【名古屋市】思い出深い毎日タクシー。名古屋のタクシー業界を温かく見守りたい
20年以上前、私が正社員として初めて就職したのは、バス・タクシー専門紙「トラモンド」を発行する新聞社だった。マスコミ志望だった私は、当時の就職氷河期の壁にぶち当たり、在京メディア各社の入社試験を受けるも落選続き。「新聞社ではあるだろう」と致し方なく選んだのがトラモンド社だった。
トラモンドはバス・タクシー会社の経営者が購読する新聞で、月曜と木曜の週2回発行。記者でありつつ営業も行い、「これが新聞記者か……?」と戸惑いつつ日々の業務を遂行した。名古屋市内を毎日のように車で駆け回り、バス・タクシー会社の経営者を追った。バス・タクシー業界は狭い世界とはいえ「社会の縮図」。毎日いろいろな出来事が発生し記事には困らなかったが、困ったのが営業だ。会社から課せられていたのが、一日10件訪問、一日3回決済権者(会社名義の金を支払うことができる人間)に会う、一日に1万円は持ち帰れ、という鉄の掟。当時はコンプライアンスなどは全く聞かれず、訪問先の事情などは一切、お構いなしに飛び込み営業を繰り返した。続けているうちに、鉄の掟はいつの間にかこなせるようになっていた。
当時の訪問先の一つが、毎日タクシーだった。ビーグル犬をキャラクターとする行灯(あんどん)を車両の上に付け、中型車両より小さな小型車両でやや割安な料金をセールスポイントとしていた。「一日300キロ走れ、一日3万円売り上げろ(現在は違うかもしれません)」が基準といわれていた名鉄グループやつばめグループよりも会社の規律が緩いのが特徴で、乗務員は60歳以上の年金受給者が多かった。
当時から「つぶれない」といわれていたのが、タクシー会社。一般個人客が対象の現金商売である以上、手元に現金を置いておき即座の支払いにも柔軟に対応できる業態だ。
それが今年の1月末、自己破産の申請をしたというニュースを見た。信じられなかった。京都のエムケイ、九州の第一交通が進出して競争が激化しても、びくともしなかった名古屋のタクシー業界。その牙城が今年に入って崩れ落ちた。長引く燃料高騰が影響した結果だった。
毎日タクシーグループの中核会社だった毎日交通の事務所は、東区にある。4月11日に訪れたが、もぬけの殻だ。
北区にある毎日タクシーグループの本社事務所も5月8日に訪れた。稼働しない車両が並び、基地は廃墟化しつつある。名古屋でかつて多くのタクシー会社を追っていた私だが、市内でも中核の位置にあるタクシー会社が破産した現状をいまだに信じられないでいる。タクシー業界は、私を育ててくれた場所でもある。名古屋のタクシーを取り巻く現状が向上することを願ってやまない。