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伸びGoogle・Meta超え、Amazon広告事業が急成長中

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:當舎慎悟/アフロ)

米アマゾン・ドット・コムのネット広告事業が急成長しており、事業売上高の伸び率で米グーグルや米メタ(旧フェイスブック)を上回っていると、米CNBCが報じている

アマゾンのネット広告18%増収

アマゾンの2022年4〜6月期におけるネット広告事業の売上高は87億5700万ドル(約1兆2600億円)で、前年同期比18%増加した(アマゾンの決算資料)。

これに対し、グーグルの同四半期のネット広告売上高は562億8800万ドル(約8兆900億円)で、同12%増(アルファベットの決算資料)。

メタのネット広告売上高は281億5200万ドル(約4兆500億円)で、同1.5%減だった(メタの決算資料)。

メタは、売上高全体の約98%を占める広告事業が振るわず、上場以来初の減収となった。景気減速への懸念から一部の企業が広告費を抑制したほか、米アップルがアプリの個人情報保護規制を強化した影響を受けた。

アップルの個人情報保護強化、SNSに打撃

アップルは21年4月、利用者のプライバシー保護を目的とした新ルール「アプリのトラッキング透明性(ATT)」を導入した。アプリ運営会社に対し、行動データの計測と追跡に利用者の同意を求めるよう義務付けている。具体的にはターゲティング広告配信に必要となる端末固有の広告用識別子「IDFA(Identifier for Advertisers)」をアプリが取得する際、ポップアップ画面を出して利用者から許諾をとる(オプトイン)ようにした。

しかしほとんどの利用者は許諾していない。米調査会社インサイダー・インテリジェンスによると21年12月時点で、これを承諾した米国人利用者は4割弱にとどまった。これにより、各SNS(交流サイト)上の広告は利用者の絞り込み精度が低下した。アップルの新ルールによって、広告収入が大きく減少した企業には写真共有アプリ「スナップチャット」を運営するスナップなどもあると指摘されている。

主要オンラインプラットフォームの、22年4〜6月期におけるネット広告売上高の前年同期比は以下の通りだ。

・アマゾン — 18%増

・スナップ — 13%増

・グーグル — 12%増

・ピンタレスト — 9%増

・ツイッター — 2%増

・フェイスブック — 1.5%減

米ネット広告3位のアマゾンは独自路線

インサイダー・インテリジェンスの別のリポートによると、米国ネット広告市場における収益ベースのシェアは1位から、グーグル(28.6%=21年末時点、以下同じ)、メタ(23.8%)、アマゾン(11.6%)の順。

アマゾンの広告事業は、上位2社に比べて依然規模が小さいが、アップルの新ルールなどの影響を受けにくいため、今後も伸びていくとみられる。一方で、グーグルとメタのシェアは緩やかな低下、あるいは横ばいで推移するとインサイダー・インテリジェンスは予想している。

SNSの広告配信がアプリストア運営会社のプライバシーポリシーに大きく影響を受ける中、アマゾンは他社システムと連携しない、独自のECプラットフォームを構築している。広告主はそこで直接広告を打っている。

インサイダー・インテリジェンスのアナリスト、アンドルー・リップスマン氏は「景気後退を懸念している企業は、アマゾンのECサイトのような短期投資回収が見込めるサイトに、より多くの広告予算を振り向けている」と指摘する。

アマゾンは先の決算発表で、22年7〜9月期における全体の売上高が1250億〜1300億ドル(約17兆9600億〜18兆6800億円)になるとの予想を示した。前年同期比で13〜17%の増収になるとみている。

これについて、リップスマン氏は、「アマゾンの広告事業はEC事業と同じように推移するため、このガイダンスは同社の広告部門にとって良い知らせだ。長期的に、アマゾンは巨大な広告事業を構築していくのだろう」と述べている。

  • (このコラム記事は「JBpress Digital Innovation Review」2022年8月5日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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