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『REC/レック』の輝きはどこへ? バラゲロ監督最新作『Venus』

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
予告編は大変良くできている。あのスピード感で突っ走ってほしかった

2022年シッチェス・ファンタスティック映画祭のオープニング作品『Venus』(ベヌス=ビーナス)は、あの『REC/レック』のジャウメ・バラゲロ監督作だから期待していたが、もう一つ、いや、もう二つだった。

その理由を書く(ネタバレなし)。

※みなさんにとって面白くないとは限りません。まずは自分の目で確かめることをおススメします!

■テンポが遅い

オープニングはハイテンポで、謎に満ちていて、世界観の大きさが素晴らしいのに、すぐに中だるみする。

早い段階で「主人公VSマフィアVS魔界のもの」という三つ巴の構図が提示される。ドキドキするではないか。しかし、肝心の三者によるバトルが始まるのは残り20分間になってから。もったいぶらないで早く見せてよ!

上映時間100分の作品で20分では短過ぎる。

案の定、尻切れトンボのまま、伏線を回収できないまま、大急ぎで終わらせることになってしまった。

で、クライマックス+オープニングのそれぞれ20分間を除く、残り60分間でやっていることといえば、三つ巴の周辺を行ったり来たりで、物語的に重要であるとはとても思えない。

『Venus』の1シーン
『Venus』の1シーン

■語らせ方の悪さ

映画なのだから「絵」によって物を語ってほしい。しかし、子供との会話でそれを済ませている。

子供が主人公に質問する。「どうして家を出て行ったの?」とか「どうしてお母さんと喧嘩したの?」とか。で、それに答える主人公の言葉で過去が明らかになる。

ここはフラッシュバックで見せるところでしょ。

姉妹の仲違いというやっかいなテーマを子供への返事だけで説明し切るのは無理。

子供が理解できるようにはしょったり、都合良く変えたりを普通はしますよね?

見ている方には主人公が本当のことを言っているのか、子供用にアレンジしているのかわからない。なので、映像の裏付けが必要だった。

あと、押し入れの奥から新聞の切り抜き集が出て来る――なんてのは手垢が付き過ぎ。記事の見出しは、フラッシュバックの導入に使ってほしかった。

『Venus』の1シーン
『Venus』の1シーン

■サブテーマへの不満

メインテーマは三つ巴の争いの行方。それと並行して描かれるのがサブテーマで、その一つは「姉妹の絆の回復」だったと思う。だけど結局、仲違いの理由が説明不足なので、回復できたかどうかもわからないまま終了。

もう一つのサブテーマは「強い女、戦う女」だったと思う。

類似のテーマがあふれているだけにもう一工夫してほしかった。スーパーヒロインを見せられても新味はない。また、男を悪者にして相対的に女の価値を上げる手法にも飽きてきた。

■音楽と演技

ほのぼのシーンに流れる音楽が決まっていた。

なので、この音楽が流れたら残酷なことも、怖いことも起きないことがわかってしまう。ドキッとするのは怖さの重要な一部であり、サプライズ抜きでは怖さが半減する。ホラー映画としてはマイナスでしかない。

ジャウメ・バラゲロ監督
ジャウメ・バラゲロ監督

あの名作『キャリー』のラストシーンが、なぜショッキングなのか?

音楽で安心させておいて映像で裏切っているから。そういうこともあるかと期待していたが。

主演のエステル・エスポシトの演技も叫ぶだけになってしまっている。

過去の彼女、現在の成長前の彼女、恐ろしい出来事を経て成長後の彼女と、いろいろ見たかった。評価が高い女優だが、力を出す場面がなかった。

※写真提供はシッチェス映画祭

ポスター
ポスター

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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