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もしも学校で日焼け止め使用を禁止されたら

加藤順子ジャーナリスト、フォトグラファー、気象予報士
学校現場の紫外線対策に最新の知見を(写真:アフロ)

先日、学校での日焼け止め使用について、こんな書き出しで始まる記事を見つけました。

小中学生の子どもを持つ親が、夏になると直面する問題。それが、「プール授業での日焼け止め禁止」だ。皮膚科医からは対策を求める声も上がるが、「禁止」が続く。

出典:「プール授業の日焼け止め」巡る親と学校の攻防〈AERA〉(7月24日配信)

この記事を見て最初は、「1年前の古い記事が発掘されたのかな」と思いました。昨夏も、日本臨床皮膚科医会と日本小児皮膚科学会や名古屋大の内田良准教授によって、全く同様の問題提起がなされていたからです。あれから現場の方針が何も変わっていないまま、あちらこちらの学校で、保護者と先生たちの間で不毛な攻防が続いていたことを知りました。

■大臣も「禁止でなく、柔軟な対応を」と国会答弁

実は、体育や部活等の学校での紫外線対策については、実は昨夏、衆議院の文部科学委員会で、維新の党の初鹿明博委員が当時の下村博文文科相から事態改善に向けた前向きな答弁を引き出しています。ですので、この問題は解消済みだろうと思っていました。しかし、違ったんですね。

前出の記事では、こうした教育行政の経緯が一切書かれていませんでしたので、1年前の国務大臣答弁を掘り返し、その後の展開を調べてみました。まずは、昨年8月の衆議院文部科学委員会でのやり取りです。

【初鹿議員】紫外線というのは、しみやそばかすだけじゃなくて、皮膚がんのリスクを高めるということが言われているわけですから、子供のときにしっかりした紫外線対策というのが私は必要だと思いますので、日やけどめクリームを塗るのを禁止するという学校は、禁止することを禁止してもらいたいと思うんですけれども、大臣、御所見をお伺いいたします。

【下村大臣】 これは初鹿委員のおっしゃるとおりだと思います。この「水泳指導の手引」というのも、相当前の時代につくられたのかなという印象を持ちました。

御指摘のとおり、紫外線による健康への影響については、児童生徒一人一人によって異なる。また、各学校現場において、そういう意味では必要に応じて適切な対応はやはり必要だと思います。

今後とも、各都道府県教育委員会において、各学校において、水泳の授業や運動部活動における紫外線の対策について、そういうようなことを禁止するということでなく、柔軟に対応できるような、適切な実施がされるような、そういうことを努めてまいりたいと思います。

出典:第189回国会 文部科学委員会 第17号(平成27年8月5日(水曜日)議事録

当時の下村大臣がここまで前向きな発言をしておきながら、文科省がまさか何も対応していなかったのでしょうか?

文科省は大臣答弁を受けて同月中の2015年8月28日、全国各地の国公立、私立問わず、小学校から高専、大学までの学校設置者に宛てて「体育活動中における紫外線対策について」という事務連絡文書を出しています。

その内容は、環境省が策定した「紫外線環境保健マニュアル2015(PDF)」を参考にして、「紫外線に関する最新の知見を踏まえて必要に応じて適切な対応」を学校現場にお願いするものになっています。

この事務連絡の文書、文科省のサイトには掲載されていませんが、「体育活動中における紫外線対策について」という文書名で検索すれば、いくつかの都道府県の教育委員会のウェブサイトに掲載されているのが見つかります。

文書上は日焼け止めの可否などには触れていませんし、文科省と学校設置者の関係上「お願い」レベルでなんともはっきりしない表現に留まっていますが、この「必要に応じて適切な対応」とは、現場の教員や部活等の指導者、引率者が、知識不足のまま勝手に独自ルールで対策を怠っていいというものでは決してありません。

それは、当時の文部科学委員会でのやりとりをみればわかりませす。初鹿委員は、文科省が教員向けに作成した「プール指導の手引き(三訂版)]」では、以下のようにしか紫外線対策について書かれていないことを指摘しています。

