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鈴鹿央士のやさしさと実像の狭間。今カノと元カノに揺れる役に「決められないのはわかります」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)『スイートモラトリアム』製作委員会

昨年、大ヒットした『silent』の“主成分やさしさ”の役で、人気が爆発した鈴鹿央士。主演を務めるドラマ『スイートモラトリアム』がスタートした。今回は健全に交際中の今カノと奔放な元カノの間で揺れつつ、また心やさしい大学生の役。ハマっているが、本人はこのイメージをどう捉えているのか。役者としての現状と合わせて聞いた。

「何でこうなんだ?」という気持ちにはなります

鈴鹿 (ライターがたまたま着ていたTシャツのロゴを見て)あっ、ブルーハーツさん。

――えっ? 世代は違うと思いますが、お好きなんですか?

鈴鹿 好きです。最高ですね。僕は岡山出身で甲本ヒロトさんと一緒なので、「すごい人が岡山から出たんだな」とずっと思っていて。高校時代、失恋したときに『ラブレター』を聴いて号泣しました。

――鈴鹿さんでも失恋なんかするんですか?

鈴鹿 それはしますよ(笑)。告白して振られてハァーッ……となって、『ラブレター』がすっごい染みました。

――たびたび言われるかと思いますが、鈴鹿さんはすごくやさしいイメージが世間にはあります。今回の『スイートモラトリアム』でもそういった役柄ですが、そのイメージは、ご自身とかけ離れたものではないですか?

鈴鹿 日々現場で過ごしながら、自分がやさしいとはあまり思いません。「何でこうなんだろうな」という気持ちになることもありますし、いろいろなものを受け止める力はまだまだなので。やさしさは足りない気がしています。

――主成分にはなってないと。

鈴鹿 まだなってないですね。

校則を守って真面目に生きようとしてました

――では、やさしいと見られがちなことが、重荷になる部分もないですか?

鈴鹿 それは全然大丈夫です。そういう自分もいるので、あまり気にしていません。この前、友だち3人で河川敷に座って、愛について語ったんですけど(笑)、そういうことも好きなんです。

――青春ですね。

鈴鹿 「愛してる」と言葉にするべきか。でも、もし別れたとき、「愛してた」に変わると苦しいよね……という話をしました(笑)。愛を考える中には、やさしさも含まれるので、周りの目と関係なく自分から学びにいっています。

――学生時代、校則を破ったりして怒られることも、ありませんでした?

鈴鹿 あまり怒られた記憶はなくて、校則も守ってました。自転車通学でヘルメットをちゃんと被ってましたし、真面目に生きようと思っていました。

――不良願望というか、ワイルドな人に憧れた時期もなく?

鈴鹿 なかったです。岡山の田舎のほうで、同じサッカー部でもヤンキーと言われるような人たちは結構いましたけど、そういう人たちこそやさしくて、見た目は悪そうでも悪さはしないんです。自然に接してくれたので、僕は普通の髪型で過ごしていました。

怒る前に考えて落ち着くことが多いです

――以前「怒ることはあまりない」という発言もされていました。怒りの感情自体が湧き上がらないんですか? 抑えているということですか?

鈴鹿 怒りは湧き上がりますけど、一回考えて「ああ、そういうことか」と落ち着くことが多いです。気兼ねなく話せる関係の人だったら言葉にして、小さく怒りは出しますけど、一方的になってしまいそうだったら、出さずに自分の中で考えるようにしています。

――大人ですね。昔からそうだったんですか?

鈴鹿 小さい頃は、よく兄とケンカしていました。高校生になってからか、東京に来てからか、親を見ながら怒らないようになっていった気がします。でも、自分の中では、“わからないから怒る”ようなことが多くて。「何でこうなるんだろう」も怒りのひとつだと思いますし、だからこそ、いろいろなことを知っていきたいです。

――演技では怒る場面もありますよね。感情の殻は最初から自然に破れた感じですか?

鈴鹿 怒る演技は『ドラゴン桜』くらいからで、監督さんが1対1で「こうしましょう」と話し合いをしてくれました。それで「こんな感じか」とひとつ解けた気がします。毎作品そういうことが何かしらあって、まだ僕が出せてないところは、たくさんあると思います。

「自分もっと頑張れ!」と思いながら

――怒るのとは違う意味でメラメラするというか、内面で燃えるようなことはありますか?

