エース・横山久美の2ゴールでノルウェーに完勝! 試合ごとに成長を見せるなでしこジャパン(1)
アルガルベカップに出場中の日本は、グループリーグ第3戦でノルウェーに2-0で勝利した。
日本のスターティングメンバーは、GK池田咲紀子、DFラインは左から佐々木繭、中村楓、熊谷紗希、高木ひかり。阪口夢穂と川村優理がダブルボランチを組み、2列目は左サイドが千葉園子、右サイドが中島依美。FWに横山久美と籾木結花が並んだ。池田と籾木は、A代表初先発を飾った。
これまでの2試合とは会場が変わり、第3戦と第4戦は、今大会のメインスタジアムでもあるエスタディオ・アルガルベで行われる。2004年のUEFA欧州選手権に合わせて造られた、洗練されたスタジアムである。風もなく、晴天の下でキックオフの笛が鳴った。
日本は開始早々の1分にカウンターから相手にフリーでシュートを打たれる大ピンチを迎える。このシュートはポストを直撃して一難を逃れた。しかし、5分にも似たような形でカウンターからピンチを迎えるなど、試合はノルウェーの優勢で始まった。
ノルウェーは日本と同じ4-4-2のフォーメーションで、ピッチを広く使い、手数をかけず、少ないタッチ数で縦に速い攻撃を仕掛けてきた。
日本は前線の横山と籾木が相手のパスコースを限定し、後ろの選手も連動する形で、ノルウェーの両サイドの選手をスピードに乗らせることなく、クロスを上げさせない守備ができていた。だが、球際の寄せが遅れがちでボールを奪いきれず、押される時間帯が続いた。
「FWは一列下げ(てプレッシャーをかけ)よう!」
最終ラインの熊谷が声をかけ、前線の守備のスタート位置を調整し直す。試合の状況に応じて修正する声かけがこれまでの2試合に比べて増えたところに、チームの成長が見える。
一方、攻撃面では味方にボールが入った時のサポートが遅く、特に前半は右サイドのバランスの悪さが目立った。右サイドの中島がボールを持った際、味方とのタイミングが合わずにカウンターを食らう場面も。ノルウェーのゾーンディフェンスの網にまんまとかかり、相手が狙っている場所にパスを出してカウンターを招くなど、判断ミスも目立った。だが、中盤の川村と阪口も守備に回って流れの悪い時間帯をしのぐと、日本は徐々にマイボールの時間を増やしていった。
この試合で、日本の攻撃をリードしたのは、ボランチの阪口だ。
初戦は、スペインの強いプレッシャーの中で、日本は中盤の人数が相手よりも少ない状況(スペインは5人で、日本は3人)に加え、サポートの遅さもあり、阪口のゲームメイクは、ほぼ封じられてしまった。
だが、この試合ではボランチを組む川村とうまくバランスを取りながら、ゲームを組み立てていった。一本のロングパスで状況を変えられる阪口の展開力は、足元でつなぐパスが多い日本の攻撃の中で重要なアクセントになる。
前半14分には阪口からのロングパスに、籾木と千葉と横山が同時に抜け出す決定的なチャンスを迎えたが、タイミングは惜しくも合わなかった。
一進一退の展開が続く中、スコアレスで前半を折り返した日本は、後半、両サイドを交代。左サイドの千葉に代わって長谷川唯、右サイドの中島に代わって中里優を投入。すると、前半はほとんど動かなかった右サイドが活性化。高い位置でボールを奪えるようになった。
【流れを引き寄せた先制点】
待望の先制点は、59分。
籾木のスルーパスを受けた横山が胸トラップから右足を振り抜くと、相手GKの頭上を越したシュートが、クロスバーを叩いてゴールに吸い込まれた。
横山は前半、前線から守備で相手を追いながら、流れが悪い中でボランチの位置まで降りてボールを受けに行くなど、ゲームメイクにも関わっていた。だが、横山の洗練された得点感覚は、ペナルティエリア内でボールを受けてこそ真価を発揮する。今大会中、横山は誰よりも早くグラウンドに出てトレーニングを開始し、練習後は自ら希望して黙々とシュート練習をこなしていた。地道な努力が結実し、日本は貴重な先制ゴールを得た。
