「賞味期限と消費期限、それに限界期限も表示して欲しい」という消費者の声に食品関連企業はどう対応するか
2018年12月12日付、朝日新聞の投書欄「声」に、「食品には賞味期限と消費期限の両方をつけて欲しい。さらに”限界期限”もつけて欲しい」という投書があった。
現在、食品の期限表示は、日持ちがおおむね5日以内のものに表示される「消費期限」と、美味しく食べることのできる目安である「賞味期限」の2種類がある。食品には、この2つのうち、どちらかが表示される。
投書した54歳の男性は、どちらか一方ではなく、「消費期限も賞味期限も両方、表示して欲しい」と。
なぜ、男性はこのように考えたのか。男性の妻が、「賞味期限が1日2日過ぎていると、おなかを壊しては大変と言って、使うことを許してくれないのだ」と。美味しく食べられる期限(賞味期限)だけでなく、安全に食べられる期限(消費期限)も並列して表示し、さらには「冷凍保存しても加熱しても安全に食べられない限界期限もつけて欲しい」とのこと。
投書の主を責めるわけではないが、ちょっと頭を抱えてしまった。賞味期限と消費期限の違いや、それぞれの意味については、中学校の家庭科で履修する内容だ。もっと小さい年齢の子どもたちにもわかるよう、農林水産省の公式サイトの食育ページにも説明がある。中学校で習うレベルのことを、50歳以上の人に教えないといけないんだ・・・ちょっと気が遠くなる。どこのどなたが「賞味期限が1日過ぎたものを食べたらおなかが壊れる」とおっしゃったのだろう。
投書した方が、配偶者に賞味期限の意味を理解して頂ければそれで一件落着では?とも思った。
この夫婦のように、賞味期限に対する家族間の理解の違いにより、言い争いになることは、案外多いようだ。全国の食品ロスの講演でも、よく話や悩みをお聞きする。
男性は、食品関連企業に対する提言として投書されたのだろうが、食品企業の立場から考えると、現実的には難しいと思う。
食品メーカーの立場から
筆者は食品メーカーに勤務した14年5ヶ月のうち、最初の5年間は、広報・栄養関連の業務に加えてお客様対応業務を兼任していた。北は北海道から南は沖縄まで、年齢的には下は5歳から上は90代まで、幅広い年代の方が問い合わせをして来られた。
中でも多い問い合わせの一つが「これ、賞味期限が過ぎているんだけど、いつまで食べられますか?」というものだ。特に年末の大掃除の時期にはよく電話がかかってくる。
食品メーカーは、自社の製造工場で製造したものに関しては、「だいたいこの期間まで品質を保つことができる」ということは言える。だが、製造工場から出荷した後の個別の品に関して、それぞれいつまで持つか、ということは判断しづらい。
食品が配送され、店舗や家庭に置かれる状況は、北海道と沖縄では、かなり違う。消費者が購入した後も、すぐ冷蔵庫や冷凍庫に入れたか、買い物してから酷暑の中、車中に置きっぱなしにされたかどうかで異なる。冷蔵庫がパンパンの家と、冷蔵庫に詰めるのは6〜7割くらいと適度な収納を守っている家庭とでは、保管状況が異なる。
パッケージの版下を作る立場から
食品のパッケージ(容器包装)には、表示すべき事項が多数ある。重要なのは、命に関わるアレルゲンに関する情報。中でも義務7品目(卵、小麦、乳・乳製品、落花生、蕎麦、エビ、カニ)は絶対だ。これが抜けていたら即、自主回収となる。
他にも賞味期限(アイスクリームやガムなど、一部の食品は省略可能)もしくは消費期限、栄養成分表示、計量法に基づく容量(グラム)、特定保健用食品(トクホ)の場合は消費者庁の定めた内容、容器リサイクル法に基づく容器の材質(紙・プラスティックなど)、原材料(重量順に表記)、保存方法、製造者や販売者の名称、住所や電話番号などの連絡先、JANコード(8桁や13桁のバーコード)などなど・・・
表示の文字のフォント数も基本8ポイントと決まっている(表面積が150平方センチメートル以下の場合は5.5ポイント)。
どの食品もパッケージに余裕があればいいが、小さい商品などだと、もうパンパンである。ご高齢の消費者から「文字が小さ過ぎて読めない。もっと大きい字で書いて」という要望もある。文字を大きくするなら情報を少なくしないといけない。情報が少ないと「これも書け」と言われる。
期限表示が1種類だけでも大変なのに、3種類は難しいのでは・・・。
販売者の立場から
一般消費者は「賞味期限」や「消費期限」しか目にしない。が、食品業界には、その手前に「販売期限」がある。これが来たら商品棚から撤去し、返品もしくは廃棄する。
そのもっと手前には「納品期限」なるものもある。これらは「3分の1ルール」と呼ばれ、法律ではなく、食品業界の商慣習で、年間1,200億円以上のロスを生み出している(流通経済研究所調べによる)。食品ロスの一因ともなっているため、この「3分の1ルール」を緩和する動きが2012年10月から始まっている。
スーパーやコンビニエンスストアなどの小売業は、アルバイトやパートなどの非正規雇用者に多くの業務を担ってもらっている。商品棚に商品を出す「品出し」もそうだし、棚から撤去するのもそうだ。彼ら・彼女らに、これ以上、余計な業務で負担をかけさせるのは忍びない。
ただでさえ「働き方改革」で労働時間は短くなり、労働者は減り、人件費は上昇している。
消費者の立場から
消費者は「権利」を主張することが多い。確かに「権利」はあるが、「責任」もある。世界消費者機構(IOCU)が定めた消費者の8つの権利と5つの義務だ。
(1)のように、与えられた情報をうのみにするのでなく、疑問や関心を持つ必要があるし、(4)のように、たった数日、賞味期限が過ぎただけで捨てることで、社会にどう影響があるかを考える必要もある。
「コンビニでも値引くサービスがあれば客と店の双方にとって良い」
投書主は、「コンビニでも、消費期限内のものを値引きするサービスがあれば、客と店との双方にとって良いと思う」と書いている。これはその通りだと思う。実際には、消費期限・賞味期限が来る、はるか手前の販売期限で、商品棚から撤去しており、弁当やおにぎりなど、デイリーと呼ばれる食品の、消費期限が近づいたものの見切り(値引き)は、全国の55,000店舗のうち、1%程度でしか行われていない(映画『コンビニの秘密』による)のが現状だ。
食べることは生きている限り続く
多くの人は、食品企業が作って販売した商品を購入して消費していく。食品の購買や消費行動は死ぬまで続く。「食べる」ことは、生きていく上での根本の営みだ。投書した方の配偶者が、賞味期限の意味を理解してくださることを祈っている。