英スナク新政権の緊縮財政は英国経済をリセッションに陥らせる元凶か(下)
英国の著名金融・経済コラムニストのマシュー・リン氏も英紙デイリー・テレグラフの昨年11月19日付コラムで、「英国はゼロ成長経済になることを選択した」とした上で、「ゼロ成長経済では新しいビジネスはほとんど生まれず、優秀な若者は当然のことながら他の場所でキャリアを積むことを選択することになる」と有能な人材の国外流出懸念を示している。また、「これから10年後の英国は成長市場にはなっていないだろう。従って、次の10年間、主要な英国企業は国内市場を忘れ、輸出拡大を目指し、グローバル市場に集中することになる。英国はもはやビジネスに最適な場所ではないことを理解するにつれて、多くの企業が輸出拡大に向かい始める」と予測する。
テレグラフ紙のエイル・ノルソーとメリッサ・ローフォードの両記者も昨年11月27日付コラムで、「高い税金と未来が見えない状況では、若年層の大量国外流出の恐れがある」と悲観的だ。特に、英国では医療従事者の頭脳流出が深刻な問題となっている。「2021年だけでも約1万人の医師が英国を去った。イングランドのNHS(国民保険サービス)だけでも依然13万2000人の医療関係者への求人があり、そのうち最大1万5000人が医師だ」とし、医療崩壊の危機を指摘する。その根拠について、「英国の生産性の低迷と成長の鈍化は、若者たちが同じ年齢だった両親の時代よりもはるかに少ない繁栄を享受することを意味する。1950年代半ばから金融危機の前まで、実質所得は平均して年2%増加した。しかし、景気後退により、今後2年間で7%下落し、収入は2013年水準に戻る。この予測が正しければ、収入は2028年までの20年間で年0.5%しか伸びない」という。
BOE(英中銀)のMPC(金融政策委員会)の中でも、高インフレに過剰反応した行き過ぎた利上げが景気をさらに悪化させるとの利上げ慎重論も出てきた。2022年8月にMPC委員に就任した、ロンドン大学ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の前准教授スワティ・ディングラ氏は昨年12月3日付の英紙ガーディアンで、「金利が極めて高く、極めて深刻なリセッション(景気失速)が見られる。それは我々(BOE)全員が心配すべきことだ。金融引き締めが今のペースで続けば、リセッションを長引かせ、さらに悪化させる。インフレは経済に対する最大の脅威ではない」と言い切る。同委員は過去2回のMPC会合で、利上げペースの減速を主張している。
また、ブレグジット(英EU離脱)後の輸入物価の急上昇や英国への投資減少がリセションの原因とみる有識者も少なくない。ディングラ氏もまた、「ブレグジットが事態(景気後退)を悪化させている」という。MPC委員の就任前、「ブレグジットの結果、レッドテープ(経済への行き過ぎた規制や介入)や国境での税関手続きの遅延、ポンド安、企業投資の失速などが引き起こされ、英国の景気低迷を悪化させた」とも指摘している。同氏は、「BOEの企業調査で、今後2年間で企業投資が8%、雇用は2%減少する可能性があるにもかかわらず、市場は積極引き上げが英国経済にとってどれほど悲観的であるかを十分に分かっていない」と苦言を呈する。
FRB(米連邦準備制度理事会)と同様、BOEもインフレ率を前年比2%上昇の物価目標に収束させるまで利上げを続けようとしている。このため、さらなる景気悪化懸念が強まっているが、ノーベル賞経済学者でコラムニストとして著名なポール・クルーグマン氏(現在、ニューヨーク市立大学大学院教授)はニューヨーク・タイムズ紙の昨年11月29日付と同12月2日付のコラムで、「FRBは2%上昇の物価目標の固執するあまり、インフレ率を2%上昇に戻すため、過剰に利上げし、不要なリセッションを引き起こす可能性がある。IMF(国際通貨基金)の元チーフエコノミストのオリビエ・ブランチャード氏のようなタカ派のエコノミストでさえ、インフレ率を2%上昇よりもむしろ3%上昇に引き下げれば十分だとしているが、私も3%上昇で(利上げを)止めた方がいいと思う」と述べており、英国でも同様に物価目標の引き上げがリセッション回避のカギを握っている。(了)