鈴鹿 あります。こうしたいな、こうなればいいなというのは、たくさん思ったりします。

――サッカーやバドミントンを部活でやっていたそうですが、スポーツにも燃えてました?

鈴鹿 そうですね。サッカーだと助け合うところがありますけど、バドミントンのシングルスだと1人でやるので、「自分もっと頑張れ!」と思いながらやっていました。高校最後の大会の団体戦で、僕が負けて終わってしまったときは、泣いていました。

――役者さんで「この人には負けたくない」と思うライバルがいたりは?

鈴鹿 それは最初からなくて、みんな仲間だと思ってます。自分と勝負すればいいかなと。

人が先に歩いてくれたら、ついて行ってしまって

――『スイートモラトリアム』で鈴鹿さんが演じる柏木心は、プラトニックな交際をしている彼女がいながら、家に押しかけてきた元カノを泊めてしまいます。鈴鹿さんだったら、どうしてますか?

鈴鹿 そんな状況に出くわしたことはないですけど、僕は泊めないと思います。一回終わりにしたなら、お互い前に進むべきなので。

――では、泊めてしまった心に対しては、客観的にどう思いました?

鈴鹿 そうか、そうかと(笑)。鈴鹿としては良くないと思いますけど、心くんと(元カノの)りんごちゃんの関係や、りんごちゃんの人間性もあるので。心くんは自分で決めない。人が先に歩いてくれたら、ついて行くところがあって。りんごちゃんがずっと走っているので、そうなるのも仕方ないなと思っていました。

正反対の2人なので中間ならいいなと(笑)

――今カノの小夜(田辺桃子)と元カノのりんご(小西桜子)、それぞれに対する心の心情は、どう捉えました?

鈴鹿 そこはすごく考えました。高校時代に付き合っていたりんごちゃんとの思い出や印象は、すごく強い。小夜ちゃんはどちらかというと心自身に似たタイプで、りんごちゃんとは全然違う。自分で選択して、好きなものに真っすぐ向き合って走るのがりんごちゃん。小夜ちゃんは自分の好きなものもあるけど、「家族に言われているから」とか誰かの目を気にしている。正反対の2人なんです。

――そのようですね。

鈴鹿 それで心はどう惹かれていくのか。2人とも魅力的なので、天秤に掛けてみたんです。シーンごとに、このときは小夜ちゃんが、このときはりんごちゃんが……と考えて、意外とどっちでもないのかな、というのもありました。

――劇中でも、回ごとに揺れるようで。

鈴鹿 天秤に掛けようとしたことが間違いだったかも、と思ったりもしました(笑)。心くんは難しいですね。

――鈴鹿さん目線からでも、それぞれに惹かれるところはあると?

鈴鹿 あります。すごく個性的な人と、穏やかで自分を見守ってくれる人と。どっちかには決められません。中間の人がいればいいのに、と思いました(笑)。

将来の夢はずっとありませんでした

――このドラマに関して、「こういう瞬間ってあるよなぁと共感する部分がありました」とのコメントも寄せられています。どんなシーンでそう思いました?

鈴鹿 シーンというか、選択しない、決められない……みたいなところです。学生時代、将来の夢とか書くときに、僕は本当に何もなくて。周りの人がサッカー選手、パン屋さん……とか書いているから、自分もそう書いておこう、みたいな。

――それは小学生の頃ですか?

鈴鹿 中学でも高校でも、特に夢はありませんでした。英語が好きだっただけで、通訳と書いていたり。ずっとそうだったんです。何かを決めなきゃいけないのは難しい。そんな選択を迫られても……という自分がいました。心くんがどうするのか決めないといけないシーンは結構あって、そのたびに「僕も決めてなかった」と思い出したりしています。

――総じて、心役は演じやすいキャラクターですか?

鈴鹿 演じやすくはないですね。難しいです。小夜ちゃんかりんごちゃんか、というのもありますし、心くんには選択肢が多すぎて。想像できる心情はたくさんあっても、心くんはあまり決断をしないから、答えが台本に書いてない。自分で決めないといけない。枝分かれした先の答えを見つけていくのが難しかったです。監督と話し合いながらやっていました。

目の開け方には気を配りました

――心を演じる際に、特に大事にしていたことは何ですか?

