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クラシコでジダンが見せた支配力。メッシとアルバをダブルマークで封じた「エース潰し」の策。

森田泰史スポーツライター
カゼミーロとメッシ(写真:ロイター/アフロ)

感情を揺さぶられる試合だった。

現地時間10日にリーガエスパニョーラ第30節が行われ、レアル・マドリーはホームにバルセロナを迎えた。「クラシコ」と呼ばれる伝統の一戦はマドリーが2-1で勝利を収めている。

得点を喜ぶマドリーの選手たち
得点を喜ぶマドリーの選手たち写真:ロイター/アフロ

レアル・マドリーとバルセロナは公式戦で245回目の対戦を迎えた。マドリー(98勝)、バルセロナ(95勝)、52分け。リーガでは182試合目となり、マドリー(75勝)、バルセロナ(72勝)、35分と戦績は互角だ。

ただ、今季のラ・リーガでは首位アトレティコ・マドリーをバルセロナとマドリーが追う展開になっていた。ここで、試合数が1試合少ないアトレティコ(勝ち点66)にバルセロナ(勝ち点65)を下したマドリー(勝ち点66)が並び、マドリーとしては大きな勝利となった。

ベンゼマが先制点を記録
ベンゼマが先制点を記録写真:ロイター/アフロ

緊張感の高い試合でこそ、新たな戦術が生まれる可能性がある。それがフットボールの常だ。

過去、クラシコにおいては幾度となく名勝負が繰り広げてきた。なかでも強いインパクトを残したのは2008-09シーズン、バルセロナが敵地サンティアゴ・ベルナベウを訪れて6-2で勝利した試合だろう。

この試合で、ジョゼップ・グアルディオラ監督はある試みを企てた。リオネル・メッシのポジションを弄ったのである。それまで右ウィングで起用していたメッシを、3トップの中央に配置した。ファルソ・ヌエベ(偽背番号9/ゼロトップ)の原型だった。

■両者のシステム

今回の対戦で、大きな注目を集めていたのが両者のシステムだ。

今季、バルセロナとマドリーは共に3バックを試してきた。まず、バルセロナはリーガ第15節バジャドリー戦(3-0)で3バックを導入した。

3バックはバルセロナに安定感をもたらした。メッシにフリーロールが与えられ、彼とペドリ・ゴンサレスの距離感が良くなった。またビルドアップの場面では、センターバックの選手がボールを持ち運ぶ。メッシが中盤に引いてきて、CBがミドルゾーンに侵入すると、そこで数的優位が生まれる。ポゼッションを高め、ボールの循環を良くすることが可能になった。

一方、マドリーはリーガ第1節延期分のヘタフェ戦(2-0)で3バックを採用した。チャンピオンズリーグでは決勝トーナメント1回戦セカンドレグで、3バックのアタランタに対して3バックをぶつけ、3-1と勝利した。

クラシコでは、マドリーが3バックと4バックのどちらで行くのかが一つのポイントだった。【3-5-2】と【4-3-3】で、ジネディーヌ・ジダン監督が選んだのは【4-3-3】であった。

■ジダンの守備 キーマンに2人をぶつける

ジダン監督の選手起用で、目を引いたのはフェデリコ・バルベルデの右ウィング配置だ。

バルベルデを右WGに入れて、マドリーは前線からのプレッシングを強化した。それだけではない。ルーカス・バスケスとバルベルデが守備時にポジションを入れ替えながら、ペルムータ(カバーリングのカバーリング)でバルセロナの左サイドの攻撃を完全に封じた。バルベルデとL・バスケスが連携しながらジョルディ・アルバをストップした。

また、ジダン監督の「メッシ対策」も見逃せない。以前、ジダン監督はメッシにマンマークを付けて、失敗した過去がある。この試合ではメッシをカゼミーロとナチョ・フェルナンデスが監視することで彼の攻撃力を削り取った。

ハーフスペースでボールを受けようとするメッシに対しては、カゼミーロがインサイドのパスコースを寸断する。FWの位置でポストプレーをしようとするメッシには、ナチョが厳しくチェックに行った。メッシの「前」をカゼミーロが、「後ろ」をナチョがカバーして、前後から挟み込む形でバルセロナのエースをシャットダウンした。

ジダン監督はバルセロナのキーマンがメッシとアルバになると踏んでいた。ゆえに、メッシ×ナチョ+カゼミーロ、アルバ×バルベルデ+L・バスケスという構図で守備を構築した。そして、それは十二分に機能していた。

クラシコ45試合で26得点をマークしているメッシだが、無得点に終わった。2017-18シーズンのリーガ第36節マドリー戦以降、メッシはクラシコでノーゴールが続いている。

■中盤の攻防と攻撃の軸

マドリーはバルベルデ、カリム・ベンゼマ、ヴィニシウス・ジュニオールをバルセロナの3バックにぶつけた。そして、中盤ではインサイドハーフがインサイドハーフを見る形になっていた。

トニ・クロースがフレンキー・デ・ヨングを、ルカ・モドリッチがペドリをマークする。とりわけ、クロースとデ・ヨングのバトルは見応えがあった。この試合前の段階でリーガのパス本数ランキングで首位に立っていたデ・ヨング(パス本数2227本/パス成功本数2045本)と4位のトニ・クロース(パス本数1882本/パス成功本数1760本)のパフォーマンスは試合の行方を左右するだろうと予感させた。

結果から言えば、この対決はクロースに軍配が上がった。クロースはFKでマドリーの決勝点を記録。得点だけではなく、正確なフィードでマドリーのカウンターの起点になり、時にはゴール前まで走り込んであわや3点目という場面を演出した。

そして、マドリーの攻撃だ。現在、マドリーの攻撃の全権を担っているのはベンゼマだ。マドリーの総得点のうち、35%をベンゼマが記録。1試合平均0.73得点、118試合毎に1得点をマークしていた。これは2015-16シーズン以降で最高の数字だ。

そのベンゼマが先制点を挙げたのは大きかった。ベンゼマにとって36試合目のクラシコで10得点目となった。なお、ベンゼマは2021年に突入してから公式戦16試合16得点1アシストと好調を維持している。

前線でベンゼマと一緒に起点になっていたのがヴィニシウスだ。キレのあるドリブルでオスカル・ミンゲサやロナウド・アラウホを翻弄して、決勝点となったFKを獲得した。ヴィニシウスの推進力がマドリーの攻撃に深みを与えていた。加えて、バルベルデの斜めのドリブルがアクセントになっていた。縦に行くヴィニシウス、斜めに入ってくるバルベルデにバルセロナ守備陣は手を焼いた。

■リーガの行方

「全員の力だ。多くの選手交代を行った。苦しんだが、全選手がコミットしている。試合に出たいと誰もが思っている。それは素晴らしいことだよ。我々はソリッドなチームだ。それはピッチ上で示されていたと思う」とは試合後のジダン監督の弁だ。

「我々は勝利に値した。3点目、4点目を決めていてもおかしくなかった。非常に良い感覚だ。素晴らしい対戦相手を前にして、難しい試合だった。だがふさわしい勝利だった」

ジダン監督はクラシコにおける戦績を11試合6勝3分け2敗としている。マドリーはアトレティコと同率首位で順位表のトップに立った。リーガ連覇の可能性を、ジダン・マドリーは虎視眈々と狙っている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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