強豪ドイツと2-2のドロー。なでしこジャパンがW杯直前の遠征で掴んだものは?
【ドイツから2度のリードを奪った日本】
なでしこジャパンは9日、ドイツのベンテラー・アレーナでドイツ女子代表と親善試合を行い、2-2で引き分けた。
1-3で完敗したフランス戦から中4日。高倉麻子監督はフランス戦から3人を変更し、トップにFW菅澤優衣香、左サイドにMF遠藤純、GKに代表2試合目の平尾知佳を抜擢した。システムはMF長谷川唯がトップ下に入る4-2-3-1を選択。本大会での連戦を見据えて、ある程度メンバーを固めた中での「継続」と「修正」、さらに相手の変化への対応力が問われる試合となった。
一方、ドイツは6日に行われたスウェーデン戦(ドイツが2-1で勝利)から中2日で、スターティングメンバー4名を変更して臨んでいた。マルティナ・フォス・テックレンブルク監督は指揮を取って3試合目。若い選手が多いが、16年の五輪で優勝経験もあるエースのFWマロジャン、MFポップらを中心としたパワフルな攻撃はやはり迫力があった。
ほとんどプレスが効かなかったフランス戦に比べて、守備は明らかに改善されていた。
中盤と前線のポジションを流動的に入れ替えながらパスをつなぐドイツに対し、日本は全体をコンパクトに保ってスペースを消し、球際も攻めた。サイドは人数をかけることを徹底していた。
その連動した守備が、前半35分の先制点の呼び水となった。
ドイツはDFのバックパスをGKシュルトがキックミス。そこを見逃さなかった長谷川が、ゴールまで20m以上はあろうかという距離から、鮮やかなダイレクトシュートで決めた。
しかし、問題は攻撃だ。相手のプレッシャーをかわしきれずにカウンターから押し込まれる展開は、フランス戦で陥った悪い流れの繰り返しだった。
セットプレーやコーナーキックではDF熊谷紗希とDF南萌華を中心に粘り強く跳ね返し、1対1の場面は平尾が好セーブを連発してなんとか凌いでいたが、攻撃で流れを変えるプレーが生まれてこない。そして、嫌な予感は的中する。
後半、ドイツは一気に3枚を交代し、フォーメーションも4-4-2に変更。前半とは打って変わって縦に速い攻撃を仕掛けてきた。すると、日本はこの変化に耐えきれずに左サイドからのクロスを許し、ゴール中央から飛び込んだポップにヘッドで叩きこまれた。
嫌な流れを変えたのは、55分に投入されたFW横山久美だ。
「ドイツで1年間プレーさせてもらった成果」と、本人も自信を示すキープとドリブルで違いを作り出す。これに、同じく交代で左サイドハーフに入ったFW小林里歌子が呼応し、流れを引き戻した。すると69分、ドイツは再びGKがパスミス。これをカットした横山が、MF中島依美とのワンツーから冷静に流し込んで再びリードを奪った。
直後に右サイドバックにDF宮川麻都が交代で入り、一気に畳み掛けたいところだったが、逆にその3分後、右サイドからのクロスから再び同点にされた。
83分にはMF猶本光、FW植木理子を投入。ともに5名の交代枠を使ってオープンに攻め合ったが、ネットを揺らすことはできず。終了間際には再びマロジャンにフリーで抜け出される大ピンチを迎えたが、ここも平尾が体を張ってブロック。試合はドローでの決着となった。
【W杯で上位進出を目指すために】
相手のミスを見逃さずに2ゴールを決めたことは大きいが、内容面ではドイツが前半と後半で2つの顔を見せた中、攻守で先手を取れなかったことは悔やまれる。今回のフランス、ドイツとの2連戦で、筆者は3つの課題を感じた。
(1)相手の強いプレッシャーに対してパスが繋がらない
2試合で「5」という失点数の多さは、被シュート数の多さに起因している。それは、攻撃がうまくいっていないことの裏返しでもある。
「相手が速くて強いと、自分たちも(同じペースで)突っ込んでしまう。(ドイツ戦では)自分たちのペースでボールを動かしていくことにトライしてくれました」
攻撃に関しては基本的に厳しい評価をする高倉監督だが、この試合ではフランス戦から改善した点についてこう語っている。
攻撃の軸は、中島と長谷川だ。
中島は、「自分たちの良さであるポゼッションやコンビネーションの質をもっと高めないと」と危機感を募らせ、長谷川は「ポジショニングをチーム全員で細かく修正していきたいです」と強調した。
相手のプレッシャーが強い時、ポジショニングは生命線となる。数十センチの違いがゴールにもつながり、失点に直結することもある。ポジショニングは、ピッチに立つメンバー同士のコミュニケーションも決め手となるため、メンバー発表後、大会までの短期間で一気に高めていきたい。
(2)前後半の立ち上がりや交代後に失点しやすい
この試合では、後半の立ち上がりと、72分の交代直後に失点。加えて、55分の交代の直後にも立て続けに2度の大ピンチを迎えている。ここは平尾のセーブと相手のシュートミスに救われた。
「後半、(ドイツがペースを)上げてきましたが、正直、自分たちの後半の入りは緩かったなと。相手がハーフラインを越えたらもっとプレッシャーにいくべきだったと思うし、1点のリードがあることで受け身になった部分はあると思います」
DF鮫島彩はそう振り返っている。前後半の立ち上がり15分と、交代直後は、特に集中力を高める必要がありそうだ。
(3)クロスからの失点が多い
失点の場面はいずれも、相手のサイドの選手にフリーでゴール前にクロスを入れられた。フランス戦も合わせると、5失点中4失点がサイドからのクロスからだった。小柄な選手が多い日本に対してクロスは効果的であり、日本もサイドでは縦のコースを消してスペースを与えないなどの工夫を重ねている。だが、こちらが対策すると、それに対してさらに対策を立てられる。フランスの場合は単純なクロスだけではなく、アーリークロスや中央を経由してからの突破など、スペースの使い方も含めて巧みだった。
