朴槿恵特赦に韓国騒然 赦した文在寅は「ズルい」と叩かれ 過激派と化す”信者”も
韓国の朴槿恵前大統領の周辺がにわかに騒がしい。
24日に文在寅代表による年末(もしくは新年)の特赦の対象となることになった。これについて同日、韓国のデイリーニュースランキン部ベスト10に関連記事が3本入るなど、大きな関心が集まっている。
本人は現在「国政壟断」「国家情報院特別活動費上納」の罪などで懲役22年の判決を受け、収監中の身にある。
より正確にいうと、体調悪化によりソウル市内で入院中だ。
特赦までの経緯
発端は20日だった。この日から3日に及ぶ韓国政府による「赦免(恩赦)審査委員会」にて大統領新年特別恩赦の対象者が話し合われることが報じられた。
20日の時点では「朴槿恵は対象外」とされた。初日は模範囚などの議論が行われたという。委員会関係者は「特赦は大統領固有の権限。話し合いの状況についてはお話できない」と韓国メディアの取材に答えた。
文在寅大統領は就任以降、5回の特赦を実施。2017年年末に最大6444人、一番少なかった2021年の年始にも3,024名を対象者としてきた。就任期間最後の特赦対象に政治的ライバルだった朴槿恵前大統領を含めるのか、注目を集めていた。
これと同じ20日、朴槿恵前大統領について厳しい健康状態が報じられた。
第1報を報じた「東亜日報」は前大統領側近の言葉をこう伝えている。
「朴前大統領の体調は良くないです。ずっと良くない」
肩の持病、腰椎のヘルニアでかなり強い痛みを訴えると同時に、長期の収監生活による精神不安が見られるという。
同紙は前大統領側近側の主張のみならず、検察側による「体調は非常によくない」や、法曹関係者の「疾病など個人情報についてはお伝えできない」(つまりは否定せず)というコメントも紹介して記事を構成した。
大統領経験者としては最長の収監期間だった
同時に特赦の有無が話題となった理由は、朴前大統領の拘束期間が「大統領経験者としては最長」となっているからだ。
2017年3月31日から始まる拘束生活は、2021年12月24日で1729日になる。約4年8ヶ月。これは盧泰愚元大統領や、全斗煥元大統領の「約2年」と比べても長い。本来なら2039年に87歳で釈放となるのだがはたしてどうなるのか。この点も話題となった。
すると、24日に文在寅大統領側が「新年恩赦の対象者」として朴槿恵前大統領を加えたとのニュースが電撃的に報じられた。
ここには保守大手紙による「追い風」もあったか。韓国で今、最もニュースが読まれる場である最大手ポータルサイト「NAVER」にて「健康悪化」の報が掲載された主要紙は朝鮮日報、中央日報、東亜日報の保守系媒体のみだった。リベラル系の媒体はなし。この健康悪化のニュースを大きくは報じなかったのだ。
古巣政党で支持する議員は「文在寅憎し」
では、特赦による釈放後、朴槿恵氏はどうなっていくのか。
24日のポータルサイト「Daum」でのニュースのアクセス数ランキングでは「東亜日報」の第一報「朴槿恵前大統領 恩赦に」がトップとなり、ほか2本がベスト10入りした。韓国内でも大きな話題となっているのだ。
同日、国内最大の経済紙「毎日経済」は側近たちの声を集め「少なくとも当分の間は政界復帰は難しい」としている。
確かにそうだろう。まず古巣に当たる保守野党「国民の力」での影響力がすっかり落ちている。
そもそもその出身政党は大統領在職時の「セヌリ党」から「自由韓国党」「未来統合党」そして現行の「国民の力」と変えてきたが、これには「朴槿恵との決別」の狙いがある。
それでも数少ない熱狂的な支持者はいるのだが、この層と来年3月の大統領選の流れも良くない。
今年10月15日、「朴槿恵大統領支持者総連合」なる集まりが「来年の大統領選での『国民の力』ホン・ジュンピョ候補支持」を打ち出した。ホン元候補は「大統領に当選すれば即座に釈放する」と宣言していた。
しかしホン元候補は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏に敗れ、党の候補とはなれなかった。
その尹錫悦氏は…ソウル中央地方検察庁検事長、大韓民国検察総長を務めた人物として知られるが、2016年には「崔順実ゲート事件特別検事 特別捜査チーム長」を務めた。つまり、朴槿恵側を捜査する立場の現場トップにあったということ。いわば朴槿恵サイドにとっての「宿敵」だ。
24日、当然の如くホン元候補は特赦の報を受け、強い反応を見せた。SNSで支持者からの「どう思うのか」という質問にこう答えた。
「時すでに遅し」
さらに、文在寅大統領をこう斬った。
「政治的な捜査により弾劾された前大統領を任期中に監獄に入れた。本人の退任を控え、今さら怖くなったようだ」
さらに、朴槿恵前大統領と同じく収監されている李明博元大統領は特赦の対象から外れている点について、憤りを隠さなかった。
「二人の前職大統領のうち片方だけ恩赦し、反対側の陣営(保守陣営)を分裂させようとする、本当に狡猾な罠だ」
今、特赦されても朴氏の復権は難しいだろう。だからこそ行き場のない怒りをSNSで表明したというところだ。
一部の熱狂的信者は…
それでも韓国には現在も朴槿恵前大統領を信奉する層は少数ながらにいる。
「韓国の60歳以上の世代には、父である朴正煕元大統領を信奉するあまり、朴槿恵前大統領を同一視する層はいます。いわば信者ですよね」(韓国一般紙社会部記者)
前述の「朴槿恵大統領支持者総連合」には、約10の団体が名を連ねている。そのうち最大級の「朴槿恵大統領を愛する会(韓国語ではパクサモ)」は、オンライン上で会員サイトを運営している。その会員数8万5000人だが「そのうち多数はサイトを監視しようとする半朴槿恵派」とされている。
その過激な行動は韓国でも知られるところだ。
「なにせ反対意見を言えば即『従北者(親北より強い北朝鮮支持者を揶揄する言葉)』だと騒ぎ立てる。弾劾後も韓国では折々で左右の市民団体によるデモが繰り広げられていますが、”朴槿恵信者”たちは道路に寝そべって、朴槿恵支持を叫ぶ姿などで知られています。また、弾劾後の朴槿恵氏の裁判では法廷の傍聴席から『愛してます』『頑張ってください』などと叫び、これを制する裁判官の注意を無視する姿などが報道されていますね」(前出の記者)
さらに「朴槿恵大統領を愛する会」の公式サイトでは、本人を「再び大統領に」との声が挙がっているという。韓国の憲法上、大統領の再任は不可能なのだが…。こういった点からも「一部の偏った信者」といった見方をされているのだ。
仮に「支持者とともに復活して文在寅大統領側に逆襲」ともなれば、まるで韓流ドラマのような展開なのだが。あまり現実性はないか。
25日、韓国大統領府は朴槿恵前大統領が「国民に心配をかけたことをお詫びし、文大統領に深く感謝する」とコメントしたことを発表した。