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「私たち抜きで決めないで」の悲願叶う 刑法改正の検討委員に性被害当事者が入りました

小川たまかライター
(写真:ロイター/アフロ)

2020年は目標の年だった

 新型コロナウイルス感染症の影響からついに延期が発表されてしまいましたが、2020年といえば「東京オリンピックの年」と意識していた人も多いのでは。

 私が日頃から親しくしている性暴力の被害当事者団体のメンバーたちにとっては違います。彼女ら彼らにとっては、2020年は目標の年でした。そしてその目標のうち、2つがついに叶いました。

 1つは、性犯罪刑法のさらなる改正に向けて、新たな検討会が設置されると決定したこと。

 そしてもう1つは、その検討会のメンバーの中に被害当事者が入ったこと。

中央が、性被害当事者として検討会委員に選ばれた山本潤さん。3月17日に行われた法務省への要望書提出の後の記者会見(筆者撮影)
中央が、性被害当事者として検討会委員に選ばれた山本潤さん。3月17日に行われた法務省への要望書提出の後の記者会見(筆者撮影)

2017年の改正時、見送られた論点がいくつもあった

 110年ぶりとなった2017年の大幅な改正は「厳罰化」と大きく報じられましたが、「時効の撤廃や停止」「暴行脅迫要件の緩和もしくは撤廃」など複数の論点は見送られています。

 改正には附帯決議がつき、必要があれば再度見直しを行うかどうかを3年後を目処に検討するとされていました。

 その3年後となる2020年を迎え、ロビイングなどを続けてきた被害当事者や支援者は、法務省の発表を心待ちにしていました。

 3月は、法務省が続けてきた実態調査の取りまとめが出る時期。また、3月12日には一審で無罪判決となった実父から娘への準強制性交等事件に逆転の有罪判決が出ました(名古屋高裁)。この直後、「刑法改正市民プロジェクト」の法務省への要望書提出が叶い、森まさこ法務大臣が前向きな発言をするなど、検討会設置の発表は近いと見通されていました。

3月12日、名古屋高等裁判所前で(筆者撮影)
3月12日、名古屋高等裁判所前で(筆者撮影)

「被害者支援側」の識者、前回より増える

 発表された検討会のメンバー17人は以下の通り。

【座長】

  • 井田良(中央大学教授)

【委員】

・被害者心理・被害者支援等関係者

  • 小西聖子(武蔵野大学教授・精神科医師)
  • 齋藤梓(目白大学専任講師・臨床心理士・公認心理師・被害者支援都民センター相談員)
  • 山本潤(性暴力被害者支援看護師・一般社団法人Spring代表)

・刑事法研究者

  • 木村光江(首都大学東京教授)
  • 佐藤陽子(北海道大学准教授)
  • 橋爪隆(東京大学教授)
  • 和田俊憲(慶應義塾大学教授)
  • 池田公博(京都大学教授)
  • 川出敏裕(東京大学教授)

・実務家

  • 金杉美和(弁護士・京都弁護士会)
  • 上谷さくら(弁護士・第一東京弁護士会)
  • 小島妙子(弁護士・仙台弁護士会)
  • 中川綾子(大阪地方裁判所部総括判事)
  • 羽石千代(警察庁刑事局刑事企画課刑事指導室長)
  • 宮田桂子(弁護士・第一東京弁護士会)
  • 渡邊ゆり(東京高等検察庁検事)

 前回の改正時、検討会メンバー12人のうち、被害者支援の現場に携わるなど被害者視点側に立った意見を述べたのは2人。今回は支援側が増えること、また被害当事者がメンバー入りすることがロビイングを続けてきた人たちの悲願でした。

 当事者が検討委員に加わるケースは、これまでも刑事司法制度や少年法の審議会で、交通事故や少年事件の遺族が検討委員となることがありました。

 今回、被害当事者としてメンバー入りしたのは、2017年の改正直後から3年後を見据えて活動をしてきた一般社団法人Springの代表理事で、性虐待の被害当事者である山本潤さんです。

 また前回に引き続き、被害者支援都民センターの相談員である臨床心理士の齋藤梓さんが入っているほか、性犯罪被害者心理の第一人者と言われる小西聖子精神科医、被害者支援に携わる上谷さくら弁護士の名前も。被害者の声を現場で聞く識者の数が増えた印象です。

 山本さんは検討会のメンバー入りについて「性暴力の実態を踏まえた議論をするために被害当事者が入ったことは評価できる一方、加害者治療(臨床)の専門家も入る必要があったと思う」とコメントしています。

昨年4月11日に初めて行われたフラワーデモ(東京)の様子(筆者撮影)
昨年4月11日に初めて行われたフラワーデモ(東京)の様子(筆者撮影)

検討会委員、女性が過半数だが……

 委員会のメンバーについて、ツイッターなどでは男女比はどうなのかという声も見られます。今回の検討会委員のうち、17人中12人が女性です。

 実は前回も、検討会では女性が過半数を占めていました(※末尾の参考画像1参照)。しかし、検討会後に行われる決議のための法制審議会部会では、男女比が逆転(※画像2参照)。法制審議会のメンバーの人選も、引き続き注視しないといけません。※念のために書きますが、女性だからといって全員が被害者に寄り添った意見を持っているわけではありません。また男性だから被害者視点がないわけでもありません。ただし性被害者支援の現場には女性の割合が多いのが実情です。

 今回の委員の選考は、当事者たちのロビイングはもちろん、2017年以降の#metooやフラワーデモなどによる世論の高まりが影響したことは間違いありません。3年前の改正時よりも議論は活発になり、報道も増えました。社会は少しずつ変わっています。

 当事者らは長く「私たちのことを私たち抜きで決めないでほしいのです」と訴えてきました。犯罪被害者の中でも特に沈黙を強いられてきた性被害当事者が、有識者らの議論にようやく加わったこと。これを前進と考え、さらに前に進みたいと思います。

【関連】

【性犯罪刑法・2020年までに】更なる改正に向けて当事者団体がキックオフイベント(2017年9月25日)

【参考画像】

(画像1)「性犯罪の罰則に関する検討会 委員名簿」(平成27年※2017年改正時の検討会メンバー/法務省サイトより)
(画像1)「性犯罪の罰則に関する検討会 委員名簿」(平成27年※2017年改正時の検討会メンバー/法務省サイトより)
(画像2)「法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会委員会等名簿」(平成28年※2017年改正時の法制審議会部会メンバー/法務省サイトより)
(画像2)「法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会委員会等名簿」(平成28年※2017年改正時の法制審議会部会メンバー/法務省サイトより)
ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

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