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新型コロナ後遺症の人にワクチンを接種すると、後遺症の回復が早まる? 最新の研究

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

新型コロナに感染した人が後遺症に悩むことがあります。倦怠感、微熱、頭痛、呼吸困難、長引く咳、嗅覚・味覚障害、脱毛、うつ・気分の落ち込み、不眠、ブレインフォグ(思考力・集中力の低下)など、多種多様です。後遺症に苦しんでいる人に新型コロナワクチンを接種すると、後遺症が軽快する頻度が高くなるという研究がいくつか報告されています。

新型コロナ後遺症に注意が必要な人

厚労省は、感染後に少なくとも2か月以上続く症状を「罹患後症状」と記載していますが(1)、ここでは分かりやすく「後遺症」と書きます。

新型コロナに感染した人にその後起こる症状のすべてが後遺症かどうかは判断が難しいです。まったく別の病気を発症しているケースもあるので、私たち医師は安易に「後遺症」と決めつけず、曇りなき眼で診断する必要があります。

実際に、後遺症と診断された人の中に、膠原病であったり別の慢性感染症であったりした患者さんを目にしたことがあります。

新型コロナに感染しても、後遺症を残さず軽快する人のほうが多いです。感染から6か月後には、後遺症の9割が軽快することが分かっています(1)。

さて、何か月経っても後遺症が全快しないリスク因子は、高齢者、女性、肥満、重症例などとされています(2-6)(図1)。

図1. 後遺症を残しやすい人(シルエットイラスト、Ebina.POP広告、イラストACより使用)(参考資料2-6を参考に筆者作成)
図1. 後遺症を残しやすい人(シルエットイラスト、Ebina.POP広告、イラストACより使用)(参考資料2-6を参考に筆者作成)

後遺症のメカニズムはまだはっきりと解明されていませんが、ウイルスの侵入に対して体内で発生した炎症や残存ウイルスが、体のいたるところでくすぶっていることが原因とする説や、全身の血管が障害されているといった説が考えられています(7,8)(図2)。

図2. 新型コロナ後遺症のメカニズム(文献7などを参考に筆者作成)(イラストは、いらすとや、看護roo!より使用)
図2. 新型コロナ後遺症のメカニズム(文献7などを参考に筆者作成)(イラストは、いらすとや、看護roo!より使用)

ワクチンを接種すると後遺症が軽快する?

さて、新型コロナ後遺症に苦しんでいる人に対して新型コロナワクチンを接種すると後遺症が軽快するのではという研究はこれまでもチラホラありました(5)。体内に残存したウイルスに対して、免疫応答が強くなって後遺症が改善するというロジックです。

しかし実際は、ほとんどが時間とともに後遺症が軽快していくことから、ワクチンを途中で接種して回復が加速するのかどうかは証明が難しいです。

過去に新型コロナに感染した人に対して、新型コロナワクチンを少なくとも1回接種した18~69歳の2万8356人を対象とした研究がイギリスから報告されました(9)。ワクチン1回目接種後に後遺症の有症状率が12.8%減少し、2回目接種後に8.8%減少することが示されました(図3)。ワクチンを接種した後、後遺症症状が軽減することが期待されるものの、自然軽快の上乗せ効果があるにしても効果が薄いように感じます。

図3. 新型コロナワクチン接種による後遺症割合の効果(参考資料9より引用)
図3. 新型コロナワクチン接種による後遺症割合の効果(参考資料9より引用)

また、新型コロナ後遺症がある910人において、ワクチン接種後に症状がどうなったかを比較した、フランスからの別の研究があります(11)(ただし査読前論文)。4か月後の比較で、ワクチン接種者の16.6%、ワクチン未接種者の7.5%が後遺症の完全消失を報告しており、有意に前者が高かったとされています。

感染後の人に新型コロナワクチンを接種することで、後遺症を抑え続ける「維持力」があるかどうかはまだ分かっていません。また、3回目・4回目のブースター接種によって、さらに後遺症の症状が軽減するのかどうかも、これから明らかになると思います。

大事なのは感染前のワクチン接種

現時点で得られるデータからは、感染後に新型コロナワクチンを接種すると、後遺症が改善する確率が少し上がる程度という印象です。

反面、新型コロナに感染する前にワクチン接種をしていると、後遺症の発症リスクを半減させることが示されています(13)。そのため、新型コロナに感染後、後遺症に悩んでいるさなかワクチンを接種するよりは、感染前にしっかりとワクチンを接種しておいたほうがよいと考えられます。

5月25日から開始される4回目接種は、60歳以上と基礎疾患がある18歳以上が対象となります。接種券については自治体ごとに対応が異なるため、お住いの自治体のウェブサイトをチェックするようにしてください。

(参考)

(1) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(第1版)(2022年4月28日)(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000935241.pdf

(2) Huang C, et al. Lancet. 2021 Jan 16;397(10270):220-232.

(3) Sudre C, et al. Nat Med. 2021 Apr;27(4):626-631.

(4) Antonelli M, et al. Lancet Infect Dis. 2022 Jan;22(1):43-55.

(5) 新型コロナ後遺症で悩む人にワクチンを接種すると症状が改善する?(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210922-00259453

(6) Paul E, et al. medRxiv. DOI: 10.1101/2022.04.06.22273444

(7) Peluso MJ, et al. Trends Immunol. 2022 Apr;43(4):268-270.

(8) Wang E, et al. Nature. 2021 Jul;595(7866):283-288.

(9) Ayoubkhani D, et al. BMJ. 2022 May 18;377:e069676.

(10) Drosos AA, et al. Clin Rheumatol 2022;41:957-8

(11) Tran V-T, et al. SSRN2021. doi:10.2139/ssrn.3932953(査読前論文)

(12) Tsuchida T, et al. J Med Virol. 2022 Jul;94(7):3416-3420.

(13) UK Health Security Agency. The effectiveness of vaccination against long COVID: A rapid evidence briefing.(URL:https://www.gov.uk/government/news/ukhsa-review-shows-vaccinated-less-likely-to-have-long-covid-than-unvaccinated

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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