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U-17女子ワールドカップ開幕へ。コロナ禍の試練を乗り越え、粒ぞろいの新世代リトルなでしこは輝くか

松原渓スポーツジャーナリスト
U−17日本女子代表

【喜怒哀楽をピッチで表現】

 FIFA U-17女子ワールドカップが10月11日、インドで開幕する。8月にコスタリカで行われたU-20W杯では、ヤングなでしこが準優勝。リトルなでしこの飛躍にも期待がかかる。

 チームを率いるのは、2015年から女子選手の指導に尽力してきた狩野倫久(かのう・みちひさ)監督。JFA女子委員長の佐々木則夫氏曰く、「先生のような雰囲気」を持つ”育将”だ。その指導はロジカルで、熱い。

 大会に臨む21名の選手とスタッフは、ドバイ(UAE)で国内合宿を行った後、10月5日に開催地のゴア(インド)に入り、開幕に向けて準備を進めている。

 グループステージでは、10月12日(水)にタンザニア、15日(土)にカナダ、18日(火)にフランスと対戦する。

 チーム発足から2年間、国内合宿を重ねて完成度を高めてきた。その過程で、狩野監督は選手たちの心の変化にも丁寧に向き合ってきた。新型コロナウイルスの影響で、休学や体育祭などイベントの中止・延期を経験し、我慢することを強いられてきた学年だ。チーム発足当初は、その影響も見られたようだ。

「この年代は本当に感受性豊かで多感な時期で、思いきり笑ったり怒ったり、というようなことが日常にあったはずですが、コロナの影響で黙食やソーシャルディスタンス、『会話を控えましょう』と制限がかかりました。それによって、最初のキャンプなどでは雰囲気がギクシャクしたり、コミュニケーションが取りづらそうなところもありました」

 合宿の中では、自分の感情をしっかりと表現することで、その殻を破ることも求めてきた。狩野監督は言う。

「今大会では大好きなサッカーができる喜びや、世界の大会で戦える喜びを体現しながら、喜怒哀楽を精一杯ピッチで表現できるように取り組みたいと思います」

狩野監督
狩野監督

 志向するサッカースタイルはなでしこジャパンやU-20とも共通。攻守にアグレッシブなプレッシングサッカーを目指している。

 ただし、コロナ禍で対外試合ができず、直前に行った8月のフランス遠征が最初の海外経験となった選手も多い。それでも同遠征では地元のクラブやU-19フランス女子代表とのトレーニングマッチで3連勝。海外勢のパワーやスピードも体感し、対策を徹底して大会に臨む。

【期待の新世代】

 日本はU-17、U-20、そしてA代表の3カテゴリーで優勝経験がある唯一の国だ。特定の世代が飛び抜けて強かったわけではなく、U-17では過去3大会で2度の決勝進出、U-20では3大会連続のベスト4入り(うち2回は決勝)と、世代を超えて好成績を維持してきた。

 海外勢は10代でも大人顔負けの高さやスピードを持つ選手が多くいる。日本はフィジカル面で劣るが、「止める・蹴る」の基礎技術や、戦術理解度、組織力において優位に立てることが多い。

 今大会に臨む21名も、才能豊かな原石たちだ。選考の基準は、心・技・体のすべてにわたる。

「技術、戦術、フィジカルだけではなく、その選手がチームに何をもたらしてくれるか。それぞれのストロングポイントや良さをいかにチームに還元してもらえるかを考え、メンタル的にも明るくチャレンジできるような選手たちを選びました」(狩野監督)

 今大会のU-17代表は、戦術的柔軟性(複数ポジションができる・急なシステム変更に対応できる)も強みだ。FWが7名と多くなっているが、DFでもプレーできる選手が多い。所属クラブでの取り組みはもちろんだが、代表活動の中でも選手個々の引き出しを増やしてきた。それは、チームとしての戦い方の選択肢の多さを意味する。

育成に定評のあるクラブから選び抜かれた21名が出場する
育成に定評のあるクラブから選び抜かれた21名が出場する

 また、フィジカル面でもたくましい。DF楠(くすのき)さやみ(174cm)、DF古賀塔子(173cm)、MF谷川萌々子(168cm)、FW高岡澪(170cm)、FW白垣うの(168cm)ら、各ポジションに長身選手がズラリ。特に、守備陣は平均身長が167.7cmと高い。21名の平均身長は163.9cmだ。この数値は、8月のU-20代表の平均身長(163.4cm)よりわずかに高く、なでしこジャパンの平均身長(直近の国内2連戦25名平均は164.4cm)にも迫っている。

「各チームで体幹やボディバランスの強化にも取り組んできたので、コンタクトプレーに対して臆することなくチャレンジできる強さは持っています」と、狩野監督は期待を込めた。

 16歳のFW松永未夢は、WEリーグで出場経験がある一人だ。また、昨年末の皇后杯では、日テレ・東京ヴェルディベレーザの下部組織メニーナの一員として出場し、プロチームを破ってベスト4進出の原動力となった。細かいタッチのドリブルは、対戦国を手こずらせるだろう。「相手が強ければ強いほど自分の力を出せます。まずは点を取ることと、自分が取れなくても味方にアシストしたり、味方に点を取らせたりして勝利に導いて、個人的にはMVPを取りたいです」と、意欲に満ち溢れている。

松永未夢
松永未夢

 また、DF中谷莉奈(セレッソ大阪堺ガールズ)も、「いずれはプロの舞台でプレーしたいので、この大会でしっかりアピールしたいです」と、ステップアップのきっかけを掴みにいく。

 狩野監督の練習メニューは「頭を使う」ものが多く、選手たちはそのメニューをこなしながら多くの能力を獲得してきた。173cmの長身で、リバプールのファン・ダイクに憧れているというDF楠さやみは、「よく頭がこんがらがってしまうんです(笑)」と照れ笑いを浮かべつつ、こう続けた。

「一人では打開できないようなメニューなので、複数人で打開していくためにどうするかを考えます。あとは次の次のプレーとか、予測の部分でも頭を使いますね」

楠さやみ(右)と中谷莉奈(左)
楠さやみ(右)と中谷莉奈(左)

 他にも、ボールの大きさを変えてリフティングをすることで集中力を高めたり、複数のビブスを使ったゲームなど、メニューは様々。脳を活性化させながら、「知識ではなく知恵を獲得していく」(狩野監督)ことを重視してきたという。

【グループステージ突破へ】

 今大会は、規定によりピッチサイズが64cm×100cmと、通常(68×105)よりも小さい。日本の武器であるハイプレスを生かしやすくなるが、コンタクトプレーを避けるためには、より素早い判断力や調整力、正確な技術が求められる。

 初戦のタンザニアは初出場だが、アフリカ勢らしい独特の身体能力の高さが脅威となる。カナダは、A代表から一貫したコンセプトで、個の強さを持った選手がいる。3戦目のフランスは、育成年代の強豪国だ。「人種が多様で、サイドには速い選手、前にはうまくて高い選手が多くいます」と、狩野監督は警戒する。グループステージ突破に向けて、初戦から2連勝してアドバンテージを得ておきたい。

 インドの地で、女子サッカー界の原石たちはどんな輝きを見せてくれるだろうか。20日間の熱い戦いが、いよいよ幕を開ける。

*写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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