盛夏の暑いときや紫外線の影響が強いと考えられるときには、タオルで身体を覆わせたり、休憩テントの中で待機させるような配慮も必要です。

出典:文科省 学校体育実技指導資料第4集「水泳指導の手引(三訂版)」第4章 水泳指導と安全

この指摘に対し下村大臣も「相当前の時代に作られた印象を持ちました」と感想を述べています。事務連絡の文書が、環境省のマニュアルを引き合いに出して「最新の知見を」と呼びかけているのは、文科省の手引では情報が古くて不足しているという認識を確認し合った伏線があるからです。

■幼稚園やこども園も「保護者と相談しながら」と文科省

なお、文書は当時、学校安全に関する当時の担当部署であった<スポーツ・青少年局の参事官(体育・青少年スポーツ担当)付(現在のスポーツ庁学校体育室)>名義で出されています。このため、なぜか幼稚園やこども園が文書の対象から外れてしまっています。

これについて同省の幼児教育課に尋ねると、「どういうことなのでしょう……」と、幼児教育・保育現場を文書対象から外した当時の同局スポーツ安全係の判断に戸惑っていました。幼児教育課ではこれまで通知等は出していないということですが、幼児教育や保育の現場でも「園側が勝手に決めるという訳にはいかない。保護者の方と相談しながらやっていただく」と、当該文書と同様の対応が望ましいという旨を筆者の取材に答えています。

■子どもたちが紫外線リスクを上手に避けられるように

このように、学校での紫外線対策のあり方は現場の判断には委ねられているものではありますが、大臣見解や事務連絡文書、啓発マニュアルにあるように、子どもたちを紫外線のリスクにさらすことは上手に避けようというのが、行政の方針です。さらに、日本臨床皮膚科医会と日本小児皮膚科学会による医学的な見解でもあり、日焼け止め剤の普及を見ても社会の共通認識になりつつもあるといえるでしょう。

学校現場の先生やコーチ等との交渉に手間取っておられる方は、こうした情報や認識が現場に行き渡るよう、最後のひと押しをする必要があります。この事務連絡文書とその中で紹介されている環境省のマニュアルを手に、最新の知見を踏まえた対応を教育委員会や学校長など管理者に求めてみるのもよいかと思います。

学校管理下での日焼け止めの利用について、もし本当に「攻防」があるのだとすれば、学校と保護者間だけでなく、子どものために許可したくても上司や同僚の理解が得られなくて困っている先生の姿も想像できます。

紫外線による健康リスク対策は、「子どもの健康管理や安全管理」という視点からも、学校と保護者とが一緒になって取り組んでいくことが必要だと感じます。

■日焼けによる炎症が起きたら、制度を利用して医療費の請求を

さらに、保護者が知っておくよいことがあります。それは、残念ながら体育やプール、部活、野外活動等の学校管理下での活動で、お子さんに日焼けによる火傷や皮膚炎の症状が出てしまった場合のことです。

熱中症やその他の事故等も同様なのですが、学校管理下で生じた事故や疾病は、被害者や患者さんに給付金が下りる仕組みとなっています。皮膚炎や火傷症状は、文科大臣が定める省令で「疾病」と区分され、医療費が健康保険の10割負担で計算して合計5000円(3割負担の計算だと1500円)を超えれば、給付の対象となるが可能性があります。

この制度は、独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)の災害共済給付制度http://www.jpnsport.go.jp/anzen/)というもので、国と学校設置者と保護者が共同で負担して学校で起こった怪我などの災害に備えているものです。子どもの医療費は無料という自治体もありますので、必ずしも給付金が出るとは限りませんが、多くの保護者が、この共済制度を知らなかったり掛け金を払ったこと自体を忘れていたり、学校の先生自体も把握できていなかったりするので、もしも何かが起きたときにはJSCに問い合わせをすることをおすすめします。

ジャーナリスト、フォトグラファー、気象予報士

近年は、引き出し屋と社会的養護を取材。その他、学校安全、災害・防災、科学コミュニケーション、ソーシャルデザインが主なテーマ。災害が起きても現場に足を運べず、スタジオから伝えるばかりだった気象キャスター時代を省みて、取材者に。主な共著は、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)、『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』(ポプラ社)、『下流中年』(SB新書)等。

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