「舞いあがれ!」”テナント募集中”の文字に隠された伏線よりも重要な意味
『テナント募集中』に込められた東大阪の現状
連続テレビ小説「舞いあがれ!」(NHK)では舞(福原遥)が起業した。
制作統括・熊野律時チーフプロデューサーは「町工場の抱えている問題に気づいて舞がはじめる会社は町工場の人たちをつないでいく仕事をするもので、それは新しい展開に向けてのステップになっています」と語る。
起業して満足というわけではなくこの先にまだ展開が待っている。
舞の会社・こんねくとは、すっかりおなじみのあの公園の前のビル。雨の日も晴れの日もつねに「テナント募集中」の看板があった。これは舞がここを借りる伏線だったのだろうか。
熊野「伏線というわけでもないですが(笑)、公園のセットをつくったとき、この界隈では時代の流れとともに消えていく町工場や会社が増えているという状況を表すひとつとして、美術スタッフが『テナント募集中』にしたのかなと思います。舞がいつも目にしていた空きビルの一室を新しく起こした新会社が入る。町工場が減って、みんながしんどい気持ちになっている状況をもう少し改善できないかということではじめる新事業ですから、この場所がふさわしいのではないでしょうか」
御園のやってきたことは役立つ
――御園(山口紗弥加)が新聞社を辞めて舞と一緒に起業することになりました。御園との今後は?
熊野「御園は終盤まで舞のパートナーとして重要な存在になります。新聞記者として取材してきた仕事の先輩として、また、舞の人生の先輩として支えになっていきます。御園はそのからりとした明るさで、舞の悩みや決断を後押ししていきます」
――第103回で御園が「(新聞記者という仕事は)誰かが頑張っているのをのぞきにいってるだけかも」と思ったというセリフがあります。舞にそんなことはない大切な仕事と言われますが、記者をやってきた人間がそういうふうに考えるのは、同じような仕事している身としては複雑な感情が湧きます。営業に異動になったから決意したのだと思いたいのですが。
熊野「営業がいやだから辞めたというわけでもないんです。劇中でも言っていますが、もう一回、人生を考え直そうと思うようになったんです。御園の実家がそもそも町工場をやっていたこともあって、舞たちが頑張っている姿を見て、ものづくりや町工場のことを改めて知っていくことで自分も直接関わりたいと思うようになったんですね。御園なりの、人生の積み重ねたうえでの新たなステップを描きたかっただけで、決してネガティブなことではなく積極的な意味合いです。めぐみ(永作博美)が社長になるエピソードでもやったことですが、何歳になってもいろんな出会いやきっかけがあって、未経験のことでも新しいことに踏み出してみるひとを『舞いあがれ!』では大事にしたい。御園は、舞と一緒にこれからどうなっていくかわからない仕事にチャレンジする思いきりのよい女性に見えたらかっこいいかなという思いがありました」
――新聞記者としての経験も今後、生かされるのでしょうか。
熊野「町工場で働く人達は情報発信があまり得意ではないところがあります。記者は情報発信のプロフェッショナルですから、今後の新会社の情報発信や新商品の開発において、御園のやってきたことは役立つと思います。それこそが『舞いあがれ!』の描いてきたひとつで、ときには大きな方向転換をすることがあっても、これまでやってきたことは決して無駄にはならず、必ず生かされていくというふうに見えるようにしたいと思っています」
それぞれの特性をゆるやかに統合していく
ーー舞のようなリーダーの形が現代的なのでしょうか。
熊野「舞が会社を立ち上げることは最初の構想からありましたが、それに関する取材をすると、現代の2、30代くらいの新しいことをはじめている方々は、少し前のリーダーとは変わってきているように感じました。以前は、先頭に立つ人は、全部自分が決めるワンマンなタイプが多かったように思いますが、いまは、何かやりたいことがあったら、能力のあるひとたちを見極め、声をかけて得意分野は任せる。それぞれの特性をゆるやかに統合していくというやり方をしているリーダーもいるという印象を受けました。舞が終盤やっていく仕事にはそういうタイプのリーダーとして関わっていくことになります。その前に、東大阪の町工場の人たちをつなげていく流れにしました」
連続テレビ小説「舞いあがれ!」
総合:月~土 午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00 ※土曜は1週間の振り返り
BSプレミアム・BS4K:月~金 7:30〜7:45
出演: 福原遥、横山裕、赤楚衛二、山下美月、山口紗弥加、山口智充、くわばたりえ、松尾諭、たくませいこ/永作博美
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太