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アマゾン、電子書籍でも奇策! 紙の本の購入者に電子本を割安で販売、18年前の購入も対象

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

米アマゾン・ドットコムが、デジタルコンテンツの販売でまた新たな手法を打ち出したと話題になっている。同社は3日、「マッチブック(MatchBook)」と呼ぶサービスを今年10月に始めると発表した。

これは同社で印刷書籍を購入した顧客に、同じタイトルの電子書籍を割安の価格で販売するというもの。価格は2.99ドル、1.99ドル、99セント、あるいは無料のいずれかで、当初1万種類のタイトルを用意し、順次増やしていくという。

興味深いのは、対象となる書籍に過去に購入したものも含まれるという点。アマゾンが書籍のオンライン販売を開始した1995年までさかのぼるという。

「クリントン政権時代に買った『男は火星から、女は金星からやってきた』のような本を、18年後の今、わずか数ドルであなたの電子書庫に加えられる」と同社は説明している。

このサービスは当初米国で始めるもようで、日本を含む海外展開については今のところ明らかになっていない。だが、米国だけでも過去18年でどれだけの人がアマゾンで書籍を購入したかを考えると、大規模な展開が予想されると言われている。

出版社の賛同は得られるか?

これに先立ちアマゾンは、音楽CDを購入すると、その収録楽曲のデジタルファイルを無料で提供するというサービス「オートリップ(AutoRip)」を米国で始めている。

アマゾンのサイトでサービス名が表示された音楽CDを購入すると、購入後すぐに利用者のネット上のライブラリーにその音楽のデジタルファイルが追加される。こちらは対象を1998年以降とし、過去15年までさかのぼっている。

あるテクノロジー系のジャーナリストが、「ある日アマゾンで自分の音楽ライブラリーを見たら、何千曲もの音楽ファイルがあって驚いた」という記事を書いていたが、今回の新サービスも同様に皆を驚かせるのかもしれない。

アマゾンの説明によると、新サービスが始まると、利用者のライブラリーには1995年以降にアマゾンで購入した印刷書籍の履歴が表示されるようになる。ここでどの書籍がサービスの対象になっているのかが分かるという。

ただしこのサービスには問題がないわけでもない。

というのも、どの書籍をサービスの対象にするのかは出版社側が決めるからだ。出版社は価格に応じてアマゾンからロイヤルティーを受け取れるというが、3ドル以下という安い価格で電子書籍を販売することに抵抗を感じる出版社も少なくないと言われている。

これに対し、アマゾンは「過去に販売した書籍からもう一度収益が得られ、出版社の新たな収入源になる」と説明している。これを出版社側がどう捉えるかは今のところ分からない。

消費者の需要はあるのか?

一方、米ニューヨーク・タイムズは、米フェイスブックのシェリル・サンドバーグCOO(最高執行責任者)の著書『リーン・イン(LEAN IN)』を例に挙げ、このサービスについて解説している。

サンドバーグ氏の書籍の印刷版は12.81ドル、電子版は10.99ドルで合計すると23.8ドルになる。もし仮にこの本が新サービスの対象になった場合、合計金額は15.80ドル以下となる。

印刷書籍も欲しいが、普段はモバイル端末やノートパソコンなどで読みたいという人にとっては、ありがたいサービスと言えそうだ。

だがニューヨーク・タイムズは、「そもそも電子書籍に慣れたキンドルの利用者が、紙の本に郷愁を感じて余分にお金を払うのだろうか。果たしてはるか昔に買った本の電子版を切望する人がどれだけいるのだろうか」とも指摘している。

ニューヨーク・タイムズは、このサービスはまだ実験段階だと指摘している。いずれにせよ、アマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)は人々がまだ欲しいと思っていない商品を考え出して売るのが上手な人物。同氏が売ることができなければ、ほかの誰がやっても売れないだろうと同紙は伝えている。

JBpress:2013年9月5日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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