シメオネは「花」を咲かせられるのか。避けられた混沌と、求められる進化。
混沌とした状況は、避けられた。チャンピオンズリーグ・グループステージ最終節ロコモティフ・モスクワ戦で、アトレティコ・マドリーは勝利を手にしてベスト16進出を決めた。設定していた目標が果たされ、雑音が一時的に鎮まっている。
ユヴェントス、レヴァークーゼンと同組のグループDに振り分けられ、厳しい戦いが予想された。それでも、ディエゴ・シメオネ監督就任後、6回目のグループステージ突破を達成している。シメオネ監督の就任前の60年で、アトレティコがグループステージを突破したのは7回だけである。
■CLとリーガの結果
欧州の16強に名を連ねたアトレティコだが、リーガエスパニョーラでは苦戦を強いられている。第16節終了時点、シメオネ監督招聘以降最悪の戦績で、7位まで順位を落としている。
シメオネ監督は2011年12月にアトレティコの指揮官ポストに就いた。だが今季のように、リーガ16試合(獲得可能な勝ち点48)で勝ち点26しか獲得できなかったシーズンはない。2016-17シーズンの勝ち点28を下回り、ワーストの数字だ。
昨季途中、アトレティコはシメオネ監督の契約更改を行った。指揮官の年俸は2400万ユーロ(約29億円)に引き上げられ、ジョゼップ・グアルディオラ監督、ジネディーヌ・ジダン監督を抜いて、世界最高年俸監督になった。高額な年俸を受け取るシメオネ監督、この夏に2億4350万ユーロ(約292億円)の補強を資金を投じたクラブにとって、現在の成績は受け入れがたいものだろう。
■築いた地位と変更
シメオネ監督を迎えてから、アトレティコはスペインと欧州で確固たる地位を築いてきた。18年ぶりのリーガエスパニョーラ制覇を果たし、チャンピオンズリーグでは2度決勝に勝ち進んだ。レアル・マドリーとバルセロナの「2強時代」に風穴を開け、エキーポ・デ・プエブロ(庶民のチーム)からビッグクラブに移行する過程は、困難を伴いながら、形をなしていった。
だが、この夏の変化は大きかった。アントワーヌ・グリーズマン、ロドリ・エルナンデス、ディエゴ・ゴディン、フアンフラン・トーレス、フィリペ・ルイス、リュカ・エルナンデスという主力選手が抜けていった。
チームの刷新とともに、シメオネ監督は、ある決断を下す。プレースタイルの変更である。堅守速攻を武器に成り上がったアトレティコで、ポゼッション・フットボールを展開するという考えが指揮官の頭を擡(もた)げた。
その結果、シメオネ監督に決定力不足という課題が突き付けられた。今季開幕前のロドリゴ・モレノ獲得失敗に、ジエゴ・コスタの負傷による長期離脱。期待のカンテラーノであるダリオ・ポベダも負傷で今季絶望となり、鳴り物入りで加入したイヴァン・シャポニッチは、プレータイムをまったく得られていない。起用できるCFはアルバロ・モラタのみとなっている。
■移行期
リーガ16試合で16得点を挙げているアトレティコだが、これは2005-06シーズンと1981-82シーズン(16試合17得点)を下回る不名誉な記録となっている。
そこで、浮上するのが選手獲得の可能性である。シメオネ政権で、冬の補強に動かなかったのは、2016-17シーズンだけだ。
好例を挙げれば、アトレティコは2015年1月の移籍市場でフェルナンド・トーレスを獲得している。しかし当時レンタル中のミラン、保有権を有するチェルシーとの交渉は難航した。2019年1月の移籍市場では、1年半レンタルに買い取りオプションを付ける条件でアルバロ・モラタを獲得。その際には、ジョニー・オット、ニコラス・カリニッチ、ジェルソン・マルティンスらを放出しなければならなかった。
冬の補強は難しい。しかしながら、ストライカーの確保は急務となっている。
一方で、強固な守備は維持されている。シメオネ監督はリーガ304試合で指揮を執り、164試合を無失点で終えている。失点率は53.9%だ。
ルイス・アラゴネス(757試合/無失点230試合/失点率30.3%)、ミゲル・ムニョス(608試合/無失点225試合/失点率37%)、ハビエル・クレメンテ(511試合/無失点163試合/失点率31.9%)、ヨハン・クライフ(300試合/無失点118試合/失点率39.3%)長期政権を築いた往年の指揮官でも、無失点に抑えられた試合は5割に満たない。
「我々は移行期にある。だが移行期というのは、太陽を浴び、花が咲くのを待つものではない」
シメオネ監督は、そう語った。シメオネの言う太陽と花は、何処にあり、そして誰を示すのかーー。シーズン後半戦、アトレティコの真価が問われることになる。