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ナチスが埋めた無数の地雷を、命懸けで処理させられた少年たち

渥美志保映画ライター

今年の年末は、実は「これぞ!」という大作映画がなく、その代わりにミニシアター系がめちゃめちゃ充実しています。特に来週、17日に公開される作品はどれもこれも面白い作品ばかり。ということで今回はその中の1本、デンマーク映画の『ヒトラーの忘れもの』をご紹介します。

ヒトラー好きな私はまんまんとタイトルにつられて見たのですが、実はヒトラーは全然登場しません。でも第二次大戦の知られざる歴史、実はデンマークでは封印されてきた歴史を描いた、すごく面白くて感動的なヒューマンドラマです。ということで、まずはこちらをどうぞ!

映画は、主人公の軍曹ラスムスンが、5年間の占領を経てデンマークから引き揚げてゆくドイツ敗残兵の隊列に罵声を浴びせ、兵の一人を容赦なく殴りまくる場面から始まります。彼が向かう新たな任務は、ユトランド半島の海岸にドイツ軍が埋めていった地雷を除去すること。デンマークは置き去りにされたドイツ兵たちをこれに当たらせるのですが、集められたのは何の訓練もされていない少年兵のみ。処理経験のある兵士がくると思っていたラスムスンは、それでも子供だからって容赦はしないという気持ちで、事に当たってゆきます。

ラスムスン軍曹(左)、どうでもいいでしょうが好みのタイプ
ラスムスン軍曹(左)、どうでもいいでしょうが好みのタイプ

さてこの映画でまずびっくりするのは、この事実です。つまりナチスドイツが連合軍上陸を阻止するために、ヨーロッパの北大西洋の海岸に数百万個もの地雷を埋めまくっていたこと。そして戦後のデンマークではその地雷除去を、軍に置き去りにされたドイツの少年兵たちにさせていたこと。

地雷除去についてはこれっぽっちも知りませんが、それが熟練した技術者にとってさえ恐ろしく危険なことは想像がつきますよね。にもかかわらずこれに当たっていたのは、年端も行かない子供たちで、しかもその方法というのが、砂浜に腹ばいになって匍匐前進しながら細い鉄の棒で砂地を刺してゆき、「カツン」と当たったら掘り返す……って、えええええ、そんな方法しかないんか!と言いたくなる、信じられないほどの手作業ぶり。この方法で、10人程度で4万5千個を除去って……マジで冗談かと思いますが、もちろん冗談じゃありません。

少年兵たち、冗談みたいな手作業で地雷除去中
少年兵たち、冗談みたいな手作業で地雷除去中

映画が描くのは、極端な言い方をすればその除去作業のみ。

舞台は本当にのどかな海と空の青が映える白砂の海岸で、子供たちはその海辺の掘っ立て小屋で閉じ込められるように暮らしながら、地雷除去に明け暮れます。まともな食事もなし。原稿書いてると分かりますが、お腹が減ると集中力って全然もちませんから、彼らが震える手で信管を抜き取る場面はそのたびにハラハラするし、唐突に起こる爆発は、周囲の景色が美しくのどかな分だけ恐ろしさが際立ちます。

身体が大きく腹からの怒鳴り声も迫力のラスムスンを前に思わず涙目で震え上がり、小さな虫に名前を付けて話しかけ、「お母さん、もういやだ」と泣きながら死んでゆく、彼らは本当に悲しいほど子供です。なのに、大人の戦争に巻き込まれて見知らぬ国に置き去りにされた末に、その地で理不尽にも「ドイツ憎し」のはけ口にされているわけです。

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ラスムスンは冒頭では「ドイツ人なんて人間じゃない」という感じで憎しみに溢れているのですが、目の前で大人より正直に泣き笑う少年たちのそうした姿は、「人間」以外の何者でもありません。そしてどんなに殴られ罵られようと、少年たちが頼れるのはラスムスンだけ。「軍曹、助けてください」「軍曹、許してください」とすがる少年たちの不憫さに、それまで葛藤してきたラスムスンが不覚にも涙を流してしまう下りには、見ている私も鼻の奥がツーンと痛くなりました。直情型で乱暴で子供っぽく、立派な部分はこれっぽっちもないラスムスンの葛藤と許しは、観客にすごーく身近に感じられると思います。

自分を「デンマーク人」「ドイツ人」など国で定義すれば、相手に信頼できる要素を見つけるのは難しいこともありますよね。でも個々の人間関係では、ぶっちゃけ国籍が同じでも全然信頼できない人もいるし、国籍が違っても強い信頼関係を作れる相手もいるものです。ラスムスンと少年たちに生まれる、疑似父子にも似た関係はまさにそれ。これをいかにも「いい話」として描かず、普通の人の、ごく当たり前の良心として描いているところもすごーくいい。ナチスドイツの罪をずっと背負わされていく世代の子供たちが、許してくれる人がいると知ることは、彼らが人生を生きていく糧になるに違いありません。

さて最後に。この映画を見て私が思い出したのは『ソ満国境、15歳の夏』という本です。太平洋戦争終戦間近に、ソ連・満州国境に置き去りにされた中学生たちの苦難について、その生き残りである人物が書いたものなのですが、実は彼らは軍が秘密裏に撤退するための囮に使われたのだという事実を知り、ものすごい衝撃を受けました。子供は国の未来そのものなのに、それを囮に使うって……普通の人のごく当たり前の良心が機能しないって、こういうことかもしれません。

『ヒトラーの忘れもの』

12月17日(土)公開

(C)2015 NORDISK FILM PRODUCTION A/S & AMUSEMENT PARK FILM GMBH & ZDF

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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