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韓国と北朝鮮 「緊張の4月」本格化へ 週明けから"歴史的日程重複”続く

写真は2018年9月の北朝鮮建国70周年パレード時のもの@平壌(写真:ロイター/アフロ)

4月に入り、韓国で北の動きを警戒する報道が相次いでいる。

「北朝鮮、今月に主要行事続く…緊張の4月」(YTN)

「北, 4月の軍事行動に注意…韓(朝鮮)半島緊張高まる」(ニューシス)

「韓(朝鮮)半島 "4月危機説”拡散… 米”対北抑止力カード”は?」(世界日報)

確かに今月に入って北側の動きが"活発"なのだ。

2日には”金正恩氏の妹”、金与正氏がおよそ半年ぶりに国内の宣伝メディアで談話を発表。「南朝鮮(韓国)の国防省長官が我々に対する対する”先制攻撃”云々の話をした」とした。韓国のソ・ウク長官が「北朝鮮のミサイル発射の兆候が明確ならば先制攻撃する」と発言したことを受けてものだ。これを酷評、「狂った奴、そしてゴミ」と言い放った。

その2日後の4日には、再び韓国側の「北への先制攻撃発言」について朝鮮中央通信を通じて「核保有国に対する先制攻撃?」「南朝鮮を軍事的に相手にしていない」と酷評した。

公営放送「KBS」はこれを「軍事挑発に向けての大義名分づくりと見られる」と報じている。

4月7日にはアメリカ側の見解も多く報じられた。ソン・キムアメリカ国防部対北特別代表がこの日、記者団との電話を通じたブリーフィングを通じこう話したのだ。

4月15日に合わせて北朝鮮がまた別の挑発をしてくるのではないかと心配している。そういった事態に合わせ、我々が準備をしておくことが望ましい。来たる記念日に北朝鮮が挑発的な行動をしうる。あまり多くの推測はしたくないが、その行動はミサイル発射になりうるし、核実験にもなりうる。重要なことは我々が同盟国との協力、調整を通じ予想される事態に対処する準備はできている、ということだ」

北とすれば「最高の祝日に、最悪の行為」

何なのかというと…4月第3週、11日月曜日から南北間の緊張が高まりそうなスケジュールが重なるのだ。

筆者作成
筆者作成

11日月曜日に「金正恩氏が朝鮮労働党第一書記に推戴されて10周年」を迎える。2012年に「金正恩氏が国家のリーダーとして認められた日」だけに、ここを皮切りに"祝賀ムード"が始まるものと見られる。

翌12日火曜日からは韓国側で動きが。「米韓合同軍事訓練・危機管理参謀訓練」の開始だ。これはいわば予行練習で、18日からは「本訓練」も予定されている。

13日水曜日は同じく金正恩氏が国家のリーダーにふさわしいと認められた日だ。「国務委員会第一委員長に推戴されて10周年となる日」。

そして15日金曜日がこの4月の"緊張ピーク"となることが予想されている。北朝鮮の「最大の国慶日」である「太陽節」だ。故金日成氏の生誕記念日。今年は110周年。1997年までは「4.15節」と呼ばれていたが、当時の金正日総書記が「首領様のお名前はまさに”太陽”」として命名された。

今年の太陽節に向けた動きはすでに韓国側でも注目されている。地上波「MBC」は、2日の「統一展望台」という専門番組で「会場の掃除が早くも始まっている」と伝えた。

25日もまた、北朝鮮にとっての記念日だ。「朝鮮人民革命軍創建90周年」の記念日。人民革命軍とは、金日成の指導下に抗日武装抗争を続けた当時の朝鮮の軍隊。1932年がスタートとされている。

ただでさえ、北にとっての”祝砲”を撃つ要素が多くあるが、今年はこれにとどまらない。"南北の日程の重複"が重要なのだ。

「北朝鮮にとって一番大切な祝日に、北朝鮮が韓国関連で強く嫌う行為が行われる」のだ。

米韓合同軍事訓練だ。朝鮮半島に帝国主義者(米国)が足を踏み入れている。これだけでも許せない行為なのだ。同国憲法第1章「政治」の第2条にはこうある。

「朝鮮民主主義人民共和国は帝国主義侵略者たちに反対し、祖国の光復と人民の自由と幸福を実現するために栄光ある革命闘争を達成した、輝ける伝統を受け継いだ革命的国家だ」

帝国主義侵略者に反対する、という点が国の存在理由の第一義としてあるのだ。

2014年の米韓合同軍事訓練の様子
2014年の米韓合同軍事訓練の様子写真:ロイター/アフロ

今年は北が重視する「定周年」

これだけではない。ほかにも2022年の今年は、韓国やアメリカが警戒するいくつかの要素が重なっている。

■すべての行事が「区切りのよい年」。金正恩氏関連はすべて「10周年」、太陽節=金日成氏生誕記念は「110周年」、朝鮮人民革命軍創建は「90周年」。北朝鮮では5年、10年区切りの記念日を「定周年(ジョンチュニョン)」と呼び重要視する。なかでも「太陽節」は国にとって最も大切な祝日なだけあって、110周年の今年の動向には注目が集まっている。ちなみに直近の「定周年」だった105周年=2017年にはパレードが行われ、2018年にはなかった。

■ウクライナ情勢。アメリカの専門家(シンクタンク「ランド研究所」)による分析を韓国メディアは報じている。「北は対米戦争は望んでいないが、ロシアの侵攻を見て韓国に対する欲が出ているのでは」。

■韓国で尹錫悦政権誕生へ。次期大統領は「北が核放棄の姿勢を見せれば(見せてこそ)、いくらでも援助の準備はある」と発言。また米韓合同軍事訓練も「正常化」を宣言しており、いわゆる「対北強硬派」と見られている。

2018年9月の建国70周年による平壌での軍事パレードの様子
2018年9月の建国70周年による平壌での軍事パレードの様子写真:ロイター/アフロ

韓国の注目ポイント「核実験はあるのか」

では韓国側が北の何を注視しているのかというと、「核実験」をやるのかどうかだ。2017年の第6回核実験を最後に北では行われていない。

核実験により国際社会からさらなる対北経済制裁が下され、それにより南北の緊張が高まること。韓国にとってはこの流れが最悪のシナリオと想定される。

4月1日には国内の地上波「MBC」が米CNNの報道を引用し、こう伝えた。

「3月4日、アメリカの民間衛星が撮影した豊渓里(プンゲリ)核実験場の映像によるとトンネル建設や発掘調査が進行中」

そこは2018年に国際記者団を招待し、爆破場面を公開した場所。その後閉鎖しているはずなのだ。再び核実験の準備をしているのではないか。そういう疑いが持たれている。

一方で「実験場の復旧には時間がかかる」「この4月には間に合わないのでは」「金正恩委員長本人が国内で自らを神格化しようとするのであれば、先日のような大陸間弾道ミサイル(ICBM)のほうが映像が作りやすいのではないか」といった指摘もある。

果たして、北にとっての"祝砲"は撃たれるのか。

YTNに出演したキム・ヨルス韓国軍事問題研究院室長によると、少なくとも週明け以降、北朝鮮国内では次の動きが想定されるという。

15日(金日成生誕記念日)に「大規模パレード」。

25日(朝鮮人民革命軍創建記念日)に「大規模軍事パレード」。

(了)

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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