アトピー性皮膚炎の注射薬デュピルマブ、眼合併症のリスクと予防・治療法を解説
【デュピルマブによる眼表面疾患の概要と発症メカニズム】
アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能が低下し、炎症を起こしやすくなる慢性の皮膚疾患です。デュピルマブは、炎症を引き起こす物質であるインターロイキン4(IL-4)とインターロイキン13(IL-13)の働きを抑えることで、症状を改善します。
しかし、その一方で、特にアトピー性皮膚炎の患者さんにおいて、デュピルマブによる眼表面疾患(デュピルマブによる眼表面疾患は英語でdupilumab-induced ocular surface disease、略してDIOSDと呼ばれます)という副作用が報告されています。
DIOSDは、結膜炎、角膜炎、眼瞼炎、ドライアイ、流涙など、さまざまな眼の症状を引き起こします。
臨床試験では、アトピー性皮膚炎患者のDIOSD発症率は10.9%でしたが、実臨床では20〜25%と高くなっています。多くの場合、DIOSDは軽度から中等度で、デュピルマブを継続しながら治療可能ですが、まれに重篤化して治療中止に至るケースもあります。DIOSDの正確な発症メカニズムはまだ完全には解明されていませんが、デュピルマブがIL-13をブロックすることでゴブレット細胞(粘液を分泌する細胞)が減少し、ムチン(粘液の主成分)分泌低下と粘膜上皮バリア機能不全を引き起こす可能性や、Th2応答(アレルギー反応に関与する免疫応答)の抑制によりTh1応答(細胞性免疫に関与する免疫応答)が亢進することが関与している可能性が示唆されています。
【DIOSDの危険因子と予防・治療法】
DIOSDの危険因子として、もともとの眼疾患、重症のアトピー性皮膚炎、高IgE血症(IgEは免疫グロブリンEという抗体の一種で、アレルギー反応に関与します。高IgE血症はIgEが高値な状態を指します)などが挙げられています。
予防法としては、デュピルマブ投与前に眼の症状をチェックし、もともとの眼疾患がある場合は眼科医と連携して管理することが大切です。また、デュピルマブ投与中、目の違和感を感じたら眼科を受診し、早期発見・早期治療に努めましょう。
治療法は、温湿布、人工涙液(目の乾燥を防ぐ目薬)、抗ヒスタミン点眼薬、抗菌点眼薬、ステロイド点眼薬、シクロスポリン点眼薬(免疫反応を抑える目薬)、タクロリムス軟膏(免疫反応を抑える皮膚薬)など、症状に応じてさまざまな選択肢があります。
眼の違和感や充血などの症状が出たら、早めに皮膚科や眼科を受診することをおすすめします。重症化する前に適切な治療を始められるよう、主治医とよく相談しましょう。デュピルマブによる皮膚症状の改善と、眼の健康を両立するためには、皮膚科と眼科の緊密な連携が欠かせません。
【DIOSDの人種差と今後の研究課題】
興味深いことに、DIOSDはアトピー性皮膚炎患者に特有の副作用で、喘息や慢性副鼻腔炎ではほとんど見られません。また、臨床試験での発症率と実臨床での発症率の差から、人種差もあると推測されます。
実際、欧米の臨床試験ではDIOSDの発症率が10%程度であるのに対し、日本の市販後調査では20%以上と報告されています。この違いには、人種による皮膚や粘膜の構造の差異、生活環境の違い、ウイルスや細菌への感受性の差などが関与している可能性があります。
今後は、DIOSDの危険因子や発症メカニズムをさらに解明し、予防法や治療法を確立することが求められます。特に、人種差についてのエビデンスを蓄積し、日本人に最適な対策を探る必要があるでしょう。
また、デュピルマブ以外の新しいアトピー性皮膚炎治療薬についても、眼合併症の有無や特徴を明らかにしていくことが重要です。アトピー性皮膚炎は、皮膚のみならず全身に影響を及ぼす疾患であり、眼の健康についても注意が必要です。
参考文献:
- J Am Acad Dermatol. 2022 Feb;86(2):486-487. doi: 10.1016/j.jaad.2021.09.029. Epub 2021 Sep 21.