古内東子 名盤『魔法の手』に再び脚光「この作品があったから、30年間音楽を続けられた大切な一枚」
古内東子デビュー30周年プロジェクト第2弾
古内東子デビュー30周年プロジェクトの第2弾、1998年にリリースされた7枚目のオリジナルアルバム『魔法の手』が、新たにリマスターされ9月21日にリリースされた。
CDとBlu-rayで構成されたデラックス・エディションと、2枚組LP(アナログ盤)の2タイプで発売され、シティポップが注目を集める現在のシーンの中でも、重要アイテムとして注目されているこの作品に、再びスポットが当たっている。この作品が制作された98年当時の制作の様子や、改めて自身にとってどんな作品なのかを本人にインタビュー。『魔法の手』という作品を改めて紐解いてみた。
初のアルバムランキング1位を獲得。
古内東子は1993年シングル「はやくいそいで」でデビュー。96年にリリースした「誰より好きなのに」が大ヒット。この曲はこれまでに様々なアーティストがカバーしている古内の代表曲のひとつだ。97年「大丈夫」(ドラマ『オトナの男』主題歌)がスマッシュヒット。97年発売のアルバム『恋』は、同年の『日本レコード大賞』アルバム賞を受賞し、翌年リリースした初のベストアルバム『TOKO〜best selection』が40万枚を売上げるヒットに。しかし『恋』も『TOKO〜best selection』も、アルバムランキングの1位は獲れていなかった。そして98年8月19日に発売した『魔法の手』で、初の1位を獲得。“ラブソングの女王”の名を確固たるものにした。しかし当時の思いを古内に聞くと「CD全盛の時代だったのに、それまでの私は小ヒットしかなくて、自己肯定ができなかった時期だったと思います。だから作品を作る時はいつもプレッシャーを感じていました」と、当時の心の内を教えてくれた。
4作目の海外レコーディング作品。日米の豪華ミュージシャンが参加
『魔法の手』は古内にとって7枚目の作品で、古内と小松秀行の共同プロデュース作。小松とのコンビは『Hourglass』(96年)、『恋』に続いて3作目となる。古内は当時のオリジナル・ラヴのサウンドが気になり、93年頃から、そのメンバーだった宮田繁(Dr)、木原龍太郎(Key)、小松秀行(B)と、サポートメンバーだった佐野康夫(Dr)を、自身のレコーディングメンバーとして迎え、サウンドを構築していった。『魔法の手』は『Hourglass』から続く海外レコーディング作としては4作目で、マイケル・ホワイト(Dr) 、ポール・ハンフリー(Dr)、ハーマン・ジャクソン(P)、ポール・ジャクソンJr.(G)、デヴィッド・T・ ウォーカー(G)、レニー・カストロ(Per)、ヴァイン・ストリート・ホーンズ(hor)等の海外の一流ミュージシャンと、山木秀夫(Dr)、佐野康夫(Dr)、中西康晴(P)、黒尾俊介(G)、浜口茂外也(Per)等日本の一流ミュージシャンが参加している、音楽好きにはたまらない一枚だ。とにかく音の粒立ちが素晴らしく、古内の歌をより“立てる”演奏が心地いいグルーヴを作り出している。古内が描く、切ない女心を描いた独特の歌詞も、このオシャレなサウンドが、その温度感を絶妙なものにしている。
「小松さんはベーシストですが、当時から私の歌詞をすごく褒めてくださって。それが自信にもなったし、歌詞と歌をまっすぐ伝える音を作ってくださいました。アルバム『Strength』もブレッカー・ブラザーズを始め凄いミュージシャンが参加してくれましたが、『魔法の手』も凄いメンバーですよね。耳が繊細な若い時に、いい音をたくさん浴びさせてもらって、本当に感謝しています」(古内)。
当時はミュージシャンがアレンジを手がけるスタイルは珍しかったが、小松をサウンドプロデューサーに迎え、古内は理想の音を追求していった。『魔法の手』は、ミドルテンポ、スローテンポの曲を芳醇なサウンドが彩り、艶のある揺らぐボーカルが心に響いてくる。前作『恋』をさらに成熟させたような、古内の世界観が広がっている。
「アメリカでレコーディングした音は、今聴いてもやっぱりいい。このアルバムは特に奥行き、空間が気持ちいい」
