「恐怖」ボタンを押したグレタ現象への評価、若い世代がニュースに感じる違和感
北欧では若者が政治に積極的に取り組み、大人がその声を聞こうとする姿勢が強い。その事例をノルウェーからいくつか紹介したい。
報道機関が気候危機を巡るニュース配信の在り方について考える「気候ジャーナリズム」カンファレンス(10月29日)では、登壇者の多くがスウェーデンの環境活動家グレタさんについて言及した。
ちょくちょく話題になるグレタ現象
多くの若者を動かし、気候問題にさらなる注目を集めた貢献を評価する一方、彼らはグレタさんを筆頭とする「若い世代」を「怒っている」、「待つことができない忍耐強くない世代」とも表現した。
「恐怖」のスイッチには警戒心も
グレタさんの「怒り」と「恐怖」を根源とする手法には戸惑いを感じているという反応もあった。
彼女がやろうとしていることは、『「怖がれ」と恐怖に誘導する』ことだという指摘もあった。
「今までの世代ができなかったことをグレタさんはしている」
「若い世代とその上の世代の対立という構造形成は新しい手法です。以前はこういう話し方はしなかった。『年上の大人たちが悪い』という言い方には難しい部分もあって、グレタさんはこれをする勇気があり、だからこそ新しい動きを花開かせることに成功したともいえる」(自然青年団体Natur og UngdomのTherese Hugstmyr Woie代表)
必死に政治や社会で起きていることを勉強し、大人と意見を交わそうとする姿勢
場所を変えて、10月30日、オスロでは青年団体Spireが海洋産業と農業についての勉強会を開いていた。
「未来の食システム」のディスカッションでは、
- 「肉なしでも栄養ある食生活はできる」
- 「菜食中心の生活への切り替えを」
- 「サステイナブルな農業」
という求める声があがる一方、彼女たちよりも上の世代の国会議員(中央党)からは反対の意見が飛ぶ。
- 「国会では肉を減らそうという議論は起きていない。むしろ増やそうという動きだ」
- 「農業の専門知識があなた方には足りない」
「気候のための闘いこそ女性の闘い」パネルでは、
- 「災害が起きる時ほど女性や子どもは水などの資源を手に入れるのに苦労する弱い立場にいる」
- 「環境政策に関わるためには、もっと多くの女性が土地や資本を所有する必要がある」
女性のエンパワーメント、「気候」と「女性、平等」のテーマは実はつながっており、そのことに気が付いている人がまだまだ少ないということが話し合われた。
SPIREの会員は13~30歳。現場から伝わってきたのは、若者の社会や政治に対する関心の高さ、学ぼうとする熱心な姿勢だった。
今の若者はネットやスマホで情報を集め、何が起きているかを知っている
Bellona環境財団はノルウェーの気候議論において影響力を持つ団体だ。ノルウェーでの議論に長年関わってきた創設者のFrederic Haugeさんは、「気候ジャーナリズム」カンファレンスで、「現在の若者は大人とは違う存在だ」と話す。
「ネットで育っている若者は、我々が思う以上に既に多くの情報を吸収している。彼らが関心を持っていること、知りたいと思っていることは、私たち大人とは違うのです。若者が知りたがっているのは今何が起きているかではない、彼らはもうネットでそのことは知っている。彼らが知りたがっているのは電気自動車テスラなどの解決策だ」
環境青年団体がメディアに問う、「これはおかしい」
気候ジャーナリズム会議では、環境派とされる運動家や団体を招待し、「メディアには何ができるか?」、「どういう記事を求めているか?」を直接問うシーンが多かった。
ノルウェーで最大規模の環境団体のひとつでもある自然青年団体Natur og UngdomのWoie代表は、報道のされ方に疑問を感じると語る。
若者世代にどうコメントしてもらいたいか事前に決めて取材してくる
「一つの団体としての考えではなく、若者の代表としてインタビューされがち。大人の記者は私たちを見つけると、まるでネタ探しで学校の中を歩いていたら『お!若者を発見したぞ!』というような雰囲気で近づいてくる」
「団体所属=洗脳された若者」と決めてかかる記者や政治家
「学校ストライキが起きて以来、環境団体を情報源や取材対象とするに懐疑的な大人が増えている。団体に洗脳された若者と見られるようになった。『でも、君たちは団体にそう教育されている特殊な若者で、普通の若者じゃないでしょう?』という言い方をする政治家も増えている。それはおかしい。それなら政治家だって政党に洗脳されているでしょう。このような言い方は、若い人へ圧力をかける言論術だ」。
「悔しそうな若者」ばかりを報道したがるのはなぜ
「記者は私たちがこうコメントすることを期待している。『私たちは満足していない。踏みつけにされている気分だ』と。でも私たちが言いたいのは『こうして欲しい』という代替案です」。
Woieさんは、若者にも意見があり、代替案の提示は可能で、こういうコメントが欲しいという前提で取材しようとする記者に警報を鳴らした。
「環境団体が新たな石油掘削に反対しているという、ひとつの事例だけに捉われすぎてはいないか?本来見るべきはもっと遠くから広い目線で見た現象。北極圏での問題やほかのたくさんのニュースの情報の山から見えてくるものは何なのか。遠くから全体を見た目線のニュースが少ない」
政治家の言い分に惑わされないでほしい、若者は同じようには見ていない
Woieさん「権力を持つ政治家の定義にメディアは振り回されないでほしい。何が環境危機で、何が環境保護なのか、何をもってグリーンな政治、環境対策というのか。政府と他の人の解釈は同じではない」
この環境青年団体に対して、カンファレンスの主催者側(ノルウェーの報道機関Medier24)は「私たち記者はあなたたちの活動にどう貢献できるか?」と最後に問いかけた。
Woie代表は「『問題に対する他の解決策は?』と聞いてほしい。『残念です』というコメントを私たちに期待してこないで」と、より良いジャーナリズムのために改善できることがあると伝えた。
Photo&Text: Asaki Abumi