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白斑治療の新展開:AhRアゴニストが皮膚の色素再生を促進

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

【白斑:難治性の皮膚疾患に新たな希望】

白斑は、皮膚の一部が白く抜ける自己免疫疾患です。世界中で多くの人々が悩まされており、日本でも患者数が増加傾向にあります。この病気は、メラニン色素を作る細胞(メラノサイト)が破壊されることで起こります。

白斑は単なる見た目の問題だけでなく、患者さんの生活の質や心理的な健康にも大きな影響を与えます。多くの患者さんが社会的な偏見や差別に苦しんでいるのが現状です。

これまでの治療法には、ステロイド外用薬や紫外線療法などがありましたが、効果が限定的であったり、副作用のリスクがあったりと、十分な治療法とは言えませんでした。

【AhRアゴニスト:白斑治療の新たな可能性】

最近の研究で、アリルハイドロカーボン受容体(AhR)アゴニストと呼ばれる物質が、白斑の治療に効果があることがわかってきました。AhRは、体内のさまざまな細胞に存在する受容体で、メラニン生成や炎症反応の調整に関わっています。

AhRアゴニストは、この受容体を活性化することで以下のような効果をもたらします:

1. メラニン生成の促進:メラノサイトでのメラニン合成酵素の発現を高めます。

2. 抗酸化作用:活性酸素種(ROS)の産生を抑え、メラノサイトを保護します。

3. 免疫調節:炎症を引き起こすサイトカインの産生を抑制します。

これらの作用により、AhRアゴニストは白斑の進行を止めるだけでなく、色素の再生も促進する可能性があります。

【タピナロフ:日本でも期待される新薬】

タピナロフは、AhRアゴニストの一種で、すでに乾癬治療薬として米国で承認されています。最近の研究では、白斑に対しても効果があることがわかってきました。

タピナロフクリーム1%を1日2回、6ヶ月間使用した症例では、50%以上の再色素化が達成されました。さらに、副作用もほとんど報告されていません。

従来の治療法と比べて、タピナロフには以下のような利点があります:

・局所的に使用できるため、全身への影響が少ない

・長期使用による効果の低下(タキフィラキシー)がみられない

・重大な副作用のリスクが低い

ただし、タピナロフの白斑治療への応用はまだ研究段階であり、長期的な安全性や効果については更なる検証が必要です。また、個々の患者さんの状態によって効果が異なる可能性もあるため、専門医との相談が不可欠です。

白斑の治療は、単に色素を取り戻すだけでなく、患者さんの生活の質を向上させることが重要です。AhRアゴニストを用いた新しい治療法の登場により、より多くの患者さんが希望を見出せるようになることを願っています。

今後も白斑治療の研究は進展していくでしょう。患者さんやそのご家族の方々は、定期的に皮膚科専門医に相談し、最新の治療情報を得ることをおすすめします。

参考文献:

1. Bitterman, D., et al. (2024). The role of aryl hydrocarbon receptor agonists in the treatment of vitiligo. Archives of Dermatological Research, 316:659. https://doi.org/10.1007/s00403-024-03405-2

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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