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アジア大会野球決勝。日本、オールプロの韓国に敗れる

阿佐智ベースボールジャーナリスト
アジア大会決勝、惜敗の後、韓国チームと握手を交わす社会人日本人代表

インドネシア野球史上最大のイベント

 9月1日。この日は、インドネシア野球始まって以来の盛り上がりをみせた日となった。

 インドネシアと野球はなかなか結び付かないが、2万人ほどの競技人口がある。それにソフトボールがかなり盛んで、今大会の野球・ソフトボールのボランティアスタッフの多くは、競技経験者で世界トップレベルの日韓台のプレーに夢中になっていた。スーパーラウンドの各試合は、小さなメインスタンドは軒並み大入りで、この日の準決勝、決勝はインドネシアでもそれなりに注目されているようだった。

 出場国の盛り上がりもヒートアップしていた。準決勝の台湾もそうだったが、韓国はとくにこの大会に対する熱の入り方が尋常ではない。メディアは総動員体制で、球場の狭いプレスルームは韓国の報道関係者でいっぱいになる。ファンは、準決勝が行われている真昼間からすでにゲート前に陣取り、応援団長は席取りのためか、わざわざ前の試合のチケット買ってだろう、準決勝のスタンドに姿を見せていた。

 準決勝は7回、台湾のコールド勝ちに終わり、銅メダルを決めたが、この試合終了後には、次の決勝開始2時間前にもかかわらず、すでに行列ができていた。

開門前にはすでに行列ができていた
開門前にはすでに行列ができていた

 行列にはインドネシアのファンも混じっていた。自らも大学のチームでプレーし、普段からメジャーリーグの中継を楽しみ、ニューヨークや神宮でプロ野球も観戦したことがあるという学生は、韓国人ファンと開門を待ちわびていた。

地元インドネシアの野球ファン
地元インドネシアの野球ファン

 試合前には1000人を収容するというメインスタンドは立ち見が出るほどの入りになっていた。普段はガラガラのネット裏VIP席やその横のメディア席もほぼ埋まっている。メディア席には、昨日日程を終えた香港やパキスタンの選手、関係者もアジア最高峰の決戦を目にするべく陣取っていた。

スタンドには立ち見客も
スタンドには立ち見客も

 試合が始まると、これまでほとんど観客が入っていなかったメインスタンドから両翼に延びる桟敷席も満席になっていた。

白熱のアジア頂上決戦

 決勝の先発の大役を任された左腕の富山凌雅(トヨタ自動車)だったが、立ち上がりから制球が定まらず、初回裏、いきなり連続フォアボールを与えてしまう。ここで韓国の3番キム・ジェファン(トゥサン)がセンター前に弾き飛ばし、日本はいきなりノーアウト満塁のピンチを迎えてしまう。富山は前回の対戦でホームランを打っている4番パク・ビョンホ(ネクセン)を浅いセンターフライに打ち取るが、続くアン・チホン(キア)にレフト前に運ばれ、2点を失う。

 日本ベンチは、次のキム・ヒョンス(LG)を三振に打ち取ったところで富山をあきらめ、右の堀誠(NTT東日本)に後を託す。堀は期待に応え、韓国先発ヤン・ヒョンジョン(キア)にひけをとらない140キロのストレートに110キロ前後の緩いカーブを織り交ぜ後続を断ち、続く2回には3者連続三振で韓国から主導権を引き寄せた。

急なリリーフにもかかわらず、2回に韓国打線を三者三振に打ち取った堀
急なリリーフにもかかわらず、2回に韓国打線を三者三振に打ち取った堀

 

 しかし、日本打線はなかなかヤンから反撃の糸口を作ることができない。3回までヒットは北村祥治(トヨタ自動車)のライトへのポテンヒットという有様では、なかなか流れを引き寄せることができずイニングだけが過ぎていく。

社会人ジャパンの前に立ちはだかった韓国先発ヤン・ヒョンジョン。6回を1安打無失点でリリーフに後を託した
社会人ジャパンの前に立ちはだかった韓国先発ヤン・ヒョンジョン。6回を1安打無失点でリリーフに後を託した

 そして、3回裏、2アウトを簡単にとった堀の前に、前回と同じくパクが立ちはだかる。パクは、今大会トップに並ぶ4本目のホームランをセンターバックスクリーン中段に突き刺し、韓国は1点を追加した。

 この後、日本は、4回から高橋拓巳(日本生命)、5回から臼井浩(東京ガス)、7回は勝野昌慶(三菱重工名古屋)、8回にはリベンジを期してマウンドに登った一昨日の韓国戦で先発した佐竹功年(トヨタ自動車)がリリーフし、韓国打線をゼロに抑え執念をみせたが、打線がチャンスらしいチャンスを作ることなくスコアボードにゼロを並べた。最後は韓国リーグ、ハンファ・イーグルスのクローザー、チョン・ウラムに三者凡退に打ち取られ、社会人日本代表のリベンジは果たされぬまま、アジア大会は終わった。

石井章夫日本代表監督の言葉

「韓国戦はアジアのトッププロと対戦できる貴重な機会。今後も目標にしていきたい。投手力は、ある程度目途が立ったが、今後は打力強化が課題。つなぐことよりも長打力を磨いていきたい」

1回のピンチで火消しを演じたものの、3回にパク・ビョンホに被弾した堀投手の言葉

「今日の試合は小刻みに継投していくということは、はじめから決まっていた。序盤のリリーフということだったので、先発の富山がなにかあったときにはいくものだと心の準備はできていた。緩いカーブをうまく使えて2回は手ごたえをつかんだが、パクにはカーブを続けたら狙われるのがわかっていたのでストレートを投げたのが少し高く入った。当たった瞬間に行かれたのがわかった。韓国戦はトップと対戦できる貴重な機会。早いストレートが投げれるわけではないので、やはり少しのコントロールミスが致命傷になることがわかった。今後に生かしていきたい」

決勝の行われたゲロラ・ブン・カルノ球場は満員となる1700人の観衆で膨れ上がった
決勝の行われたゲロラ・ブン・カルノ球場は満員となる1700人の観衆で膨れ上がった

 格上の韓国の壁は超えることはできなかったものの、親日国とあって満員のスタンドのインドネシア人ファンの声援は日本への方が圧倒的に多かった。アマチュアの意地を見せることはできなかったが、金メダルの韓国とともに演じたハイレベルな野球は、インドネシアのファンの心をつかんだことだろう。

(写真は全て筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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