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【シリーズ救急の日】コロナ禍で唯一増えた搬送事由とは?

薬師寺泰匡救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長
(写真:アフロ)

9月9日は救急の日です。救急の日から1週間は「救急医療週間」として、日本全国で救急に関する様々な行事が実施されています。しかし今年は大々的な参加型のイベント開催も難しく、消防庁が救命処置に関する啓発動画を作成していますので紹介します。

動画にありますように、ひとりひとりが救命のワンピースです。コロナ禍でなかなか他者を救うことは考えにくいかもしれませんが、改めて、救急医療体制に思いを寄せていただければ幸いです。

というわけで、昨年に続いて救急の日にちなんで、救急医療の話をしたいと思います。

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コロナ禍で救急搬送はどうなった?

今年になり、ワクチン接種がいきとどいたことで高齢のコロナ患者さんが減少し、重症病床の逼迫は改善すると思いきや、デルタ株が猛威を振るい、1日の新規感染者数はこれまでの数十倍にもなって感染の波が押し寄せています。重症化する人の割合が減ったものの、全体の感染者数が多いため、人工呼吸を必要とする重症患者さんは第4波をしのぐ勢いで増えました。諸外国で見られていた、コロナが合併した○○(外傷、脳梗塞、心筋梗塞など)という患者さんも日常的に搬送されてきており、引き続き緊張感を高めて診療にあたっています。

今を思えば、昨年の患者数が少なく思えるのですが、救急医療としては多大な影響を受けました。昨年の救急搬送がどのように影響を受けたのか振り返ってみたいと思います。

総務省が発表している令和2年中の救急出動件数等の報告を参考に実態を見ていきます。令和2年中の救急出動件数は、593 万 3,390 件ということで、令和1年より70 万 6,377 件減となっています。割合にすると10.6%も減ったことになります。搬送人員は529 万4,045 人で、こちらも令和元年より68 万3,963 人減少しており、11.4%減となっています。搬送事由を見ると、世の中の流れが少し見えます。

令和2年中の救急出動件数対前年比(総務省データを元に著者作成)
令和2年中の救急出動件数対前年比(総務省データを元に著者作成)

交通事故が減った

表を見ていただくと、交通事故の減少幅が大きいことがわかります。不要不急の外出を控え、仕事もなるべくリモートを徹底した結果ではないかと思います。昨年に比べると、最近は交通事故による搬送は増えてきたという実感があります。引き続き、注意していただければ幸いです。

運動競技中の救急要請も減った

運動競技は前年比43.3%の減少です。運動競技会が開催できなかったこと、公共のスポーツ設備の利用制限がかかった影響は大きいと思います。今年はオリンピックが開催されましたが、他の競技会についてはまだ自粛ムードが強くなっています。今後、ワクチンの浸透とともに、活動性が高まるかもしれません。競技再開を前に、安全面に配慮していただければと思います。

自然災害での搬送も減った

自然災害は49.6%の減少ですが、これは令和元年の豪雨被害などの影響が大きかったかもしれません。今年も大雨の影響により各地で避難指示が出されました。感染症の対策と避難を両立させなければならず、各自治体が頭を悩ませることとなったと思います。私が居住する自治体でも、降雨量の増加や河川の増水に伴い避難指示が出されましたが、屋内避難所にテントを設置して物理的にディスタンスを保つ試みがなされました。感染者、濃厚接触者、どちらでも無い人と動線をどのように分けるかなど、今後も検討しなければなりません。

唯一増えた搬送事由

全体の救急要請が減少する中、自損行為は唯一増加しました。社会への閉塞感や、精神科への受診控え、生活が成り立たなくなることなど、様々な影響があったのではないかと考えますが、とても悲しいデータです。私自身、何名かの自殺未遂、自損による心停止の患者さんの対応にあたりました。世界中が長期にわたるストレス状態に置かれており、どうにかならないものかと思いますが、コロナ禍が落ち着いてきても元通りの社会にはゆっくりしか戻れないと思います。救急医としては日々コロナ診療をしつつ、救急対応を続けていくしかありません。せめて搬送先を失うということがない状態で社会が維持できるよう、そして搬送されたら救命できるよう、できることを粛々とやってまいりたいと思います。

冒頭の救急の日の動画に戻りますが、救急医療は病院の前から始まっています。命のバトンをつなげていただければありがたく思います。救急搬送される人が一人でも少なくなるよう願っております。

救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長

やくしじひろまさ/Yakushiji Hiromasa。救急科専門医。空気と水と米と酒と魚がおいしい富山で医学を学び、岸和田徳洲会病院、福岡徳洲会病院で救急医療に従事。2020年から家業の病院に勤務しつつ、岡山大学病院高度救命救急センターで救急医療にのめり込んでいる。ER診療全般、特に敗血症(感染症)、中毒、血管性浮腫の診療が得意。著書に「やっくん先生の そこが知りたかった中毒診療(金芳堂)」、「@ER×ICU めざせギラギラ救急医(日本医事新報社)」など。※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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