ドラフト候補カタログ【6】片山勢三(パナソニック)
その名を聞いたのは、2013年初頭。センバツ21世紀枠の九州地区推薦校に選ばれた、門司学園高(福岡)をたずねたときだ。当時の大久保誠監督。
「キャッチャーの子が、なかなかいいんです」
そのキャッチャーが、片山勢三だった。続く13年夏の、福岡大会。門司学園高はベスト8に進出し、福工大城東高と対戦するが、9回の攻撃を迎えるまで5点のビハインドだ。そこで2点差と追いすがり、打席には片山。これが、ものの見事に劇的な逆転サヨナラ3ランをぶち込むのだ。片山は、宗像高との4回戦でも逆転満塁本塁打を放つなど、高校通算32本塁打。21世紀枠の最終候補に残ったセンバツ、ベスト4にとどまった夏とも甲子園出場は逃したが、それ以降、気にかかる存在だった。
進学した九州共立大では、1年春からベンチ入り。2年春にはおもに四番を務めるようになり、4年間で本塁打王2回など、リーグ戦通算14本をマークした。大学4年で出場した神宮大会で2HRし、屈指の長距離砲として18年、社会人のパナソニック入り。当時片山は、こんなふうに語っていた。
「野球は、じいちゃんに教わったんですよ。3、4歳でプラスチックのバットを買ってもらい、中学時代はバッティングセンターに一緒に行って、打ちながらじいちゃんが指導してくれるんです」
社会人野球経験者の祖父が育てた長距離砲
祖父・今村隆行さんは、門司鉄道局でプレーした選手。その影響もあり、大学までは「プロ志望ではなく、安定した社会人でプレーしたかった」。今村さんとしては、門司鉄道局の後身であるJR九州への入社を願ったようだが、本人は「祖父を見返したい」と名門・パナソニックへの入社を決めた。チーム合流後すぐ、全員の前で叫んだ抱負は「本塁打王とベストナインが目標です」。期待は大きく、春先から四番に定着すると、東京スポニチ大会から3本塁打と、いきなりの量産体制だ。
ただ、都市対抗の近畿地区2次予選。「左腕のチェンジアップにいいようにやられてから」スランプに陥り、2次予選通算20打数1安打のどん底だ。JR東海との都市対抗1回戦も、スタメンを外れた。だがその試合、8回に代打で登場すると、高めの変化球をものの見事に左翼席へ豪快弾。ど派手な、社会人全国大会デビューだった。結局1年目の片山は、本塁打王の岡崎啓介(日立製作所)と同数のシーズン6本塁打。打率・414は4位で、本塁打のタイトルは惜しくも逃したものの、目標のベストナイン(指名打者)を獲得している。
そうなると、「まずは安定」と社会人野球に飛び込んだ片山にも欲が出てきた。「目ざすのはプロの上位指名。それには守備が課題なので、1年目のシーズン終了後は三塁の特守を受けていました」。確かに、いかに長距離砲であっても、指名打者専門ではプロの世界の需要は低い。そこで三塁に挑戦し、試行錯誤しながらいまは「高校では捕手だったので、ショートバウンドの処理には自信がある」という一塁に落ち着いている。「守備に神経を遣うため、シーズン当初は不振でした」と、都市対抗予選では四番の座を譲ったが、徐々に守備に自信が出てくると打棒も復調。都市対抗本番の東京ドームでは四番に戻り、自身一発はなかったもののチームはベスト8まで進出した。
ぽっちゃりスラッガー誕生か
176cm、105kg。「(門司学園)高校時代は、ドカベン2世といわれました。実際、高校の大久保監督と知り合いだった香川さんが、練習を見にきたこともあります」と片山はいうが、いまならば山川穂高や中村剛也(ともに西武)あたりを思い起こさせる、ぽっちゃりスラッガーだ。今季もすでに、公式戦で4本塁打の片山はいう。
「山川さんや中村さんの存在は、プロを目ざすうえでの励みになります。参考にしているのは、中村さんの柔らかさ。あの右手の使い方、力まないスイングが理想です」
それと……一発と確信したときのバットの投げ方がだれかに似ていると思ったら、「ノリさんのをまねました」。同じ中村でも、中村紀洋(元横浜など)のほうだとか。その"ノリさん"も、やや小太りのホームラン打者だった。ぽっちゃりスラッガーの系譜に、片山も連なっていくか。