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落合博満の視点vol.6『勝てるチームの守備――無死一、二塁のバントシフトは二塁封殺を狙え』

横尾弘一野球ジャーナリスト
無死一、二塁のバントシフトは三塁封殺を狙うが、落合博満は二塁を封殺する効果を語る

 選抜高校野球は連日、熱戦が繰り広げられ、3月30日にはプロ野球が開幕する。2018年シーズンに大きな成果を挙げるため、プロ・アマ問わず指導者は試合をこなしながら、どうやってチーム力を高めていくか腐心しているはずだ。では、チーム力の土台とも言えるディフェンスを強化するためにはどんな練習をすればいいのか。独自の視点で野球を考える落合博満は、無死一、二塁におけるバントシフトでユニークな提案をする。

「このケースでは、いかに二塁走者を三塁で封殺するかを考え、フォーメーションを含めて練習していると思う。ここで少し視点を変え、一塁走者を二塁で封殺したらどうだろう」

 守備側が1~2点をリードして迎えた試合の終盤に、攻撃側が無死一、二塁のチャンスを築いた場面を想定する。攻撃側が犠打による進塁を企てたのなら、一死二、三塁の形にすれば成功だ。対する守備側は、二塁走者を三塁で封殺し、一死一、二塁としたい。落合はこう語る。

「守備側がバントシフトを敷いた場合、一死一、二塁なら100点、無死二、三塁にされたら0点ということになる。けれど、勝敗を左右する場面なのだから、100点ではなくても80点、せめて50点を取る守りはできないのか。それが一塁走者の二塁封殺だ。実は、練習しておけば、意外と高い確率でアウトにできるものだ」

 一般的に一、二塁や二、三塁では、後位の走者は前の走者の動きを見ながら動く。つまり、無死一、二塁のケースで二塁走者は好スタートを切ろうと準備するが、一塁走者はあくまで二塁走者の動きに合わせる。スタートも二塁走者ほど重視されていない。このケースで二塁走者に万全を期して代走を送ることはあっても、一塁走者はそのまま。スピードのない走者という場合も少なくない。

 また、無死一、二塁のバントシフトは一塁手がチャージをかけ、投手はマウンドから三塁側に降りてくる。ゆえに、攻撃側の鉄則とされるのが『三塁手に捕らせるように、強めのバントを三塁側にする』ことだ。それを逆手に取り、三塁手が前進してバントを処理し、二塁封殺を狙うのは無理なプレーではない。

勝ちたいなら常勝チームの取り組みを真似すべき

 さらに、このバントシフトで最大の効果を落合はこう説く。

「守備側にとって、一死二、三塁と一死一、三塁では、ピンチの程度がまったく違う」

 一死二、三塁でタイムリーを打たれれば2失点だが、一死一、三塁なら1失点で済む。2点以内の勝負をしている展開で、この差は大きい。また、一、三塁なら次打者を内野ゴロに討ち取れば併殺も取れるのだ。

「二、三塁と一、三塁では内外野の守備位置も、バッテリーの配球も変わる。そして、二、三塁を守り切るよりも、一、三塁にしておいたほうが精神的にも余裕を持てるということを選手たちが感じるだろう。だからこそ、無死一、二塁でバントをされた時、無理をしても三塁封殺を狙うのなら、二塁封殺の練習をしておくのもディフェンス強化になる。そうして、選手たちの考え方も育まれる」

 落合が実践する野球は、先の表現を借りれば「100か0かではなく、100ができないなら80、50を目指してみる」という傾向が強く、それが僅差の勝負で生きてくる。

「勝ちたいと思うなら、勝ち続けたチームが取り組んできたことを真似するのが一番」

 V9巨人、1980年代から黄金時代を築いた西武の野球を徹底的に分析した落合ならではの考え方だ。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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