新たな「遊水地」で、関東・東北豪雨レベルの洪水を防ぐ
去年10月の台風19号(令和元年東日本台風)で、横浜市にある日産スタジアム周辺が水に浸かり、ツイッターなどでは、「大雨で冠水!」と話題になりました。ただ、これは想定内のことでした。日産スタジアム周辺は、「鶴見川多目的遊水地」となっており、洪水時には、あえてここに水を溜める設計になっていたからです。
遊水地とは?
ツイッターなどで話題になったことからも、遊水地の存在は、あまり知られていないのかもしれません。
遊水地とは、大雨で川の水位が上がった時に、水を一時的に溜めて、川の流量を減少させるために設けられた区域をいいます。これにより、周辺地域を洪水の被害から守ります。
平常時は他の目的(農地、公園など)で利用され、洪水時には水を溜める、そして川の水位が下がったら、川に水を戻すというのが、遊水地の使い方です。
先の、鶴見川多目的遊水地の例では、約94万立方メートルの洪水を一時的に溜めたことで、「暴れ川」とも言われる鶴見川の氾濫のリスクが低減されました。翌日には、日産スタジアムで、無事にラグビーW杯の試合が行われています。
関東・東北豪雨を機に遊水地を整備
今から5年前、いわゆる「線状降水帯」によって、東北地方は記録的な大雨に見舞われました。「関東・東北豪雨」です。宮城県を流れる一級河川・吉田川(台風19号では堤防が決壊)では、5ヵ所で越水が発生し、上・中流部において、多くの家屋が浸水しました。
この豪雨をきっかけとして、今、吉田川周辺では「吉田川床上浸水対策特別緊急事業」が行われています。その主な事業の一つに、遊水地の整備があります。現在、支流である竹林川、善川に、それぞれ一つずつ、遊水地を整備しており、令和4年度(2022年度)の工事完了を目指しています。
先日、その整備中の遊水地を見学する機会がありました。下の写真は、その一つである「竹林川遊水地」の予定地です。一見、何の変哲もない水田ですが、洪水時には、この一帯に水が溜まり、洪水の被害を軽減する仕組みです。この他にも、河道の掘削、堤防の建設を行い、関東・東北豪雨と同規模の洪水が起きた場合、越水による床上・床下浸水の被害が大幅に軽減される見通しです。
今年、東北地方への台風の接近はゼロ。宮城県では、幸いにも、川が溢れるような大雨は起きていません。ただ、去年の台風19号のように、もともと雨が少ない東北地方においても、いつ何が起こるかわからない時代になっています。
遊水地が活躍しないに越したことはありませんが、近年、大雨の回数が増える中で、将来的には、東北地方でも、遊水地が効果を発揮する回数は増えていくのだろうと感じています。