYouTubeというメディアを持っているから。今まではバンドなのにYouTuberもやってるの?とか言われて、バカにされているのかなって思ったりもしましたが、でも結局こういう時代になった時に、音楽ができなくなったら何もできないという人も多くて。音楽ができない時代なんかくるわけないって思っていたけど、実際にそうなったし、今後もこうなる可能性があるわけで。そうなった時に僕らみたいに、色々なことをやってきて、帰る場所がちゃんとあるという点でいうと、二兎を追う者は一兎をも得ずという言葉を否定するわけではないですけど、二つ追いかけないとひとつも手に入らない状況になっていて、自信がめちゃくちゃつきました。だから次のライヴがすごくよくなる気がしています」(田口)。

「音楽自体はなくならないけど、その先に行くために、もっと色々なことに挑戦しなければいけないと改めて思った」(矢野)

              矢野晴人(Vo.Ba)
              矢野晴人(Vo.Ba)

「僕もこれまでが間違っていなかったと思ったし、逆に、音楽って絶対なくならないなと確信しました。ライヴがたとえできなくてもYouTubeで届けられるし、ストリーミングサービスも充実しているし、音楽自体はなくならないけど、その先にいくために色々なことにもっと挑戦していかなければいけないと強く思いました。ボーカルとしては歌詞によって、曲調によって、感情の込め方が前に比べて変わってきたなって、今回のアルバムのレコーディングの時実感しました。今回すごく色々なことに挑戦したアルバムなので、歌詞もそうですけどメロディに合わせて感情を込めるという部分では、すごく意識をしました」(矢野)。

「本質より大切なことはないということを、この状況の中で強く感じた」(太我)

             太我(Dr)
             太我(Dr)

「僕が一番感じたことは、本質より大切なものはないということです。僕が音楽を始めた頃は、いい曲で、歌も演奏もうまければ売れる、と思っていました。でもそれって間違っていて、カッコいいから売れるのではなくて、売れたからカッコいいんです。YouTubeもそうで、面白ければ数字が伸びるってみんな思っていると思いますが、それは違います。いかに知ってもらうかが大事で、伸びたから面白いんです。その思考に変わってからは、意識するところも大きく変わりました」(太我)。

それぞれが思いを新たにし、大切なことに“気づけた”という部分では、この状況も悪いことばかりではなかったと思えるのかもしれない。バンドの太い芯の部分がより強固になった手ごたえをそれぞれが感じているようだ。

「誰かに憧れることをやめた。自分たちは真逆に進まないと結局そこに道はない」(田口)

「この期間で、誰かに“憧れる”ことをやめました。例えばUVERworldさんが大好きだったり、昔からコブクロさんもずっと聴いていますが、その人たちに憧れて今まで音楽をやってきました。でも考えてみると、憧れているアーティストの方は、みなさん全然食べていけるんですよ、もう憧れていた位置にいるから。でも今からそこを目指してる僕らからすると、同じ道を辿っても、この人たちはそれぞれそういう道があったんだろうなって思った時に、自分たちは真逆に進まないと、結局そこには道はないって思えて。そうでなければこんなに振り切ってYouTubeはできないと思うし、やっぱり誰も行ってないところを選ぶ、徹底的にブルーオーシャンを選ぶという意識はこの時期に強くなりました。間違ってるって言われたほうをガンガンやっていきます。ファンがえ?って思うこともあると思います。でもそもそもそれをひっくり返してきたのがノンラビの歩み方なので、それにワクワクしてもらえるような人たちになれればいいなって」(田口)。

前述した「全部いい」という曲は、合唱バージョンもある広く愛されている曲で、一方で今TikTokで話題の、偏見あるあるをとにかく突き刺してくる「偏見じゃん」と、その振り幅の広さ、本音をきちんと伝えるスタイルは、子供たちや若いリスナーのヒーローになる要素充分だ。いやすでにヒーローになっている。

「自分達のことをシンプルに出せば“振り幅”があると言われると思っていた」(田口)

「ロックバンドだしYouTuberだし、バカだし、だらしないし、それを曲にしていけばいいなって思っていて。YouTubeではアホなこと言ってるのに、音楽やったら本気ってことは、音楽の中でも同じような目線で作ったら、振り幅って言われると思ったし、そもそもこんな3人が集まった時点で振り幅があるし、それをシンプルに出せばいいと思っています(笑)。だから『全部いい』の後に音楽への正直な思いを書いた『音の祭』のような曲が生まれてきます。光の部分を書いたら、影の部分も書かなければ嘘になります。僕らはいいお兄ちゃんたちで終わりたくなくて、突き刺す曲を書かなければいけないと思っています」(田口)。

最後にライヴへの思いを聞いたところ、意外な答えが返ってきた。

「お客さんを100%入れていい状況にるまでライヴはやらない」(田口)

「今ライヴはお客さんを50%に減らして行わなければいけません。でも僕達は100%入れていい状況になるまで、やりたくないです。結局お客さんが楽しいと思えないと思います。ライヴってわざわざ行って、パンパンのフロアで苦しい思いをしながら観たり一緒に歌うから、面白かったとか、いい言葉が聴けたとか、感動したって僕らは思ってきたので。そこにお客さんがいないからやりたくないのではなく、みんなぐっちゃぐっちゃになるのが楽しくて、ストレス発散に来ていたのに、会場に来ていい感じにスペースがあっても、楽しんで手なんか上げられないですよね。そうすると楽しかったねってお客さんが帰っていくイメージが見えてこないんです。だからそういうライヴができるまでは、僕らはやらないって宣言しています。YouTubeをやっているから配信ライヴをやったら?って言われますが、逆にやっているからやりたくないんです。意味がないというか、画面越しで見るときはふざけてるお兄ちゃんでいないといけないんです。もっとカッコいいところを見たいから、ライヴ会場に行こうって思えるのだと思います」(田口)。

彼らが選ぶ道が、その時は“変”と思われるかもしれないけど、気がつくとそれがスタンダードになっているかもしれない――そう強く思わせてくれる、強力なエネルギーを持ったこのバンドが、シーンを面白くしてくれそうだ。

Non Stop Rabbit オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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