鈴鹿 目ですね。メガネを掛けていて、前髪もちょっと目に掛かっているので、目の開き方で見え方が全然変わってくるんです。まぶたをちょっと下げるだけでも目が隠れて、隠すときと出すときで何となく、目の開き具合を合わせるようにしていました。

――心情によって、目の開け方を変えたんですか?

鈴鹿 自分でも、あまりわかってないです。お芝居の流れでやっていました。でも、何となく目の感じは大切なのかなと。あと、手ですね。アウターのポケットには入れないけど、パーカーのポケットには入れる。衣装さんと話し合ったんですけど、それも感覚的なものです。

――メガネ姿のご自分のビジュアルを見て、どう思いました?

鈴鹿 ハリー・ポッターだなと(笑)。小さい頃から、普段メガネを掛けていると「ハリー・ポッターに似てる」と言われ続けていて。今回、確かに似てるかもと思いました。

――原作のマンガから取り入れたところも?

鈴鹿 ところどころの顔のほころび具合や、どこまで顔が緩んでいるかは、マンガからちょっと取ったりもしました。でも、映像にすると、台本の流れと原作で少しずつ変わる部分もあって。その中間にあるところを、原作から持ってきています。

刺激より安定を取りたいです

――心の良さだと感じるのは、どんなところですか?

鈴鹿 決められなくて選択を迷う心くんもいますけど、意外と男らしい一面もあって。そのギャップは魅力じゃないかと思います。

――印象的な台詞やシーンというと?

鈴鹿 物語の最後のほうに「人が心の中にいる」という表現が出てくるシーンがあって。記憶は都合良く消せないし、頭で考えることでなく心の中にその人がいる……というのは、そうだなと思いました。一回愛した人は心の中に残ってる。河川敷で友だちと話したとき、「愛してる」が「愛してた」に変わるのがイヤだねとなりましたけど、「心の中にいる」は現在進行形だから、すごくいいなと思ったんです。

――心は刺激か安定かで迷っているところがありますが、鈴鹿さんだったら、どちらを選びますか?

鈴鹿 どっちかなら、安定ですね。穏やかな生活をしたいです。刺激は人からでなくても、自分で何かすれば得られるので。映画や音楽や本でも、友だちに聞いて、すごく良い作品と出会ったりもしてきました。そういう刺激も大きいですけど、やっぱり安定で(笑)!

日常と地続きな作品が好きです

――今ちょっと出ましたが、映画はよく観るんですか?

鈴鹿 映画もドラマも好きな作品は観るようにしています。この前は韓国ドラマの『グリーン・マザーズ・クラブ』をちょっと観ました。映画館で観たい映画も、今ふたつあります。

――最近だと、どんな映画に刺激を受けました?

鈴鹿 今泉(力哉)さんの『窓辺にて』は面白かったです。

――稲垣吾郎さん主演で大人の話でした。

鈴鹿 そうですね。今泉さんは『かそけきサンカヨウ』でご一緒して、観てみようと思いました。会話の面白さ、日常と地続きな感じがやっぱりして「生きてるな」という。本当にこの時間が流れているような映画が好きなんです。

――今泉監督の作品は、まさにそういう日常感があります。

鈴鹿 そこにエンタメ的な面白さもすごく入っていたのが、『窓辺にて』でした。

――こちらは結婚している夫婦がメインで、世代も『スイートモラトリアム』とは違いますが、やっぱり別れる・別れないという逡巡が描かれていました。

鈴鹿 男の優柔不断みたいなものは、ロメールが得意ですよね。でも、今回はそれともまた違ったので、どうやって演じていこうか悩みました。

頑張ったうえで「何とかなる」と言います

――先ほど、学生の頃に夢がなかったとのことでした。今は夢や野心はありますか?

鈴鹿 今もそんなに先まで見えてなくて、目の前のことで精いっぱいです。どこにも保証がない世界ですし、ひとつひとつ一生懸命できればいいなと思うだけです。

――さらに売れたいとか、考えませんか?