この点については、オンザピッチの修正力がカギになりそうだ。
一方、筆者が試合を見るなかで、これは収穫だったと嬉しく思ったことを3つ挙げたい。
(1)フランス戦のダメージから、中4日で切り替えた
W杯本大会でも、予想外の敗戦や引き分けは起こり得る。グループステージであればまだチャンスはあるため、内容面で修正を図りつつ、気持ちの切り替えがポイントとなる。
今回、その切り替えに重要な役割を果たしたのが選手間のビデオミーティングだった。以前は近いポジションの選手同士などで行なっていたが、今回の遠征では「全員参加にしました」と、鮫島は言う。
W杯の最終メンバー発表はまだ先だが、今大会では全員が選ばれるつもりで、同じ危機感を共有した。
「フランス戦からドイツ戦の間はみんなで映像を見て確認や話し合いを重ねたので、意志統一ができた感じがありました」
右サイドバックのレギュラーであるDF清水梨紗も、その成果を口にした。
(2)最終ラインが安定し、2試合で積み上げを確認できた
これまで、テストマッチや親善試合では最終ラインも含めてメンバーが固定されることはなかったが、今回は2試合とも4バックの顔ぶれが同じだったこともあり、フランス戦で出た課題をドイツ戦で修正し、自信を持ってラインを押し上げることができていた。その点では、けが人が多く熊谷の相方が流動的だった中、代表4試合目でレギュラー候補に名乗りを上げた南の台頭が大きい。熊谷のコーチングは賑やかなスタジアムでもはっきりと声が通るが、南もしっかりと声を出し、ビルドアップでも周りを動かしていた。
(3)若い選手たちが抜擢に応えた
南の他にも、大舞台で実力を示した選手がいた。
これまで、キーパーはGK山下杏也加とGK池田咲紀子の2人がチームを支えてきたが、3人目のGKは様々な選手が試されてきた。その中で、W杯アジア予選などで名を連ねてきた22歳の平尾が、この大一番で強烈な存在感を発揮した。
恵まれた体格と抜群の反射神経で、相手FWとの1対1を何度も制し、ビルドアップにも積極的に参加。2失点目はキャッチミスでゴールを献上し悔しがったが、引きずることはなく、その後も好セーブでチームをピンチから救っている。この試合で最も印象に残った選手だ。
攻撃陣では、最年少の18歳、遠藤が持ち味を発揮した。フィジカル面では167cmの高さとスピードという強力なスペックを備えているが、トレーニングでは個人技から得意の左足で決める場面も多く、判断スピードや技術面でもフル代表で通用することを証明している。この試合ではドイツの選手の間合いに早い段階で慣れ、高い位置を取る相手サイドバックをうまく牽制した。攻撃では、25分にドリブルで仕掛け、良い位置でFKを獲得。縦の関係を組んだ鮫島とのコンビネーションで崩した30分のプレーは、ドイツサポーターをも沸かせた。
「守備の強度はイメージできました。あの場面は、相手の右サイドの3番の(DFヘンドリック)選手が食いついてくるとわかっていたので、さめ(鮫島)さんと話して狙っていた形でした」(遠藤)
相手が強ければ強いほど力を引き出されるタイプで、大舞台での強さは優勝した昨夏のU-20W杯でも実証済みだ。そのポテンシャルにはさらなる奥行きがありそうだ。
【W杯メンバー発表に向けて】
2試合を振り返ると、テスト色が強い戦い方だったドイツに対し、やはりフランスの強さは際立っていた。男子とのアベック優勝も狙うフランス女子代表は、スピードやパワーといった従来の強みに加えてテクニック、多彩な戦略、最後まで走りきるメンタリティなど、強化も順調に進んでいる印象だ。実力は世界ランク1位のアメリカと双璧だろう。日本にとって結果は悔しいものになったが、あのレベルを“基準”にできれば、W杯での上位進出は見えてくるはず。
だからこそ、そのような相手とこの時期に対戦できたことは貴重な経験だった。
「(6月のW杯は)ダークホースという立場になると思いますが、タダでは転ばない、という試合を粘り強く一つひとつ戦っていく中で、優勝が見えてくればと思います」(高倉監督)
今回の2連戦は、昨年12月にパリで行われた抽選会で決まった。本大会の組合せが決定してすぐに、高倉監督が、予選で当たらないフランスとドイツの両監督に対戦を持ちかけ、その場で握手を交わしたという。日本の過去の実績と挑戦者の熱意が、両監督を動かしたのだ。
今後は、大会に向けてメンバー発表と直前合宿を残すのみとなった。
指揮官の頭の中で、23名の最終メンバーは固まりつつある。
「経験のある選手が必要になる場面や、若い選手の勢いをどういった形でチームに入れていくか、全体的なポジションのバランスを考えてチームを編成したいと思います」(高倉監督)
MF阪口夢穂、FW岩渕真奈の2人はケガにより代表戦から長く離れているが、実績と実力を考えれば、最終メンバー入りしてもおかしくはない。
1ヶ月の長期にわたる国際大会だからこそ、修羅場をくぐってきた経験がモノを言う場面は多くなるだろう。一方で、若さがチームを勢い付けることもある。
チーム発足から約3年で、50名を超える候補にチャンスが与えられてきた。その中で、最後に選ばれる23名は誰なのか。
最終的なコンディションの見極めの場となるのは、来週末から再開される国内リーグだ。各スタジアムでの活躍が期待される選手たちをチェックしつつ、5月の発表を心待ちにしたい。