このゴールで流れを引き寄せた日本は、選手同士の距離感が安定し、パスを受けるタイミングも良くなり、各選手の積極的なチャレンジも見られるようになった。
サイドの長谷川と中里が積極的にボールに絡んでゲームを作り、センターバックの中村は、前からくる相手に対人の強さを発揮してピンチの芽を摘んだ。代表初キャップを飾ったGK池田は安定したセービングとボールコントロールで、最終ラインのビルドアップにも参加した。
ノルウェーのキープレーヤーでもあるFWのアーダ・ヘーゲルベルグにボールが入った際には、熊谷が素早い寄せでインターセプト。日本は、ほとんどの選手が一発で抜かれないために相手との間合いを慎重に取っていたが、熊谷だけは、最初から相手の懐に入ってボールにしっかりとアプローチできていた。普段のリーグ戦(フランスリーグ)から、ヨーロッパの選手たちの長いリーチやパワーと向き合っている成果が存分に発揮された。
60分には川村に代えて宇津木をボランチに投入。73分には左サイドバックの佐々木に代わって鮫島彩、トップの籾木に代わって田中美南を投入し、追加点を狙いにいく。
82分には、中村のインターセプトからカウンターにつながり、田中が決定的な場面を迎えたが、最後にDFに体を張られて惜しくもゴールはならず。終了間際の89分には、右サイドに抜け出した中里のクロスを田中がヘディングで合わせ、一度はポストに弾かれたが、詰めた横山が押し込んで2点目。
このゴールで勝利を決定づけた日本は、2-0のまま試合終了の笛を聞いた。
【勝利がもたらしたもの】
無失点での勝利にもかかわらず、試合後の高倉麻子監督の表情は厳しかった。
「狙われているところにボールを出してしまう場面が多く、パスがつながりませんでした。そういうプレーが私は好きではありません。相手に(自分の意図を)読まれている時に(パスを出すことを)やめる判断や、(ボールを持った時に)もっと遠くを見られる力をつけていかなければいけないと思います。」 (高倉監督)
選手同士の距離感が改善され、連携面で一定の手応えを得た一方で、個人の判断ミスやボールコントロールのミスからピンチを招く場面が多かったことは、今後に向けて修正すべき課題である。
課題が浮き彫りになった反面、収穫もあった。これまでの2試合と比べると、試合の中で選手同士がコミュニケーションをとり、代表経験の浅い選手や若手が積極的なプレーを見せたことは収穫と言える。
経験のある選手たちの影のサポートが、その力を引き出した。
中でも、最終ラインを統率した熊谷、中盤をコントロールした阪口、そして、前線で90分間、献身的にチームをけん引した横山の活躍は光った。横山の得点は、スペイン戦のゴールと合わせて、今大会3得点目である。
「今まで、代表の試合で(1試合で)1点は取れても、2点は取ることができていませんでした。そこは意識していたので、1点入っただけでは喜べませんでしたね。」(横山)
そう話す横山の表情には、背中でチームを引っ張るエースとしての自覚も感じられた。
日本はこれで、2勝1敗でグループ2位となった。3つのグループのうち、スペインとカナダが2勝1分で勝ち点7で優勝決定戦に進むこととなったが、次点でオーストラリア、デンマーク、日本、オランダがすべて2勝1敗の勝ち点6で並ぶ大接戦となり、当該チームの対戦成績や得失点差などにより、日本は4試合目の順位決定戦で5位/6位決定戦に回ることになった。順位決定戦の対戦相手は、オランダに決定した。
オランダは、スペイン同様に成長著しい新興国の一つである。オランダが入ったグループCはスウェーデン、オーストラリア、中国が同居する激戦区であったが、第3戦では昨年のリオデジャネイロオリンピック準優勝国であるスウェーデンを1-0で破っている。
3試合を通じて、一つひとつ、課題の修正を繰り返しながら、チームとしての一体感を増してきたなでしこジャパン。最終戦では、ぜひ、今大会のベストゲームを見せてほしい。
5位/6位決定戦は、3月8日(水曜日)、23時45分(日本時間)にキックオフ。
(2)【選手コメント】に続く