鈴鹿 もっとお芝居をしたい、というほうが強いですね。

――ラジオでは、好きな言葉は「何とかなる」と話されていました。

鈴鹿 「何とかなる」は親からずっと言われてました。ちゃんと頑張ったからこそ言える言葉で、頑張らずに「何とかなる」と言ったら、ただ適当にやっているだけ。テストでも本番まで頑張ったのなら何とかなるはずと、肩の力を抜きましょう、みたいな言葉です。

――鈴鹿さんのお話をうかがっていて、“さとり世代”という言葉が浮かびました。大きな夢を高望みするより、自分の中の豊かさを重視というような。

鈴鹿 そうかもしれないですね。周りの人たちも、就職して定年まで同じ仕事をするつもりの人は少なくなっていますし、時代の移り変わりが早すぎて、付いていくのに必死。僕も「何歳までにこうなりたい」みたいなものはありません。でも、できるだけお芝居は続けたくて。鈴鹿央士の芝居を見ようと思ってくれる人がゼロになるまでは、やっていたいです。

あまりスターっぽくないですから(笑)

――鈴鹿さんはデビュー5年で、傍からは順調以上の勢いでステップアップされてきたように見えます。ご自分の中では、その過程で悔しい想いをしたり、落ち込んでいた時期があったりはしますか?

鈴鹿 それは毎回あります。確かに、良い作品と素敵な方たちにはたくさん出会えてますけど、自分がどう過ごしたか、どう向き合ったか……というところでは、反省がたくさんあって。でも、それは人に見せるものでもないので、いい感じだと見てもらえるなら、そのほうがいいかなと思います。

――今、周りから見たら、鈴鹿さんはキラキラしたスターです。ご自分ではそういう感覚や、身の周りの変化はありますか?

鈴鹿 ないですね。僕はあまりスターっぽくないですから(笑)。外でロケしたときに、「見たことある人だ」と言ってもらえることは増えて、嬉しいですけど、まだまだ全然です。

――芸能界に入ってから、人として変わった感じもしませんか?

鈴鹿 自分ではあまりしないです。でも、高校時代の友だちと久しぶりに会ったら、「変わったね」と言われるかもしれません。

普段から人を見て役に引っ張り出せるように

――「タフグミ」のCM発表会で、筋トレに励んでいるというお話が出てました。役者さんとしても、日ごろから演技力を磨くためにされていることはありますか?

鈴鹿 人を見るようになりました。たとえば、現場で「初めまして」から付き合っている役となると、歴史がまったくない状態ですよね。でも、親友とその彼女の間柄をずっと見てきて、自分の中に持ってくると、そこに歴史ができます。自分と誰かの関係も、頭の中のアルバムみたいなものから出してくるので、ちゃんと人を見ておかないと積み重ねられないかなと。

――自分の経験にないものを補うわけですね。

鈴鹿 お芝居をするとき、相手役の方からだけでなく、いろいろなところから引っ張り出せればいいかなと思っています。

――『スイートモラトリアム』でも、それは反映されたんでしょうね。

鈴鹿 されたかな(笑)。自分でもどうなっているか楽しみです。

Profile

鈴鹿央士(すずか・おうじ)

2000年1月11日生まれ、岡山県出身。

2018年に「MEN'S NON-NO 専属モデルオーディション」でグランプリ。2019年に映画『蜜蜂と遠雷』で俳優デビュー。主な出演作はドラマ『ドラゴン桜』、『クロステイル~探偵教室~』、『六本木クラス』、『silent』、『君に届け』、映画『星空とむこうの国』、『かそけきサンカヨウ』、『ロスト・ケア』ほか。ドラマ『スイートモラトリアム』(TBS)に出演中。7月スタートの『18/40~ふたりなら夢も恋も~』(TBS系)に出演。カバヤ食品「タフグミ」CMに出演中。ラジオ『povo presents 鈴鹿央士の寄り道トーク』(TOKYO FM)でパーソナリティ。

ドラマストリーム『スイートモラトリアム』

TBS/火曜24:58~

放送後、TVer、TBS FREEにて各話1週間、無料見逃し配信あり。

Paravi、U-NEXTにて各話1週間、先行有料配信中。

公式HP

(C)『スイートモラトリアム』製作委員会
(C)『スイートモラトリアム』製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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