タイトル曲「魔法の手」のように、長めの間奏、アウトロでミュージシャンのソロをじっくり聴かせるという、今はあまりないタイプの曲に代表される、まるで極上のフュージョンを聴いているかのようなサウンドは、今聴いても新鮮でそして深い。古内が「大好き」なギタリスト、デヴィッド・T・ウォーカーの、古内の歌に寄り添うような音色が印象的な「雨降る東京」「魔法の手」「ぎりぎりまで」は、今もファンの間では人気の曲だ。
「一番好きなギタリストです。あの音色は本当に唯一無二。当時のレコーディングの事もよく覚えていて、彼はノープランでスタジオにやってきて、一回音を聴いただけであのフレーズを出してくれるんです。やっぱりアメリカでレコーディングした音は今聴いてもやっぱりいいです。このアルバムは特に奥行き、空間が気持ちいい。ミュージシャンが色々なアイディアやユーモアを持ち寄って、演奏してくれたからだと思うし、エンジニアさんの力も大きいと思います」(古内)。
このアルバムで特に印象に残っている曲は?と聞くと「印象に残っているというか『雨降る東京』や『魔法の手』は、今でもライヴでよく歌っているのでそういう意味では印象深いです」(古内)と、長く歌い続けている曲を挙げてくれた。
「デビュー5年目という大事な時期に、このアルバムをたくさんの人に聴いていただけたことで、得たもの、見えた景色があったからこそ、今も歌い続けることができている」
記念すべき初の1位を獲得したこの作品について古内は、「このアルバムを作ったこと、5年目という大事な時期にたくさんの人に聴いていただけたことで、得たもの、見えた景色があったからこそ、30年間音楽を続けられることができたと思っています。そういう意味で自分にとってとても大切な一枚です」と、改めてこのアルバムの存在の大きさを教えてくれた。
オリジナルマスターを手がけたバーニー・グランドマン自らが、最新のサウンドにアップデート
海外レコーディングで、クオリティの高い音にこだわり続けてきた。そして古内東子の音、ここに極まれり――そう感じさせてくれる、キャリアの中でもポイントになる作品になったのではないだろうか。CD『魔法の手』は1998年当時のオリジナルマスターを手掛けたバーニー・グランドマン自らが、最新のサウンドにアップデートした。さらにボーナストラックとしてオリジナルアルバムリリース時に未収録だった関連シングルのヴァージョン違い、カップリング曲を3曲追加収録している。
また【デラックス・エディション】に同梱されるBlu-rayディスクは、1998年の『魔法の手ツアー』を収録し、1999年7月23日にDVDとVHSで発売された『toko furuuchi concert tour '98 魔法の手』をアップコンバージョンして初BD化。またボーナス映像として「銀座」「心にしまいましょう」の2曲のMUSIC VIDEOを追加収録している。
同時発売となるLPはオリジナルマスターテープ音源を、バーニー・グランドマンがハリウッドの自身のスタジオでマスタリング、さらにその音源を基に自らアナログ盤をカッティングと、アナログ盤ならではの音にこだわった作りになっている。今回のCD同様に、ボーナストラック3曲を追加収録した。
様々なスタイルでライヴを行なう
現在古内は様々なスタイルでライヴ活動を行なっている。バンドスタイルで行なう『TOKO FURUUCHI 30th ANNIVERSARY SPECIAL LIVE』は、10月6日大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール、10月11日東京国際フォーラム ホールCで行う。12月2日には東京・COTTON CLUBで、ピアノトリオによる『TOKO FURUUCHI with SPECIAL PIANO TRIO LIVE』を、さらに12月17日福岡borderでは『TOKO FURUUCHI SPECIAL ACOUSTIC LIVE』を開催。どんな編成でも、古内の歌は“切なさの向こう側”にあるものを、感じさせてくれる。