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トーニャ・ハーディング、ダンスコンテスト番組に出演。「また人前でパフォーマンスをしたかった」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
プロのダンサー、サーシャ・ファーバー(左)と組みコンテスト番組に出たハーディング(写真:Shutterstock/アフロ)

 あの映画に、早くも続編ができたのか。トーニャ・ハーディングが出演した今週月曜日の「Dancing with the Stars」は、まさにそんな気分にさせた。

「Dancing with the Stars」は、アメリカで長い人気を誇るコンテスト番組。セレブリティがプロのダンサーとコンビを組んでほかのコンビと競争するというもので、過去にはゼンデイヤやジェニファー・グレイ、ジョージ・クルーニーの元恋人ステイシー・キーブラー、ブルース・ウィリスの娘ルーマー・ウィリスなどが出演している。この月曜日に始まった最新シーズンは、出演者がすべてアスリートという過去初めての試みで、挑戦者は、最近のオリンピックで国民的スターとなった長洲未来やアダム・リッポンなど10人。その中に、映画「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」(4日日本公開)で久々に大注目を集めたハーディングも含まれていたのだ。

映画「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」のナンシー・ケリガン襲撃事件のシーン(写真/2017 AI Film Entertainment LLC.)
映画「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」のナンシー・ケリガン襲撃事件のシーン(写真/2017 AI Film Entertainment LLC.)

 90年代の出来事なので、一定の年齢以下の層には知らない人も多いかもしれないが、ハーディングは、優秀なフィギュアスケート選手でありながら、スキャンダルのせいで永久追放処分を受けた人物である。問題となったのは、オリンピック前、ハーディングのライバルだったナンシー・ケリガンが何者かに殴打された事件。犯行にはハーディングの元夫が関与しており、裏では彼女自身が糸を引いていたと疑われた。フィギュアという美しい世界にまるでそぐわない、嫉妬に根付く醜い行動を取ったハーディングは、当時、格好の笑いのネタとなる。そして、その後は忘れ去られてしまった。

 マーゴット・ロビーが主演とプロデューサーを兼任する「アイ、トーニャ〜」は、事件の判決の部分まで語り、その後の人生にもちらりとだけ触れる。だが、まさに続きとなるようなこの展開は、製作側も予測していなかったことだろう。挑戦者のパフォーマンスの前には、パートナーとなるダンスプロとの挨拶や練習風景、本人のコメントなど、ここに至るまでの様子を見せる短い映像が流されるのだが、ハーディングの場合は、ここに、フィギュアの選手として大活躍した頃の姿や、協会追放の宣告を受ける映像が出てきている。また、コメントの中で、彼女は、「私は最高のスケート選手だった。私にとって、それはキャリアじゃなく、人生だったの。でも、人からそう言われるうちに、いつしか自分でも、自分は何の価値もないのだと思うようになった」と、映画でも語られた心境を打ち明け、さらに「私はここにいる価値があるのだと人にわかってもらいたい。また失敗はしたくない」と、涙を流しているのだ。ロビーの演技も、オスカー候補入りするのにふさわしい、すばらしいものだったが、本人が言うと、また違ったインパクトがある。

「Dancing with the Stars」でパフォーマンスをするハーディングとファーバー(写真/abc)
「Dancing with the Stars」でパフォーマンスをするハーディングとファーバー(写真/abc)

 カメラが映し出した客席には、映画で彼女の母を演じたアリソン・ジャネイと、幼い頃の彼女を演じたマッケナ・グレイスの姿もあった。このふたりは、パフォーマンス後、立ち上がって大きな拍手を送っていたが、それはハーディングに招待を受けたからという社交辞令だけではなかったはずだ。実際、彼女とプロのパートナー、サーシャ・ファーバーには、審査員も絶賛を送っているのである。

 最初にコメントした審査員キャリー・アン・イナバは、「ここに至るまで、あなたにいろいろあったのはわかっています。でも、私は、ダンス自体を評価するのが仕事です」と前置きした上で、「すばらしかったです。あなたは優れたダンサーです」と述べた。レン・グッドマンは、感動に涙するハーディングに「泣いている場合じゃありませんよ。喜ばなきゃ」と言い、最後の審査員ブルーノ・トリオーニも、「正直、あなたにこんな詩的な動きができると期待していませんでした」と褒めている。その後、あらためて心境を聞かれたハーディングは、「お姫様になった気分」と笑顔を見せた。

ギリギリで勝ち残り。次はもっと手強い

 審査員3人の点数は30点満点の23点で、10組中4番目(一番点数が高かったのは長洲コンビの25点)。だが、この番組では、一般視聴者も投票でき、その点数も合わせた上で誰を落とすかを決めるのがルール。その結果、ハーディングは、ぎりぎりで次回に勝ち残っている。

 ぎりぎり、と言ったのは、一度は落とされたかと思われたからだ。この初回では2組が落とされることが決まっていたのだが、最初はハーディングも含む3組が発表され、一息置いた上で、そのうち残れるのはハーディングだと発表されたのである。ハーディングにとっても、彼女を応援する視聴者にとっても、あれは息を呑んだ瞬間で、ツイッターにも「3組の中にトーニャ・ハーディングが入った時、観客がショックを受ける声が聞こえたよね。そしてその後、安堵の声が聞こえた」などという投稿が出た。

 ツイッターには、ほかにも、彼女への声援が多数投稿されている。「トーニャ・ハーディングはすばらしかった。バッシングはもうやめましょう」「彼女にはこの瞬間を体験する価値がある。彼女は24 年もかけて、償わなくていい罪を償ったんだ」などというものだ。彼女が出ていることこそ「この番組を見る理由」と宣言するものもある。もちろん、批判的なコメントもあるのだが、これら支持者の声は、次に向けてハーディングを後押しするのに十分なはずだ。ただし、次はもっと手強い。全部で4回に短縮されたこのシーズンで、残りは3回。つまり、次がもう準々決勝なのである。そして競争者は、毎回違ったパフォーマンスをしなければならないのだ。

 今ごろ、ハーディングはまたもや必死で練習に取り組んでいることだろう。それは、彼女にとって本望のはず。番組中に流された映像で、彼女は、出演の動機について、「また人前でパフォーマンスができるから」と答えているのだ。そのための努力なら、惜しくない。

 24 年を経て、今、再び、人は、ハーディングがどんな素敵な動きを見せてくれるのかと、テレビの前に座ることになった。このデジャブは、少なくとも、あと1回、体験できる。もっと続いてくれればと思っているのは、決して本人だけではないはずだ。

 

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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