際どい終盤戦を制した藤井聡太叡王が初防衛。挑戦者が超えられなかった2つ目の関門
24日、第7期叡王戦五番勝負第3局が行われ、藤井聡太叡王(19)が挑戦者の出口若武六段(27)に109手で勝利して通算3勝0敗(1千日手)とし、叡王を防衛した。
先手番の藤井叡王が相掛かりを採用し、千日手局を含み4局連続での相掛かりに進んだ。
互角の中盤戦を経て、終盤戦は互いにチャンスのある展開だったが、藤井叡王が抜け出して即詰みに討ち取った。
これで藤井叡王はタイトル戦での連勝記録を13に伸ばし、歴代2位の羽生善治九段(51)に並んだ。
積極的な挑戦者
本局の出口六段は積極的だった。序盤で歩を取らせる代償として攻めの形を早く作り、動いていった。
この指し方は豊島将之九段(32)も得意とするもので、奇しくも前期の叡王戦五番勝負の決着局と同じものだった。
ABEMAでの勝率や手元のAIでの評価はやや藤井叡王に分があるとなっていたが、対局者の感覚は少し違かったのだろう。藤井叡王はずっと自信がなかったような口ぶりであった。
この形は、
・評価値と本来の形勢にややズレがあるか
・(先手側にとって)人間が指しこなすのに難易度が高いか
そのどちらかで、AIが示すほど先手に利がないと筆者は考えており、もしかしたら出口六段も同様の考えをもってこの作戦を採用したのかもしれない。
実際、藤井叡王に振れているようにみえた形勢もいつしか五分に近くなり、ABEMAで表示される勝率が上下しながら最終盤へもつれ込んでいく。
ここまでの3局(第1局・第2局千日手・第2局指し直し)はいずれも中盤で藤井叡王に形勢が傾いて一度も不利にならずに終局しており、その点で出口六段は1つ目の関門を突破したといえる。
地雷だらけの終盤戦
ポイントになった局面について、終局後にツイートした。
終局直後の余韻残る中でツイートしたものだが、精査したところ大体正しかったようだ。
その局面を将棋AIに検討させたものをご覧いただこう。
まず分かるのが、リードできる(マイナスだと後手が有利)手は2つしかないということ。
あとの手は先手に形勢が大きく傾くものばかりで、文字通り「地雷だらけ」の様相である。
しかも筆者が考えていた△7五角は候補にもあがっていない。これはこの手を指すと後手の玉が詰んでしまうから。つまり即負けになる大悪手なのだ。
言い訳(?)をすると、ABEMAの解説者も同じ手を示しており、人間的には第一感の手といえる。
出口六段が指したのは△4二銀で、これも先手へ形勢が傾く手だった。
しかし、
・△7五角(筆者の第一感。候補にも入っていない)
・△4二銀(実戦の手。第4候補で先手勝勢)
・△3二金(終局直後に出口六段が示していた。第9候補で先手必勝)
・△5七成銀(ABEMAの解説者が指摘していた。第3候補で先手勝勢)
あたりが人間的にパッと見える手であり、その全てが負けにつながるようでは秒読みの中で勝ちを手繰り寄せるのは相当に困難だったといえよう。
正解とされる手のうち、△5八金を感想戦で深く掘り下げていた。しかしこの手は相当に指しづらく、現実的に秒読みの中で指すのは難しかったと思う。
△4二角は気がつけば指せる類いの手ではあるものの、AIの読み筋以外で嫌な手があり、それをクリアしないと指せないので時間があれば指せるかも、という手だった。
第一関門を超えた出口六段だったが、第二関門を超えることが出来なかった。
勝ちが近づいたと感じた出口六段がその悔しさを表すのもわかる。しかし2つ目の関門を超えるのが相当に難しかったのも事実である。
次なる防衛戦へ
叡王初防衛を果たした藤井叡王だが、防衛戦は続いていく。
次に待つのは第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負。
相手は永瀬拓矢王座(29)である。
藤井叡王からタイトルを奪うのは誰か。有力候補として必ず名前があがるのはタイトル保持者の二人、渡辺明名人(38)とこの永瀬王座であろう。
序盤戦術に長けた永瀬王座は、藤井叡王を倒すための第一関門を超えてくるだろう。
そして充実期にある永瀬王座は、終盤にも無類の強さを発揮する。第二関門を超える力を十分に備えている。
五番勝負は6月3日(金)に開幕する。
本局のような熱い戦いを期待したい。