成功者の物語を教えれば、新たな成功者が生まれる ハーバード大教授の研究から
5月25日、「海外では「日本人は “NATO” だ」と馬鹿にされている 創造のプロセスを理解しよう」と題する記事を書いた。NATO とは No Action, Talk Only の略である。
海外では日本企業は、専門家や他社のビジネスマンと話をするばかりで、新たなビジネスへの一歩を踏み出そうとはしない。どうやら彼らは、大きな成果を上げる機会を手にしようと考え、試行錯誤のうちでビジネスをつくり上げていこうとは思っていないようである。ドラッカーの言うように、ビジネスは、小さく始めて、大きく育てていかなければならない。予期せぬ障害に対し、その解決策を講じ、実際に試してみることで、ビジネスは創造されていくのである。
そうはいっても、人は失敗をしたくないものである。情けない自分の姿など、見たくはない。人から失敗者の烙印を押されることもまた、嫌なものだ。どうすれば失敗を許容し、それを乗り越えていこうという姿勢は生まれるのだろうか。答えは、成功者の物語から感動を覚えることである。
成功者の物語を教えれば、成功者は生まれる
マインドフルネス研究の第一人者、ハーバード大学のエレン・ランガー教授は、偉大な業績を上げた科学者たちの知能について、学生らに評価させる実験を行った。
学生を二つのグループに分け、Aグループには成果のほかに何の情報も与えず、Bグループには成果のほかに、そこに至るまでのプロセスに関する情報を与えた。
結果、Aグループは科学者たちの成功は普通では達成できないと評価し、Bグループは自分たちも頑張れば達成できるだろうと評価した。しかもAグループは、結果のみを追い求めようとする完璧主義者となってしまった。完璧主義は、イノベーションの大敵である。
両者の違いは、並々ならぬ成功のためには、失敗や困難を経て、試行錯誤の結果、前に進む姿勢が必要だと自覚したかどうかにある。成果は蓄積の結果であることは、誰しもが理解している。しかしその理解は、頭の中での理解にとどまり、行動には反映されない。行動に至るためには、そこに到達したいと、心を動かすことが必要である。
成功者の物語は、彼らにも自分と同じ、下積みの時代があったことを知らせる。いまの自分と同じ悩みを持ち、それを乗り越えたときには何らかの達成感があることを予感させる。たゆまぬ努力が、いずれ実を結ぶのだということを、彼らに思い起こさせる。自分も追い求め続ければ、彼のようになれるかもしれない。そのように、いわば心で理解することで、成功に至るための今日の一歩を踏み出すことができるのである。
成功者のイメージを変えることが先決である。成功者とは、失敗しない者のことではない。むしろ、失敗を積み重ねてきた者のことである。希代の発明家トーマス・エジソンは、二万個ものフィラメントを試し、市場に投入できる電球を発明した。つまりエジソンは、二万もの失敗を経て、ようやく一つの成功に至ったのである。エジソンは言う。成功の基準とは、24時間に詰め込める実験の数である。挑戦する数が多ければ多いほど、成功に至る確率は上がるのである。
泥にまみれる格好よさ
いつだって成功者は、その華々しい栄光の陰には、みじめな失敗や、人から後ろ指をさされた経験をしている。しかし、だからこそ成功者の物語は、人の心を打つ。諦めるしかない状況のなかで、それでも前に進もうという姿勢が、人を勇気づけるのである。
失敗は、してもいい。しかし、成果に至らなくてもよいのだというマインドでは、いけない。いつかは必ず成功するぞという、強い気持ちがなければいけない。ようするに、あくまでも今日の失敗は、未来の成功に至るためのプロセスと認識しなければならないのである。失敗しても成功しても同じだというのでは、小さな壁に直面したくらいでも、諦めてしまう。解決が難しい問題を、解決しないままに放置してしまう。できない理由を探すようになり、できるようになる可能性に目を向けなくなる。
成功したときの姿ではなく、ひたむきな姿を格好よいと思えるようになることが、イノベーションに向けたマインド形成の第一歩である。泥にまみれる自分、前に進み続ける自分を誇りに思えるようになれば、自己イメージを守るためにも、努力し続けることができるだろう。成功者の物語を知ることで、そのような格好よさを心に思い描くことができるようになる。